第4話 和菓子屋
寧々は繁華街にある老舗の和菓子屋で働いている。
専門学校でパティシエの資格をとったが、洋菓子より和菓子が好きで、この和菓子屋『大縁堂』で働いている。
大縁堂は大旦那、女将、その息子の若旦那、パート、アルバイトそして社員の寧々を入れて数名で営業している。
給料は高くはないが、寧々は大好きな和菓子に囲まれて幸せな日々を送っている。
製造と接客、寧々はどちらもこなす。
(なんとか遅刻は防げた〜! やったね!)
タイムカードを通した寧々はロッカーで着替える。
鏡を見ながら、肩下まである長い髪を一つに束ねて、丁寧にリップを塗り直す。
黒地に桜柄の上着、えんじ色の腰巻きをして、同じ色の三角巾を頭に巻いた。
寧々は和装の制服にすばやく着替えて、売り場のカウンターに立った。
もうすぐ開店時間だった。
寧々は赤と紫の和風のガーデンパラソルを眺めた。
彼女のお気に入りだ。
この店はカフェも兼ね備えている。
冬の日差しが降り注ぐ、和の風情を湛えた枯山水様式の坪庭。そこには小さな灯籠が静かに佇む。
古民家風のレトロモダンな建物。
(和菓子屋で働く夢が叶った上に、日曜日が休みってのもいいよね~! 友達とも遊べるし、ウシシ……)
寧々は口元にきれいなカーブを描いた。
「こら、寧々! 今朝は遅刻ギリギリだったじゃないか。慌てて出勤して、怪我でもしたらどうするんだい」
寧々の後ろから、女将の怒号が飛んできた。
「はい、気をつけます!」
寧々の背筋がぐんと伸びた。
「まったく。うちの看板娘なんだから気をつけな」
寧々の目に女将の濃いメイクが飛び込んできた。
「はい、気をつけます!」
寧々の背筋がさらにぐんと伸びた。
「雪で足元が滑りやすいから、気をつけるんだよ」
女将が寧々にそう言い残して、厨房のほうに消えていった。
「おはよう、寧々。はは、おかんは相変わらず。素直に心配してるって言われへん体質やなぁ」
寧々のそばに、この店の若旦那の大志郎がやって来た。
「おはようございます、大志郎さん」
寧々は大志郎を見た。大志郎は「和菓子職人です」と言わんばかりの白い調理白衣を着ている。
(うわぁ、また焼けた? スキーにでも行ったかな? それにまだ髪を切らないんだ。ワイルドだな、大志郎さん……本当に和菓子職人なのかな)
寧々は大志郎の焼けた肌と、長い黒髪から目が離せなかった。
「「いらっしゃいませ〜」」
複数人の声が店内に響いた。
「いらっしゃいませ〜」
寧々も元気な声を出した。
笑顔の寧々の前に大きな影ができた。
寧々が顔を上げると、龍太郎が立っていた。
「よう。ここまでスマホを届けてやったぞ」
黒いトレンチコートに身を包んだ彼は、和菓子屋で一番目立っていた。
ありがとうございました。
また次回お会いできるのを楽しみにしております。
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