終章(2)
…… ……
「チャフ。私はあなたに、夢を見せてあげることができる」
暖かな光の中で、少女の声が響く。
「夢?」
問い返すと、少女は、ええ、と頷いた。
「幸せな夢。あなたが一番幸せだと思える夢よ」
聞いたことのない声だ。
だが、目の前の彼女の声なのだろう。
何言ってんだ、俺。
大切な人の声を、聞いたことがないはずがないだろ。
俺は握った手に力を込めた。
「そんなことより帰ろうぜ。やっと会えたんだ。話したいことが山ほどある……」
彼女は、なぜか悲しそうな顔をして、ゆっくり首を横に振る。
「私も、それでいいと思った。そうしたいって思った」
――でも、違う。
ひどく悲しい顔だった。
胸が張り裂けそうになる。
「これは単なる、私の夢。私のわがまま……一瞬だけ、許してね」
彼女は俺の胸に飛び込んできた。
ふわりと黒髪が揺れる。
だが――
俺が期待していた、あのひだまりの匂いは……しない。
「これで、お遊びはおしまい。寂しいけど、お別れの時間よ」
――あなたの思う
“一番幸せな夢”を、私に見せて。
幸せ……?
俺の、一番幸せな夢……?
『母さんにとっての幸せって、なあに?』
遠ざかる意識の中で、
幼い頃の俺の声が聞こえた気がした。
それに答える母の声も。
『母さんにとっての幸せはね……』
…… ……




