第8話 住処
こんにちは。
今回は正直、あまり書きたくはない内容だったのですが、物語上、必要だったので入れました。
エンタメとしてご覧ください。
「ふぁ~疲れたぁ……」
仕事を終えた寧々は自宅を目指して歩いていた。
(雪が止んだら、普通にお客様がたくさん来店してくださったし、女将さんの勘はなんだかんだで当たるんだよね~)
白いコートにロングブーツ、髪は結び直してポニーテールにした。
(はぁ……今日は久々にときめいたな。あんな真面目な人いるんだ。口は悪いけど……行動は優しかったな)
寧々の頬が赤く染まる。
そんな寧々の横を家路に向かう人々が足早に過ぎ去って行く。
空はすっかり暗くなり、繁華街の明かりが寧々の顔を照らしていた。
「でね~それでね~」
「ははは。なんだよ、それ」
寧々の隣を若いカップルが談笑しながら通り過ぎた。
「…………」
寧々の歩くスピードが少し遅くなる。
(コンパを断ったり、出会いを徹底的に避けていたけど、彼氏がいなくて、もう一年か……時々寂しくなるなぁ)
彼女は何の気なしに冬の空を眺めた。
「ん……?」
寧々の視界に流れ星が映った。
(は、早く、願いを唱えないと。えーと、もう一度、立冬龍太郎さんに会えますように。立冬龍太郎さんに会えますように。立冬龍太郎さんに会えますように)
寧々は目を閉じて祈った。
「なんてね。こんなことで会えたら苦労しないわよ」
寧々はふっと息を吐き出し、自宅に着いた。
木造二階建て、寧々と父母の三人で暮らしていたおんぼろアパートが火に包まれていた。
「い、いやぁぁぁあ。なにこれ~」
寧々が叫んだ。
消防車が来て、必死に消火活動を行っているのが視界に入った。
火は燃え上がり、アパートを覆い尽くしていた。
「一階のお婆さんの火の不始末らしいわよ」
「あらやだ。怖い」
やじ馬が集まり、燃え盛る火を眺めていた。
「あら、寧々ちゃんおかえり」
母の百合花が、呆然と立ち尽くす寧々に声をかけてきた。
「今日は早かったじゃないか」
父の幸治もいつもと変わらなかった。
「お父さんもお母さんもおかしいでしょ! うちが燃えてるんですけど~!? なんでそんなにのんきなのよ!」
寧々が声を上げて、ピシャリと言い放つ。
「寧々ちゃん、お家は無くなったけどね、アパートの方々は無事なのよ。安心した?」
母が寧々の顔をのぞき込んできた。
「そういう問題じゃない……あたしの服や、推し活グッズは……?」
寧々が燃え上がる火を見つめながら、絶望して足元から崩れ落ちていく。
「寧々。梅さんな、火を消そうとして、転んだんだ。わざと火を起こしたわけじゃない……」
父が寧々の肩にそっと手を置いた。
「……そっか。梅さんも無事なんだね」
寧々の脳裏に、いつも笑顔で挨拶してくれる梅の顔が浮かんだ。
──あら、寧々ちゃん、おかえり。今日も可愛いねぇ──
──わたしゃ、ひとりだけど、このアパートのみんながいるから寂しくはないよ──
(そっかぁ。梅さんは無事だったんだ、良かった……)
寧々の目元に涙が溜まる。
「とりあえず、なぁんもなくなっちゃったから、私の親友である桃子を頼ろうと思う」
母が笑顔を浮かべた。父とさえ結婚しなければ、どこかの社長と結婚していたであろう美貌の持ち主。
「そうだね、僕たち、一文なしだもんね。この際、少しの間お願いしようか」
頼りないこと、この上ない父。タクシー運転手。
(桃子って誰? もう好きにして……)
寧々は深く項垂れた。
ありがとうございました。
また次回お会いできるのを楽しみにしております。




