72 四人
「……」
ウィズが銀髪の彼に向けた人差し指は確かに殺傷能力を孕んだ熱線が込められていた。それを向けられた男の子はごくんと喉を鳴らし、ウィズの冷静な瞳を見る。彼の短く切られた銀の前髪が揺れた。
「ふーん……」
テーブルに肘をついて、ウィズの知らない女の子が興味深そうに二人へ目を向けた。彼女はクセなのか、前髪の両横に伸ばしている二本の銀髪の内、片方をその手で触る。
少年がウィズに攻撃してきたというのに、その場に空気の乱れは感じなかった。誰一人として動揺すらしていない。ということは、一連の出来事が全員が周知であったのだ。
つまり、これはウィズに斬りかかった男の子の独断ではないということ。
(またこのやり口か……。こうすれば手っ取り早いのは分かるが)
ウィズは以前『ガスタ・アーク』に斬撃を受けたことを思い出しながら、短く息を吐いた。まるで蛮族のように暴力に頼るのは、権力を持つ貴族としていただけないとは思う。
しかしながら『アーク家』は剣の強さでここまで成り上がってきた。そう考えると、武力で片付けて道を開いていくのはある意味元来から続く"伝統"なのかもしれない。『伝統』といい『家訓』といい、格式に囚われてばかりの家だ。
フィリアは『家訓』を無くすと言っていたが、それだけでは足りない気がする。それ以上に、このすぐ暴力に逃げる体制そのものを変えないと、いつまで経っても『剣聖』の呪縛から逃れられないのではないだろうか。
――いや、フィリアは確かに『家訓』を潰したいとは言ったが、剣聖の名に関しては何も言及していなかった。このように物事を進めることに対しては、何の抵抗もない可能性がある。
「ウィズ、指を下ろしなさい」
フィリアがウィズに告げた。ウィズは再び部屋の中を見渡す。
席に座る銀髪たちの腰は各々剣を腰回りに差している。そして初見の二人が座っていた席につく、護衛と思われる二人もそれぞれ武器を装備していた。それらを確認したことを分かるように動作で表すと、ウィズはゆっくり指を下ろした。
直後、ウィズに斬りかかった銀髪の少年は両腕と肩を下ろす。そしてウィズにほんのわずかに、小さく一礼すると、彼が座っていた席へと戻った。
「……?」
ウィズはその動作に疑問符を浮かべる。が、それもつかの間、フィリアの声がウィズへ放たれた。
「流石ね。こんなところでの奇襲にも対応できるなんて」
口元を緩ませてフィリアは言う。しかし感情が籠っていない棒読みで、誰が聞いても方便であることは理解できた。
「いえ。この男がどうというわけではないわ、お姉様。今のはハーネスがトロかったから」
しかしその常套句に異を唱えたのが初見の女の子。そう言ってハーネスと呼ばれた銀髪の少年が席についたのを見つめていた。
ハーネスは席に着くや否や、肩身が狭いといったように身を縮める。そんな彼を擁護するように、アルトが軽い口調でその女の子へ言った。
「そう言ってやるなよ、エルシィ。まだまだ成長途中。長い目で見るべきさ。ハーネスは特にね」
「……お兄様がそうおっしゃるなら」
アルトの言葉に少し口をとがらせつつも、その女の子――エルシィはそれ以上は何も言わなくなった。その様子から見れば分かるように、半ば納得していないようであるが。
そんなアルトにハーネスは申し訳なそうな視線を送った。アルトはそれに気づくと、小さく笑って彼を励ます。
(……姉様に兄様ねぇ)
ウィズはそこに揃ったそれぞれの四人の銀髪を見据えつつ、そのまま直立していた。どうやら彼らはフィリアの下の家族――もとい、次女のエルシィと末っ子のハーネスであるわけだ。『アーク家』の家族構成は一切聞かされていなかったが、いくつか子供らがいるのは予め想定済みだったので、特に驚くことでもない。
「座りなさい」
そんな他の肉親たちのやり取りを覆うように、フィリアはウィズへ命令する。ウィズは大人しく返事をすると、目の前の開いている席に座った。
四つの二つの視線がウィズに集い、ウィズは真っ直ぐにフィリアを見つめる。フィリアはそのまま告げた。
「名目上では、昨日の襲撃に関しての聞き取りをするためにここへ呼び出したわけだが」
「……」
フィリアは目を細める。
「昨夜から、貴方の素性について調べさせてもらった。ソニアとは違って、貴方の情報は全くの不明だったから」
そう言いながら、テーブルの上に置かれた資料を手に持つフィリア。同時に他の肉親たちもそれに続いた。
ウィズはそのまま無表情を貫く。『ウィズ』の素性を追ったところで、『ブレイブ家』との関係は繋がらない。これだけは絶対だった。
そもそも『ウィズ』の素性を調べるなどというのは無謀である。なんせ、『ウィズ』は――。
「まさか、邪教団体『ミーマワロア真教 秘天教派』上がりの奴隷だったとはね」
「――」
ウィズは目を丸くしてフィリアを見てしまった。どうして、この短時間でそこまで情報を探れたのか。それができたことがとても不可解で、そしてそれは不可能であると思っていたのに。
「あら。なんて顔してますの」
その驚愕した表情を見て、エルシィは優雅に笑ったのだった。




