第3話 忘れ物
こんばんは。良かったら読んでください^ ^
空から雪が降ってきて、ふたりの上で静かに溶ける。
「……ほんと危ないやつだな。はしゃぎすぎ」
男性の吐息が寧々の頬に触れる。
「……す、すみません。年甲斐もなく、はしゃぎ過ぎました」
寧々の心臓がバクバクと音を立てた。
(……こ、このシチュエーションはなに? こんなイケメンと? もう少しこのままでいたいけど、あたしの心臓が、すべての臓器が持たない)
寧々が慌てて、男性の腕から抜け出す。
「……そういえばおまえさ、さっきまで走ってただろ? 急いでたんじゃないのか」
龍太郎が寧々に視線を注ぐ。
(ぎゃあ。そ、そうだ、仕事だ! すっかり忘れてた~!)
「や、やばい! あたし、仕事に行きます」
寧々が急いで鞄を持ち直した。
「……おまえ、自分の仕事を忘れてたのかよ」
寧々の様子を見て、男性が目を細めて鼻で笑う。
「あ、あの助けてくださって、どうもありがとうございました。あのお名前を……」
寧々が男性に尋ねた。
「えっ……やだね。おまえに個人情報とか教えるの」
男性が顔をしかめた。
「ケチ……じゃない。そこをなんとか……ほ、ほら、あなたほどの美形なら将来、有名人になってそうだし……あ、今のうち、サインください」
寧々が鞄から小さなメモ帳を取り出し、男性に渡そうとする。
「おまえはアホか。さっさと仕事に行けっ! おれは芸能人になることはない」
男性がメモ帳を手で押し返した。
「ご、ごめんなさい、大事な個人情報を聞き出そうとして……すみません」
寧々が視線を落とし、鞄にメモ帳をしまう。
彼女がくるりと男性から背を向け、歩き出す。
「おれは立冬龍太郎だ。今度は転ぶなよ?」
寧々の背後から一度聞いたら忘れない、心地の良い声がした。
「り、龍太郎?」
寧々が振り返る。
「おまえは?」
龍太郎が寧々を見つめた。
「あ、あたし、葉山寧々です! 忘れないでください」
寧々が満面の笑みで答える。
「しばらくは忘れないかもな。ほら、行かないと遅刻するぞ」
龍太郎が寧々を見て微笑んだ。
「は~い」
寧々が雪の中を歩き出す。
(立冬龍太郎。龍太郎……龍太郎。わぁぁ、かっこいい〜! めちゃくちゃタイプ)
寧々は胸の中がほんのり熱かった。
「……やれやれ。あいつ、めちゃくちゃなやつだったな」
龍太郎が雪の上に視線を落とすと、ピンクのスマホが落ちていた。
「……これ、さっきまではなかったよな。あいつのか。転びかけた時に落としたのか?」
それを拾い、眺める龍太郎。
くまのストラップがコロンと揺れた。
「ふっ。あいつ、やっぱり変なやつだな」
少し楽しげに笑う龍太郎の姿。
「……しかたない。届けてやるか」
龍太郎はハンカチで丁寧にスマホを拭いた。
ありがとうございました。
また次回お会いできるのを楽しみにしております。
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