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承ー【3】

「ニールは? ロイドは見つかった?」

 扉を潜るやいなや、甲高い声に狙撃される。女が二人、俺たちの前に立ちふさがっていた。サリーとミレーニア、いつもつるんでいた青年組のメンバーだ。

「いや、その……」

 俺が困惑してる傍らで、シブレットは二人を押しのけてライズのもとに向かう。

「何か見つかった?」

 問いかけに対し、彼はゴトゴトと装備を置いていく。俺も慌てて追いつくと、同じように装備を置いた。

「このカメラは?」 

 ライズはひとつ多いカメラを手にとって、起動させる。

「ありゃー、これはいけないなぁ」

 二枚目を目にしたんだろう、眉間にしわを寄せて言った。

 俺は自分のカメラも起動して、あの写真を表示させる。

「これも……」

 ライズに渡そうとして、背後から気配を感じる。身構える間もなくカメラをひったくられた。

「やめろ、それは」

 駆け出すシブレットに、ミレーニアが飛びかかる。俺はその攻防を呆然と見ていた。その間にサリーは手元の映像を凝視し、

「いやあああああ!」

耳をつんざくような悲鳴。同時に放られたカメラがゴトリと床に落ちた。

「どうしたの、サリー?」

「だからやめろって……」

 女が友人に駆け寄ったところで、シブレットは手早くカメラを手繰り寄せる。画像を確認してから、それをライズに提出した。

「そっかぁ、ダメだったかぁ」

 ぽつりと漏らした言葉は、いつも通り淡白だ。やっぱりこの結末は予想通りだったのか。

「あああああああ!」

 静かに嗚咽を漏らしていた女が突然起き上がり、再び絶叫をあげる。

「お、おい、大丈夫か……」

 俺たちの隙間を掻い潜り、サリーはものすごいスピードで机に飛び乗ると、ライズに掴みかかった。

「あんたのせいよ! あんたのせいで、ニールは……」

 机上の荷物がバタバタと落ちる。その音で俺は我に返った。なにやってんだ、この女。

「やめろ、落ち着け!」

 流石にシブレットと俺のふたりに掴まれては、女の腕力ではどうしようもない。簡単に引きはがせはしたが、コイツの腹の虫は収まらないらしい。

「あんたが言わなけりゃ、ニールは培養肉なんて食べなかった! あんな勉強会なんて参加しなかった!」

「サリー……やめて」

「罰当たりのユビグラムに関わらなくて済んだのに!」

 友人の静止も聞き耳持たず、サリーは怒鳴り続ける。

「ニールはここの誰よりも働いていたわ! どうしてニールが死ななきゃならないの! おかしいわ、おかしいわよ!」

「何の騒ぎですか?」

 地下から数人の男女が現れる。ライズ親衛隊の奴らだ。リズがメガネを持ち上げて状況を視察する。

「事情はわかりませんが……とりあえず、来なさい、サリー」

「離してよぉ、悪いのはあいつよ、無能なリーダーのせいよ! ニールを返してぇ!」

 悲痛な叫びは、重いドアの音で遮られた。残されたミレーニアは泣き崩れる。シブレットは彼女の肩を抱き、ゆっくりと立ち上がらせた。

「部屋に帰ろう、な」

 彼女を連れて階下へ向かう。俺も続こうとした時、背後から声がした。

「彼女はひとりで戻れるでしょお? ふたりはまだ、話が終わってないよ」

 びく、とミレーニアの体が震える。俺は振り返ってライズを見た。カメラをいじっているその姿は落ち着き払っていて、さっきのことなどもう忘れてしまったようだった。

「わ、わたし、大丈夫ですから……」

 女はオドオドとそう言い残し、足早に地上を後にした。

 頭を掻くシブレット。軽くため息をついて俺の隣に戻ってきた。

「話って……」

 問おうとした俺の声に被せて、ライズは言った。

「ねぇ、ぼくさぁ……遺留品は持ち帰るなって言ったよね」

 ライズは手元のカメラをいじり続けて、こちらに目を向けようとしない。何だ、怒ってるのか? シブレットと顔を見合わせてから、俺は口を開く。

「すみません。でもそのカメラは重要だと思ったので」

「うん、まあ、そうだねぇ。それもまあ、いいか」

 なんだか歯切れの悪い返事をして、ライズはようやく顔を上げた。

「この写真をどう思う?」

 そう言って差し出してきたのは、ニールの遺体が映る写真。

「どうって……」

 俺たちはまた顔を見合わせる。あのデカイ獣に襲われた割には、綺麗なもんだなとしか思わない。ライズはため息をついた。

「あの獣は、なんで彼を殺したんだと思う?」

「なんでって……縄張りに入ったとか、お腹が空いてたからとか」

「そうだよねぇ、普通ねぇ」

 ライズは不満そうに、再度写真に目を落とす。俺の頭に何かが引っかかった。″奇妙だ″……あの時、俺もそう思ったんじゃないか。反射的に俺は口を開く。

「お腹が空いたってのはおかしくないですか。ニールさんの遺体は綺麗に残ってました」

 そう言って、自分で納得した。そうだ、遺体が綺麗なのは食い荒らされてないからだ。普通俺たちは、捕った獲物は食べる。食べるために殺す。食べないなら、余程の理由がない限りわざわざ殺したりなんてしない。

「ロイドさんを食べてお腹いっぱいだったとか」

「ロイドの遺体は近くに無かったんでしょ? おいしく食べて満腹になったあとにわざわざ追っかけてニールまで殺すかなぁ? お腹痛くなっちゃうよぉ」

 俺たちは口をつぐむ。確かに変だと思ったのと、不謹慎な表現に閉口したのと半々の理由で。

「縄張りってのも、ねぇ。確かにふたりは奥には行ったろうけど、ニールはロープの内側にいたんでしょ?」

「はい、俺たちは奥には行ってませんから」

「縄張りっていうなら、ロープ側はぼくたちの縄張りだよねぇ。それはこの犬熊くんも知ってると思うんだぁ」

 ライズはもうひとつのカメラを起動する。ロイドに食らいつく巨体を見つめて言った。

「縄張りに入られてお怒りなだけならまだいいんだけどねぇ」

 ため息をつくライズ。

「このお怒りは、神様のお怒りより厄介かもしれないよぉ」

 そうぼやく表情にはなんだか、哀れみの色が混じっているように感じた。


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