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衰退世界の夢想蝶  作者: 小柚


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第4章(2)

「おはよー、チャフ」

「おう、おはよう」

 地上に向かう道すがら、イブに出くわした。軽く挨拶を交わし、俺たちは並んで歩き出す。

「今日も朝班かなぁ〜。最近、連続でしんどいねぇ」

 あはは、と笑う彼女。

 俺は、その笑いにふと違和感を覚えた。

「そうだな」

 すぐに返事はしたものの、なぜかそこで会話が途切れる。珍しいことだった。

 いつもなら、ばーちゃんの様子や兄の話など、他愛もないおしゃべりが尽きない。だから俺は、自分から話題を振らなくてもいいと思っていた。

 しかし今日は違う。

 イブは落ち着きなく視線を泳がせ、壁や天井を見上げたりしている。

 そのまま会話のないまま、地上への扉に着いた。

 いつものように俺が重い扉を押し開け、イブに道を譲る。

「ありがと〜」

 差し込む朝日が彼女の顔を照らす。

 その瞬間、イブは俺を見て、あからさまに赤くなった。

「どうした?」

「な、な、なにが?」

 狼狽する彼女の頬はさらに朱に染まり、ついには額に脂汗まで浮かびはじめる。

「おい、熱でもあるんじゃ——」

「ないよ! ないない! はやく行こ!」

 そう言い捨てて、彼女は階段を駆け上がった。

 俺は首を傾げながら、その背を追う。

「今日は湿度が高いから、外出はなしね」

 整列した俺たちに、ライズがそう告げる。

 安堵と落胆が入り混じった空気が広がる。

 ——それなら早く言えよ。

 仲間たちは美味な顔のまま散っていった。

「チャフとイブ、ちょっといいかなぁ」

 呼び止められ、俺たちは机の前に並ぶ。

「何ですか」

「きみたちには参加してもらおうかなぁ」

 首を傾げる俺たちに、ライズは口元だけで笑った。

「今日、勉強会をする予定なんだ。きみたちには是非来てもらいたいなぁ」

 十時に会議室へ集合ね。

 俺は素直にうなずいた。

 勉強会か。前の続きが聞けるのだろうか。

 イブと一緒にいられるし、悪くない。

 ——そう思っていたのだが。

「私、洗浄室に寄って帰るから……また後でね!」

 地下に戻るや否や、イブはそう言って駆け出した。

 返事をする間もなく、姿は消える。

 仕方なく、ひとりで部屋へ向かった。

 やっぱり変だ、今日のイブ。

 何かあったのか?

 俺は何もしていないよな?

 考えを巡らせていると、ある可能性がじわりと浮かび上がる。

 ……まさか。

 シブレットのやつ、余計なことを言ったんじゃないか?

 顔に一気に血が上る。

 俺は水筒を頬に押し当てた。

 落ち着け。落ち着け、俺。

 いや、モモカのほうか?

 モモカがイブに、何か吹き込んだんじゃないか。

 シブレットが俺にしたような話を。

 十分あり得る。

 火照りは増すばかりで、水筒の水までぬるく感じる。

 もしそれが当たっているなら、イブの態度はどういう意味だ?

 避けている?

 いや、嫌われたわけじゃないよな。

 どういうことだ。

 どういうことなんだよ。

 脳はそれ以上先へ進もうとしない。

 思考はぐるぐると同じところを回り続けるだけだった。

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