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第5話 えっ、脈あり? 

こんばんは。読んでいただければ飛び跳ねて喜びます涙

「あっ! あたしのスマホ! 鞄にないからおかしいなって思ってた〜」

 寧々がカウンターに置かれたスマホを手に取った。

 クマのストラップがコロンと揺れた。


「おまえ、落としたことにすら気づいてなかったのかよ」

 龍太郎が心底呆れた顔をした。


「えへへ。情けないことに、まったく気づきませんでした。あなたはスマホの恩人です。ありがとうございます」

 寧々が微笑みながら、龍太郎と視線を合わせた。


 髪の隙間から見える彼の額には、汗が滲んでいた。


(えっ……汗かいてる? この真冬に走って、追いかけてきてくれたの……う、うそ)


「まさか、あの後、あたしを追っかけて来てくれたんですか?」

 寧々は龍太郎の琥珀色の瞳を見つめた。


「まぁな。おまえ、雪の中でどういう移動能力してんだよ、速すぎだろう」

 龍太郎が息を吐き出した。


「…………」

 寧々の思考が止まる。


(こんな王子様があたしを追いかけてきた……? 普通に交番とかに届ければいいことじゃない? それをわざわざ、あたしの後を追うなんて……それってもしかして、じつはこの人もあたしのことが気になっている可能性があるんじゃない? まさかそんな、どうしよう!)


「じゃあ、おれは帰るわ。今から仕事だし」

 龍太郎が踵を返した。


「待ってください! あ、あの、今回のお礼と言ってはなんですが、今度、ふたりで食事にでも行きませんか?」

(王子はたぶん、あたしからの誘いを待ってる……そうよ、そうに違いないわ。あたしの勘はよく当たるのよ)


 寧々は龍太郎の背中に熱のこもった声をぶつけた。


「…………」

 その声に龍太郎が振り返って、寧々と視線を合わせた。


 彼の瞳が揺れていた。


(こ、これはやっぱり脈あり!?)

 寧々の胸が高鳴る。


「……断る。大したことしてねぇしな。じゃあな」

 龍太郎がくるりと背を向けて、店から出ていった。


(ガーン! あの様子だとイケると思ったのに、なにあれっ! 思わせぶりじゃない! でもかっこいい……)

 寧々は龍太郎が去ったドアに目をやりながら、胸の奥が熱くなるのを感じた。


 他のスタッフも龍太郎に見惚れていたのか、仕事中なのに彼が去った方角をじっと眺めていた。


「寧々〜。あんた、あんなどえらいイケメンと知り合いだったのかい?」

 寧々の隣に藤色の着物を着た女将がやって来た。


(……やっぱり見てたのね。相変わらずめざといな、女将さんは)

 寧々は顔をしかめる。


「でも、残念。ふられちまったみたいだねぇ……」

 女将が声のトーンを落として口にした。


「ふふっ。ただの知り合いだと思わないでくださいね、女将さん。あたしは彼と仕事に行く前に抱き合って来たんです。すでにそういう仲なんですよ」

 寧々は得意げに微笑んだ。


(本当は雪で転びかけて、結果として抱き合う形になっただけだけど……)


「なっ!? あんた、ついに生娘から卒業かい?」

 女将が目を丸くした。


(ひっ! 女将さん、やめて。いくらお客様がいないからって、スタッフみんなにあたしが処女ってバレるじゃんっ。これでも気にしてるんだから)

 寧々の顔が曇りだす。


「とうとうあんたも、大人の仲間入りさね……」

 女将がしみじみと語る。


「そうですね……色気ムンムンになってたらすみません」

 寧々は無理やり笑って見せた。


(な、なに言ってるの、あたし。見栄っ張りもいい加減にしなきゃ……)


「な、なんやて、ついにうちの看板娘の寧々に手を出しよるやつが現れたんか!? どこのどいつや? ついに寧々も結婚か?」

 大志郎まで、いつの間にか寧々の隣に立っていた。


(げっ! 結婚!? なんでそうなる!? 話がどんどん面倒くさいほうに……やばい。どうにかしなければ)


「それはまだ先のことなんで、その時はみなさんに報告しま〜す。お祝いしてくださいねぇ」

 寧々は思いっきり微笑んだ。


(あのさ……今頃になって気づいたんだけど、あたし立冬龍太郎さんの連絡先すら知らないよ……あぁぁ、もったいないことしたぁぁぁぁ)

 寧々は心の中で悶え苦しんだ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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