悪役令嬢プロデュース!(後)
<前回のおさらい>
我が主ベルン様の恋路を応援するため、カナセ嬢を悪役令嬢としてプロデュースした私。
行け、カナセ嬢!お二人の愛の障害となり、ハスカ嬢を燃え上がらせるのです!
今日は王宮の庭園で、ベルン様とハスカ嬢が花畑デートである。
事前にその情報を得ていた私は(私が手配したので当然だが)、秘密裡にカナセ嬢に情報を送った。
やはりと言うべきか、カナセ嬢がいらっしゃった。まずは私がOMOTENASHI。そうこうするうちに、花壇と言うには大きすぎる庭を散策するお二人を発見。
いい雰囲気にはさせませんよ。さぁ行けカナセ嬢!お二人の間に割り込むのです!
「兄貴のろくでなし。女心を弄んで。」
いきなり背後からリサが現れ、不覚にも驚いた私は手に持っていたティーポットを取り落としてしまった。
幸い中身は空のため、拾い上げながら答える。
「カナセ嬢の御心につけこんで利用していると言うことか?」
リサは驚きを隠さず言う。
「兄貴、カナセ様のこと気付いてたんだ。それでどうする気?」
「勿論責任は取る。」
カナセ嬢の言動からして、彼女はやはりベルン様に想いを寄せているのであろう。流石は我が主ベルン様。
とはいえ確かにリサの言う通り、ベルン様とハスカ嬢が結ばれた後のカナセ嬢をそのままという訳にはいくまい。私が責任もって、良い結婚相手を見繕う所存だ。
「そこまで考えてたんだ。兄貴やるじゃん、ちょっと見直したよ。」
リサは私の背中をバシッと叩いた。
痛いじゃないか、バカ力め!
その後のカナセ嬢の活躍も目覚ましかった。
私がベルン様情報を横流しする度、宮廷に参上してはお二人に割り込んで行かれる。時にはハスカ嬢のお宅にまで乗り込んで行かれたこともあるらしい。
「ハスカさん、ご自身に自信が持てないような方は、ベルン様の隣に立てませんわよ。」
「ハスカさん、見ていてご覧なさい。大公妃とはこのように振る舞うのです。貴女にこれができて?」
「ハスカさん、貴女ベルン様の御心にお応えする気はあるの?」
まさに悪役令嬢の鑑でございます。
「カナセ様、私サバナ大公国の貴族名を全部覚えました!」
「カナセ様、私上手な受け答えの仕方がわかってきました!」
……ハスカ嬢がベルン様よりもカナセ嬢になついている気がするのが若冠気になるが、ハスカ嬢は着々と次期大公妃への階段を上っているようだ。
私の采配が見事に当たったようで何よりである。
そして遂に、ハスカ嬢はカナセ嬢にこう告げた。
「カナセ様、私ベルン様の御心にお応えすることにしました!」
「……そうなの。」
カナセ嬢のお陰で、お二人は大団円を迎えられそうだ。なんと喜ばしい。
しかし傷心のカナセ嬢が気になる。彼女を巻き込んだ身としては、御心をお慰めし、早々に結婚相手を紹介するしかない。失恋には新しい恋が一番の薬なのである。
「カナセ様のお力添えで、ハスカ様は自信が持てたようですね。流石でございます。今はお寂しいでしょうが、すぐにカナセ様もご結婚となりますよ。カナセ様なら花嫁修業など不要でしょう。」
候補は既に、国内外から厳選してリストアップしてある。
カナセ嬢は静かにこくりと頷き、涙を一粒流された。私はその涙をそっとハンカチで拭ったのだった。
ベルン様の婚約式の日はすぐにやってきた。
「お二人共、おめでとうございます。」
お二人は緊張しながらも、嬉しさを隠しきれないご様子。
カナセ嬢もお祝いに参上している。傷心かと思いきや、何故か大変嬉しそうにはにかんでおられる。
ハスカ嬢が口を開かれた。
「ありがとうございます。これもガレル様とカナセ様のお陰です。」
皆お忘れかもしれないが、ガレルとは私の名前である。
「カナセ様の応援と、お二人の仲睦まじいご様子に励まされました。」
?
どういう意味?
「しかしガレルがカナセと付き合っていたとはなぁ。カナセ、想い続けた甲斐があったな。」
え?え?
ベルン様、何か誤解が生じているようですが……。
「それでお前たちは結婚はいつするんだ?まさかガレル、カナセを弄んで捨てる気はないよなぁ?」
ベルン様、凄まないでください。
カナセ嬢、誤解が、誤解を解いて……
「実は、ハスカさんからベルン様にお応えすると聞いた日、私も求婚されましたの。ガレル様は、花嫁修業も要らないからすぐにでも結婚しようと言ってくださって、私思わず涙が……。」
えっ、あれのこと?そんな解釈だったの?
「兄貴やるじゃん!責任取るって言ってたもんね。」
いつの間にか現れたリサが、私の背中をバシバシ叩いた。
何がどうしてこうなった。策士策に溺れるとはこの事か。
リサ、痛いから叩くのは止めなさい。
今や侍従長となった私の日記は、資料的見地からして後世かなりの価値が出るであろう。
しかし過去の己の失態を省みるに、この日記は私の遺骨と共に燃やされるべきである。特に妻には絶対に見せられない。
「あなたのプロポーズ、一生忘れませんわ。」
と言ってくれる未だ美しい妻には、貴女を悪役令嬢に仕立てようとしていましたなどと、言えるわけがないのである。
私だって、もう少し気の利いたプロポーズができたはずだ、というのが今の私の後悔である。