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衰退世界の夢想蝶  作者: 小柚


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終章(3)

 辺りは薄暗い。

 俺は何かを抱きかかえたまま、うずくまっていた。

 身を起こそうとして、後頭部をぶつける。

 えっ、狭い?

 どこだ、ここ。

 目の前に、茣蓙が見えた。

 見覚えがあるぞ、ここ。

 そう思った瞬間、腕の中の存在に気付く。

 イブがいた。

 くりんと毛先のカールした赤毛を震わせ、俺の胸にしがみついている。

 そうか。ここは会議室、教卓の下だ。

 勉強会の後、確かキューの野郎に仕事を押し付けられて――

 イブと二人で居残りしていたんだっけ。

 ミシミシと、不穏な音がする。

 そうだ。サファーが

「地震の実験をしたい」

 なんてわがままを言ったんだった。

 こんな急に始めるなんて、相変わらず非常識だよな。

 イブは地震が死ぬほど苦手なんだよ。

 可哀想に、こんなに震えて……。

 俺はイブのうなじに顔を近づけた。

 ふわりと、ひだまりの匂いがした。

 イブ。

 俺、なんだか悪夢を見ていたんだ。

 お前を見捨てて逃げる悪夢だ。

 あれは夢だよな。

 だってお前は、ここにいる。

 ここを出たらさ、一緒に暮らそうぜ。

 ばーちゃん?

 そんなの気にすんなよ。

 ライズ?

 あいつこそ関係ねぇよ。

 お前さえ良かったら……。

 地震は止まない。

 ミシミシという音は、どんどん大きくなる。

 おいおい、あのババア。実験失敗したんじゃねえか?

 話が違うぞ。

 こんな大地震なんて聞いてない……。

 天井から舞い落ちる砂塵の量が増え、壁にまで亀裂が走っていく。

 イブの悲鳴が響く。

 俺は強く彼女を引き寄せた。

「大丈夫。

 俺がついてる。大丈夫……!」

 耳元で囁く。

 周囲は崩れ始め、騒音で声は届かないかもしれない。

 それでも、俺は囁き続けた。

 さらに大きな崩落の音。

 バキリ、と頭上で聞こえた瞬間、背中に圧迫感が走る。

 駄目だ。

 このままじゃ、死ぬ。

 死にたくない。

 だって俺はイブと――

 絶叫を上げるイブに、頬を寄せる。

 聞いてくれ、イブ。

 聞いてくれよ。

「イブ……俺……ずっと。

 ずっと……お前が、好きだった……。

 暮らそうぜ。一緒に。

 ずっと。ずっと…………」

 声は、届いただろうか。

 砂が流れ込み、俺たちの周りは次第に埋まっていく。

 背中に、さらに重い圧力。

 息ができない。

 苦しい。

 苦し……。

 ザラザラ

 ザラザラ

 ザラザラ……

 最期に俺が感じたのは、骨が砕ける衝撃と――

 イブと体が混じり合う感覚だった。

 

『あなたにとっての幸せって、なんですか』

 

 ――これは、

 幸せを探し続けた青年の物語。

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