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27 手加減と威圧


「……」


 部屋の半分が吹き飛び、天井の瓦礫のカスが床に散乱している。


 ――そこで立っていたのは、『ガスタ・アーク』であった。


 フィリアは呆然と立ち尽くしていたが、すぐに悔やみが入り混じった表情で顔を下に向ける。


 ソニアはウィズがいた場所へ恐る恐る手を伸ばしたが、やはりそこには誰もいなくて、差し伸べた手は空をかいた。


「フィリア、奴を回収しろ。『ソニア・バラン』、貴様もだ」


「……はっ」


 フィリアはすぐにガスタの言葉に敬礼すると、半分放心状態のソニアを連れてその場を離れて行った。


 部屋――の割には天井も壁も半分以上が吹き飛んでいるその場所で、残ったのはガスタとアルト、そしてローデウスのみ。


「……父上、お優しいことで」


 そう言ってアルトはヘラりと笑う。


 ――アルトはガスタが放った斬撃が、()()()()()()()()()()()であると見抜いていたのだ。


「若者に優しくするほどに、年をとられたので?」


「……アルト、貴様の話し方は改めろと、何度も言っている」


「はっ」


 ガスタの注意にアルトはいつもその場で鋭い礼をして反省を見せるが、このかた話し方を改めたことはない。


「にしてもウィズ……。この程度じゃあないか。楽しそうな奴だと思ってたんだがなぁ……今回ばかりは姉様の見誤りかな」


 ウィズが吹っ飛んでいった方を手を目の上にかざして見据えながら、アルトはふぅと微笑んだ。


 そんなアルトを目にして、ガスタはとても小さく笑った。――笑ったのだ。


 アルトはぎょっとして父の方へ向き直る。――あの父が、小さくても、それでも笑ったのだ。


「実に久しぶりだ。――()()()()()()()()のは」


「――」


 ガスタは腕をマントの中に仕舞う。


 その動作の中でアルトは、マントの内側が赤く塗れていたことを動体視力で見破り、父の言葉の正しさを目撃した。


「まさか……父上の斬撃があの程度だったのは」


「そういうことだ。一部はヤツの攻撃と打ち消し合い、打ち消されなかったものは互いに放たれた」


 ガスタは困惑と驚愕で表情がかたくなったアルトから背を向ける。そして背後の息子へとはっきりと告げた。


「フィリアは見誤ってなどいない。が、問題はそこではない。ヤツは私の攻撃に躊躇なく反撃した。完全に私の威圧(プレッシャー)を跳ねのけている。仲間の女が攻撃された程度の怒りで、私の威圧(プレッシャー)は打ち破れない」


「……なるほど」


 ガスタの言葉に、アルトが苦笑いを浮かべながら目を細める。その返答を聞いたガスタは歩き出した。


 遠くなっていく父の背中に、アルトはそのまま告げる。


威圧(プレッシャー)を跳ねのけられた要因としては、二つ考えられる。一つ目は元々姉様の護衛に対して相当の覚悟がキマっていたか。もしそうならとんだ忠犬だ。そして二つ目は――」


 アルトも踵を返して、イスにかけておいたマントを羽織った。


「――元々、最初(ハナ)っから父上と一戦構えるつもりだった、か」




 ◇




「……」


 ウィズは乱れた芝生の上で、仰向けになって星が煌めく夜空を眺めていた。


(……クソが)


 ガスタの斬撃を受けたウィズは屋敷内部から吹っ飛ばされ、大きな庭の一角に投げ出されることとなった。


 斬撃に対してウィズは『緋閃(イグネート)』を放ち相殺を試みたが、斬撃で空間が歪んだ故に、角度が狂って完全に防御できなかったのだ。その分、ガスタの腹に『緋閃(イグネート)』をぶち込むことには成功したが。


(完全に手加減されていたな……。やはりあの流れは『アーク家』風の忠告か)


 手加減とはいえ、ガスタの程度を推測しやすくなったのは良しとしよう。


(あー……それにしてもソニアをかばったのはマズかったか……)


 それよりも気がかりだったのはウィズ自身の行動そのものだった。


 あの時、ソニアが斬られるのをスルーしておけば、ここまでの事にはならなかった。しかしウィズは背中にはアルトとローデウスの視線が向けられていた。


 彼らに監視されている以上、善良を演じなければならなかった。それが例え間抜けでも。


 もしあの攻撃をスルーしていれば、もっと穏便に事を済ませていただろう。しかし。


(平穏……ってのもここじゃ無理な話か)


 ウィズは体を起こして、傷の具合を確かめる。所々にある切り傷がヒリヒリするが、特に致命傷は見つからなかった。


「……無茶をしたわね」


 フィリアの声がしたので、ウィズはその方向へ向く。


 屋敷の方からランプを手にしたフィリアとソニアが歩いてきていた。ウィズは服やズボンに引っ付いた泥を落としながら立ち上がる。


「ウィズーっ!」


「ぐえっ」


 ウィズが軽々立ち上がるのを見て、その体に致命的な傷はないと安心したのか、ソニアが飛びついてきた。


 栗毛色の髪がふわりと舞い、ソニアの手から離れたランプも宙を舞う。後にフィリアがそれをキャッチした。


「ごめんね……! ボクを庇ったから……」


「いや……無事でよかったよ」


 抱きついてきたソニアを腕の中に入れつつ、視線をフィリアに向けた。フィリアは一瞬だけ目を反らす。


 なるほど――ウィズは理解する――あのガスタの手荒な忠告も『アーク家』の家訓に従った結果というわけだ。確かにあの態度ならば、他からナメられることはないであろう。


 まあ色々と想定外なことはあったが、とりあえずは『アーク家』に侵入することはできたのだ。良しとしよう。


 あとは『アーク家』やソニア絡みの厄介ごとをこなしながら、今後来る『セリドア聖騎士団』総長選定の件が進むことを待つのみ。


 腕の中にいるソニアがウィズを見上げた。


「あのさウィズ、あの時のこと覚えてる……? ボクが強くなるために色々教えてくれるっていう……」


「もちろん。……ここは良いところだよ。場所としては教えるのに事欠かないと思うな」


 そういえばそんな話をしたな、と思いつつウィズは笑って答える。ソニアも嬉しそうに笑った。


「……体の調子も良さそうだから、屋敷に戻るわよ」


 二人の様子を遠巻きに見ていたフィリアがランプを放り投げる。ウィズは慌ててそれをキャッチした。


 それを確認すると、フィリアは踵を返す。


 それを見たウィズとソニアは互いに目線を合わせた後、フィリアの後を追った。


「……屋敷、結構壊れちゃいましたね」


「問題ないわ。修繕魔法を使える者がいるから、明日には直っているはずよ」


「さすが『アーク家』ですね……」


 他愛のない話をしながら、三人は屋敷へと戻っていったのだった。


 

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