73 生き残りの存在
『ミーマワロア真教 秘天教派』――それはフィリアが邪教といったように、その出自である隣国『ミヘター国』でも危険視されていた。
その教えというのはウィズもあまりよく知らない。しかし誰も得しないようなものであったことは風の噂で聞いた。なんでも、幸福というのはヒトの間を行き来するものであり、『不幸に遭うこと』は『幸福を放出すること』という考えを持つ宗教であったらしい。
それに由来し、『ミーマワロア真教 秘天教派』は各地でテロのような活動を企てては実行し、多くの人を不幸に巻き込んだ。『不幸に遭うこと』は『幸福を放出すること』なので、放出された幸福を獲得するために。
「数年前、貴方とよく似た姿をした奴隷が『ミヘター』の見世物小屋で目撃されていた。悪魔の『依り代』としてね」
「……」
ウィズはフィリアを見る。まさか隣国の情報までよく調べ上げたなと感心する反面、ウィズは風向きが怪しいと感じていた。
貴族自体は奴隷扱うことに関しては誰よりも上手い。強いて言うならそれだけに長けている腐れ貴族も存在する。貴族と奴隷の関係は金を介した珍しくもない主従だ。なので奴隷という事実が発覚したところで、ウィズが護衛という仕事から降ろされることは恐らくない。
そもそも奴隷を扱うこと自体、最近の世論では批判され始めている。貴族は奴隷を扱うのが主である時代は終わりつつあるのだ。しかしながら未だに横行している地域は数が知れないけれど。
しかし問題はそこではない。ウィズが『ミーマワロア真教 秘天教派』の奴隷であったことが問題なのだ。
(どこまで知っている……?)
ウィズは瞳を細めてフィリアを睨む。フィリアはそのウィズの苦し紛れな表情に少し気圧されてしまったようだが、すぐ表情を改めた。
(この事実自体を知るのはオレの他いないハズ……。だが、奴らのしたことを誰かが把握していてもおかしくはない……)
貴族は奴隷を飼うことに抵抗はない。けれども――。
「貴方は『ミーマワロア真教 秘天教派』の奴隷として……いや、秘天教派に攫われた子供の一人。それで間違いないわね?」
「……はい」
フィリアの問いにウィズはすんなりと答えた。
ここまでの情報は別に知れていても良い。問題はそこではない。その攫われていた子供たちの多くが一夜にして絶滅した事件をどこまで知っているのか、それが重要だった。
フィリアは続けて告げる。
「そして秘天教派が行ったとされる『悪魔召喚の儀』。子供たちを床一面に悪魔召喚魔法陣が描かれた一部屋に集め、日付が変わると同時にその魔法陣を発動した。
しかし秘天教派、所詮は夢見がちな陰謀論者や、世間から必然的に吐き出された者たちが集っただけの組織。魔法陣は完璧であるはずがなく、悪魔は召喚されず、中途半端な術式により魔力が暴走。
部屋の中は魔力熱により蒸し風呂状態。さらには散った魔力由来の火花が魔粒子に結合して爆発。周辺を更地にした上に、負の魔粒子が散布された。その後、爆発で死んだ子供たちの執念が魔粒子と結びつき、さらには秘天教派内で使用されていた呪われた品々も巻き込んで、触手系の魔物を生み出した。
その魔物は秘天教派の建物を破壊しつくした。人も巻き添えにしてね。そこで生き残り、命からがら逃げきれたのが貴方を含め、三人」
「……!」
ウィズはフィリアの末尾の言葉にピクリと反応する。
ウィズを含め、生き残りは三人と彼女は告げたのだ。その言い方からするに、知られると一番面倒な事実まではさすがに辿り着けていないようだった。
(……これだけなら)
ウィズは若干の警戒を持ちながらも安堵する。まだウィズの核心までは到達できていない。それだけで十分だ。
ウィズは息を吐くように、半分疲れた音色で口を開く。
「僕を除いて……二人しか逃げられなかったんですね……」
「ええ。その内一人は脱走して数日後にその時の損傷が原因で死亡。だから現場から逃げ出せて、生きて今この世にいるのは貴方ともう一人ってことになるわね」
淡々と告げるフィリアの言葉をウィズは解釈していく。
何故こんなにも秘天教派におけるウィズの動向を知っているのか。それは彼女の言う生き残ったの一人に接触したのだろう。
まさかそこまで足跡を辿られるとは思わなかったけれど、問題はない。もしその人物から聞き取りした結果がこれならば、ウィズの真実を知る者は存在しないと考えて良い。
一瞬は焦ったが、蓋を開けてみればそれは秘密が破られることはないだろうという安心に変わった。ウィズは静かに瞬きをする。
(まあまさか、あの場所で生き残りがいたとはな……)
ウィズは少し安心したような表情を作りつつも、その内心は糸が複雑に絡み合ったように、解けない何かが詰まっていた。
(……)




