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91 アルトの用事①

「ウィ・ズ・く・ん!」


「……」


 ウィズがいつものように屋敷の庭でドラゴラムと遊んでいると、とびきりの笑みを浮かべたアルトがそこに現れた。ドラゴラムとじゃれていた手が止まり、ウィズの視線はアルトに釘付けになる。


 そしてアルトを捉えた瞳を細めた。


「何か御用で?」


 止まった腕に登り始めるドラゴラム。ウィズは訝し気な瞳でアルトを見据えていた。


 彼の様子からして、どうも碌なことを考えていない気がしてならない。ニコニコとこちらを見てほほ笑むアルトには気味悪ささえ感じるほどだ。


「それがねー、ちょっと来てほしいんだ」


 人差し指をびしっと天に指して、アルトはにんまり告げる。ウィズはその表情とテンションに若干顔をひきつらせた。腕から登り始めていたドラゴラムはすでに肩へと到達している。


「……何の御用ですか?」


 アルトのことが怪しすぎた。ウィズは顎を引いて疑いの視線をアルトに向け、そう告げる。完全に疑っているということをウィズが示してもなお、アルトの笑みは揺るぎない。それはアルトがウィズの疑念を楽しんでいるということに他ならないだろう。


 自分の両肩で楽しそうに跳ねるドラゴラムを支えながら、ウィズは立ち上がった。両手をドラゴラムに添えたままでアルトへ言う。


「流石に命に関わることは極力したくないんですけど」


「命? ハハハ、まさかそんなことないよ」


「……本当ですか?」


「君なら大丈夫! ……まあでももし落命したら立派なお墓を作ってあげるよ」


「……はぁ」


 アルトの言葉にウィズは肩を落とした。その拍子にドラゴラムがバランスを崩すも、ウィズの手のうちに収まって、そのまま嬉しそうに頬ずりをする。


 命の危険云々はともかく、これは断れそうにない。断れない案件を前に頑張って逃げ続けることは時間の浪費でしかないに決まっている。仕方がないので、ウィズは渋々アルトの話に乗ったのだった。



 *



 ウィズは広大な山の麓に来ていた。隣にはアルトが立っており、目の上に手を翳して山頂見上げている。


『疲労に効く香りの花?』


『そう。『オボロアカネ』っていうんだ。夕焼けのようなオレンジ色をしている花さ』


 背後でウィズたちが乗ってきた馬車の馬がうななく。


 そこは屋敷からそう遠くない場所にあって、『アーク領』に中にある土地であった。山の所有も『アーク家』らしい。


「特別な花を取りに行くっていうのは分かりますけど……。僕はともかく、アルトさんがわざわざ足を運ぶ必要はあるんですか……? こういうのは僕みたいな人の役割だと思うんですけど……」


 ウィズはチラリと隣のアルト伺った。彼は揚々と答える。


「やっちゃいけないわけではないだろう。それに」


 アルトの視線がウィズを貫いた。そこに何らかの意図を感じてウィズは意識を正す。


「理由はちゃんとある。入山してから話すよ」


 そう言ってアルトはコートを羽織った。白い服を着ていたから汚れるのを防ぐためだろうか。


 アルトがそう言うのならばそれまでだ。ウィズは彼の言葉にうなずく。それから二人は馬車をその場に置いて、獣道へ足を踏み入れた。


「ここは馴染みの場所でね。小さい頃はよくこの辺りで姉様と遊んでたんだ」


「そうなんですね」


 うっそうと茂る森の中で茶色を踏みしめながら、アルトは口を開く。ウィズは聞いているフリをしつつ、木の葉から除く青空を見上げては緑に視線を戻したりしていた。


 ウィズはアルトやフィリアの昔話など聞きたくはなかった。だから注意をそらした。アルトから、その昔日の話題から。それを積み重ねて記憶の一部にしてはいけない。堆積したそれは、いつかきっとよくないことを起こす要因となる。


「……そろそろ話してくれませんか」


 しばらく歩いたと思ったので、ウィズは立ち止まってアルトの背中に告げた。彼も少し遅れて足を止めると、ウィズの方へ振り返る。その表情には若干ながら笑みが含まれていた。中に奇妙な余裕が含まれていることも察せられる。


 このことから、アルトは現在進行形で何かを企んでいて、それは無事成功しているようだ。何をどう仕組んでいるのか分からないが、一応警戒するに越したことはないだろう。ウィズは密かに魔力の準備をした。


「んー。もういいか」


 アルトは両手を小さく広げてせせら笑う。そして続けた。


「数日前から、この森で動物たちの変死体が発見されている。その調査を君と俺とでやろうと思ってね」


「……」


 アルトの言葉に、ウィズは彼へ少し強めに視線を向けたのだった。

 

 

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