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衰退世界の夢想蝶  作者: 小柚


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第2章(2)

 ここ十年の混乱には、原因がある。

 原因だけは、はっきりしている。

 だからこそ、絶望的だった。

 原因不明なら、まだ希望も残っただろうに。

「真実はひとつ、ユビグラムに書かれているように明らかだ」

 読んでいた小説の主人公が言った。

 ――ああ、明らかだな。

 馬鹿らしくなって本を閉じる。

 俺が生まれるずっと前、この世界には“神様”がいたらしい。

 その力で、奇跡を起こす者たちがいた。

 傷を癒し、火を灯すだけだったが、人々はそれをありがたがった。

 だがそのうち医者や科学者が、それ以上のことをやってのけるようになった。

 神は、段々と要らなくなった。

 完全に消えたのは、“ユビグラム”の発表以降だ。

 ――世界は暗号で構成されている。

 解読し、書き換えれば、存在を作り、消せる。

 神の奇跡を科学で証明したのは、シフト・クラウジウスという名の博士だった。

 神の奇跡は、ただの暗号の書き換えだった。

 神はいない、と証明されてしまった。

 世界は一変した。

 医療、農業、娯楽。生命すら作られた。

 神の領域に手を伸ばした科学者たちを、″ユビグラム解析師″と呼び、皆が尊敬した。

 そんな中――異変が起こった。

 ユビグラムにはまだ、未解読の部分がたくさんあったが、その領域が一挙に書き換えられた。

 人間の技ではない。

 “世界の冷房のスイッチが切られた”。

 誰かが言い始めた。――神が怒ったのだ、と。

 皮肉なことに、神を否定した理論が、今度は神を証明してしまった。

 神を崇めていた勢力が復権し、ユビグラム解析師を糾弾している。

 政府は右往左往し、現在に至る。

 俺は深い息をつく。

 神がいるかいないかなんて、どうでもいい。

 もし神がいて、これをやったのだとしても――だから何だ。

 神の怒りを鎮める? ユビグラム解析師に罰を? 

 そんな単純なことだろうか。

 ユビグラムに関係がない、動植物まで滅んでいるんだぞ。

 神がそんな細かいことを考えているとは思えない。

 ″飽きた″、そんな感じじゃないだろうか。 

 要らなくなった。だから捨てよう。

 そのくらいのノリじゃないのか。

 ゴミ箱に捨てられたゴミを、わざわざ漁ったりしないだろう。

 神が滅ぼそうと決めたなら、もう何をやったって駄目だ。

 世界は滅ぶんだ。

「チャフちゃん。婆ちゃんお団子食べたよ。いつもありがとうね」

「おう。しっかり食って、長生きしようぜ」

 カルラ婆も、ハナ婆も、涙を浮かべて笑った。

 天国というのがあるのかないのかは知らないが、団子を食べるのを自重したくらいで、何か変わるはずがない。

 だから、婆ちゃん。わざわざ餓死なんてすんなよ。もっと安らかで、穏やかな、幸せな死に方を目指そうぜ。

 団子だけじゃどうにも腹が減る。俺は本を被って目を閉じた。ラジオの声が耳に届く。

『……人類最大の危機を食い止めるために、我々は力を尽くして……』

 やめろよ、無駄なカロリーを使うなよ。熱く語るその声はひどく耳障りだった。


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