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81 魔術に対する何か

 ハーネスに見つめられながら、ウィズは心の奥底で逆に彼を見定めていた。


 フィリアとの隠し事といえば、彼女の本音――『アーク家』に継がされてきた『家訓』を彼女の代で無くそうとする目論見である。しかしそれだけでは『魔術師』という単語に反応したハーネスの態度とかみ合わない。ということは、また別の要件であるということだ。


 それに口ぶりからして『東棟』とも関係性があるのだろう。魔術によって大量の罠が仕掛けられたあの棟には、やはり何かが秘められている。そもそも『剣聖御三家』の『アーク家』が高度な魔術で構築された空間を有していること自体、裏がある証拠であろう。


(……とはいっても、"そっち"ことは本当に何も聞かされてねぇんだよなぁ……)


 ウィズはハーネスに値踏みされながらも、少しモヤっとした気持ちを感じていた。


 『アーク家』は剣術と相対するはずの魔術を利用して、何かをしようとしているのだろうか。適当に考えて思い浮かぶのは、剣術を使いこなす『アーク家』が戦闘で一番恐れるであろうブラックボックス――つまり、『アーク家』の理解が及んでいない領域への介入手段。


 華麗に剣術を捌く『アーク家』が戦闘において無理解であるものといえば、一番には魔術が挙げられるだろう。理解を及ばすことができないものに対し、策をたてようろするのは無理筋だ。


 そう考えると、あの『東棟』は魔術を理解するためのものか。しかしそれはハーネスの様子を見るに違っていることが分かる。もし魔術を理解しようとするものなら、真っ先に『魔法剣士』を目指すハーネスへお鉢が回ってくるはずだ。


 けれども先の戦闘を見るに、どうやらそのお鉢はハーネスへ回ってきていないようであった。『魔収束(アトラクト)』という魔法技術は見られたものの、『魔術』に不慣れな印象を真っ先に受けた。つまり、魔術を本格的に理解しようとしているわけではないとみて良いだろう。


 となると、手段として理解を前提にしないもの。――魔術に対抗できる魔道具の作成だとか、そこら辺になるのだろうか。


 そういえば、魔力を吸収し続ける剣が存在すると聞いたことがある。そんなものを使われてしまっては、魔力を扱い破壊力に変換する魔術師も型なしだ。


「その様子だと、聞いていないようですね」


 ウィズの表情を汲んで、ハーネスは目を細める。そしてさらにウィズへ顔を近づけると、何かを決意したように告げた。


「貴方になら、もしかしたら……」


「……?」


 ハーネスは言葉を詰めらせた。話すことを躊躇していた。


 しかしすぐに切り替えたように、強張った表情でウィズを見据えると口を開く。


()()の望みを――」


「――あら、何をお話しているのかしら」


 もう少しでハーネスが胸に秘めていたであろうことを聞けそうだったのに、女の声がそれを遮った。その声を聞いたハーネスはピクリと肩を揺らすと、すぐ声の方を向いた。


 ウィズも遅れて同じ方向へと視線を映す。そして目に映ったその姿に、顎を引いた。


「……姉様方」


「ハーネス、口が過ぎますわね」


 こちらへ歩いてきている人影が二つ。どちらもハーネス同様、艶やかな銀髪を持つ剣士――すなわちその二人は、フィリアと『アーク家』の次女であるエルシィであった。


 ハーネスを咎めたのはエルシィであり、彼女はウィズの方を睨む。


「忘れなさい。貴方は何も聞かなかった」


「は、はぁ……」


 内心で苦い顔をするウィズ。しかし外見上は困惑を隠せない表情で、素直にうなずいて見せた。


 その反応さえ気に食わなかったのか、エルシィは前髪の両横の胸の辺りまで伸ばしているおくれ毛を右手でいじりながら、ジロりと再びウィズを睨んだ。


(……オレ、何かしたか?)


 まるで本当にウィズを嫌っているような仕草だ。対面も昨夜の一回で、彼女に嫌われるどころか面識すらほとんどない状態なのだが。


 それも『家訓』に従った態度であるといえばそこまでだが、なんとなくエルシィのそれは違う気がする。肩身が狭い思いを感じながら、ウィズは視線を下げてゆっくりと半歩後ずさった。


 続けてエルシィは大きくため息をつく。それからようやく視線をウィズから外したと思うと、ハーネスの斬撃で抉られた庭を見渡した。


「はぁ……。それに随分とまぁ、汚してくれたわね……。お姉様に息抜きをして欲しかったのに、この情景じゃ台無しだわ」


 言い方に毒はあるが、本当に残念に思っているらしい。無残に散らされた庭を前に、肩を落としてエルシィの瞳に憂いが浮かぶ。


 そんなエルシィの隣でフィリアは優しく微笑むと、彼女の肩に手を置いた。


「ありがとう。気持ちだけで十分よ」


「お姉様……」


 エルシィはさっきまでとは打って変わって、しおらしく肩に置かれたフィリアの手に自らの手を重ねる。


 フィリアはそんなエルシィから目を離すと、凛々しい表情でウィズたちを見た。


「昨日はご苦労様。ウィズもソニアも、よくやってくれたわ」


 そう言うフィリアに、ウィズとソニアは頭を下げる。


 そして同時に、ウィズはフィリアの表情を密かに観察していた。


(昨日捕らえた山賊たちは遠隔魔法で皆殺しにしたはず……。その報告は『アーク家』にもいっているに違いない)


 しかしその内は表情からは悟れない。ハーネスはともかく、フィリアには確実に情報がいっているはずだ。極秘ということで一部の人間にしか知らさない方針なのかもしれない。


(今後、『アーク家』がどう動くか、ちゃんと見ておかないとな……)


 ウィズは二つ眼で、密かに彼女を見据えたのだった。

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