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二十歳で行き遅れと嘲られた辺境伯令嬢ですが、二人の王太子に一途に求められています。  作者: 奏楽雅


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第4話:り、り、領地に戻ります!

「セルジュ!これは何事?」


玄関にいたセルジュやメイドが、私に気づき駆け寄って来たところで尋ねる。


「お嬢様、お聞きしたいのは私の方です。

これはプレディアウス王国クロード殿下よりの花束でございます」


「ああ、やっぱり…」


「お嬢様!」


「国王陛下よりプレディアウス王国。王太子から正式に婚姻希望の打診があったと伝えられました」


「何ですって…お嬢様に?プレディアウス王国。王太子が?

昨日まで戦っていたような相手ですよ。しかも直接剣を交えていたお嬢様に?」

セルジュの目が見開かれる。メイドたちも口々に怨嗟の呟きを漏らす。


「…そうなのよ」


「…お花はどうされますか?突き返すわけにもいかなかったのですが…」


「返品はお花屋さんに迷惑ですからね」


「お嬢様燃やしましょうか?」

私付きメイドのセシルがそんなことを言い出す。


「ダメよ、お花に罪はありません…」


「そうですね…」


「お嬢様。差し出がましいですが婚姻のほうはどうされるおつもりですか?」


感情論を除けば、今後戦争になる可能性は下がるだろうけど…


「そんなの嫌です。お嬢様が憎きプレディアウスに行かれてしまうなんて!」

セシルが悲しいような怒りのような表情をする。


この婚姻は、私の領民が許さない気がする。

あまりに多くの血が流れているから…


「大丈夫よ行ったりしないわ」


でも、このままではプレディアウスに恥をかかせることになる…


「では、どうされますかお嬢様。」

セルジュが敷き詰められた花に視線を向けながら問うてくる。


「り、り、領地に戻ります!」

このままでは拙い先送りだけど!


「戦略的撤退です!」私はそう宣言した。


***


太陽が中天から傾き始めていたが、王都の屋敷を出立した。


遥か遠い辺境伯地へ向うには馬車でも数日かかる予定だから急がなければいけなかった。


「お嬢様ドレスのままで宜しかったんですか?」セシルが私を見つめる。


身一つ、セルジュとセシルを連れ立っての移動にした。着のみ着のままだったりもする。


「お嬢様に縁談とか、お相手が違えば嬉しい限りなのですが…」と感慨深くセルジュが言う。


ジャスティン殿下のことを言ったら、セルジュは何と言い出すだろうか…


「領地を軌道に乗せないとなりませんから…」


「そんなことを言われていると本当に行き遅れますよ…」


皆が心配してくれてるのはわかるけど、失礼ね。


「歳をお取りになってからでは良い縁組は少なくなっていきますよ」


耳にタコです…


「「「はぁ…」」」


馬車内の空気が重くなる。


***


夕刻。


宿泊予定となる街へ差し掛かろうとしたときだった。


ヒヒヒヒィィン


  「どうどうどう」


「きゃあああ」


馬の嘶きと共に急に馬車が止まった。


「大丈夫?セシル」

私は席から投げ出されそうになるセシルを抱きとめる。


「何事だ!」

セルジュがドアを開けて御者に確認を取ろうとする。


「お嬢様。いけません、野盗です!」


「おい!御者は降りろ!馬車の中の奴も出てこい!」


大きなガナリ声が聞こえてきた。


私も窓から外を除くと剣や槍を持ち鎧や防具をつけた20人近い男たちに前と後ろを塞がれていた。


「こんな街の近くで野盗?」


「戦が終わり食い詰めた傭兵崩れかもしれませんね」


戦争には自前の軍だけでなく傭兵や義勇兵も組み込まれる。戦中は重用されるが戦が終われば解雇される。義勇兵は家に戻れば済むが、傭兵は仕事を失うことになる。

他所に戦争があればそこに向かうが、無ければ野盗などになって食いつなごうとする。


「プレディアウスから流れてきた感じです…装備の一部がプレディアウスのものです」


「そう…」


「お嬢様はセシルとここで身を潜めていてください。私が対応いたします」

セルジュはそう言って出ていこうとする。


「…お嬢様?」

私はドアに掛かったセルジュの手に手を置くと首を振った


「私が出ます」


「しかし…」


「このまま、野放しにすると被害者が増えます。ここで芽は絶ちましょう」


「…では、私も」セルジュが申し出る。


「大丈夫なの?」


「訓練は欠かしておりません」笑顔を見せて座席下に隠してある剣を取り出す。


セルジュと頷くとドアを開けて、先ずセルジュが表に出る。


「執事か?主人も出て来い!」

セルジュの差し出す手に手を乗せて私も外に出る。


ヒュー!


という口笛の音が聞こえる。


「これはこれは、お美しい。お若い奥様だ」


「失礼ね未婚よ!」


「なんだよ、その歳で夫人じゃないのか…行き遅れか」


ぐぅ…こ、こんな奴らにまでそんなこと言われるなんて。


「身代金が取れなくても…未婚なら、ん、まあ、歳でも容姿が良いから売れるだろう」


失礼ね


「貴方達はプレディアウスの傭兵ね?この国でこんなことしていいと思ってるの?」


「いや、どこの国でもしちゃ駄目だろ」


「「…」」


そりゃそうだ。


「抵抗しなければ命は保証しよう、大人しく縛られろ。そっちの執事はその両脇の剣を捨てろ!御者も並べ!」


セルジュは私の足元と自分の足元に剣を抜き身で放り捨てた。


「ヒヒヒ、大人しくしてろよ。商品だからな大事に扱ってやるよ」


いやらしい手つきで、野盗が二人私に近づく。


「ところでお前の家名はなんだ?交渉先に連絡しないとな」


「…ヴァルシスです」


「ヴェルシス?…ヴァルシスだと?辺境伯!」


「私の名は、ミネルヴァ・ド・ヴァルシス!」


「ヴァルシスのヴァルキュリア!」

野盗の目が驚愕に見開かれる。


「拙い、急いで縛り上げろ!」


私は、足元の剣を爪先で蹴り上げると右手で剣柄を握り姿勢を低くする。瞬時、弾かれたように野盗に向かって駆け出した。


野盗の白刃が煌めき、ドレス姿の私に迫るが、「遅い!」私は半身で躱し、すれ違いざまに柄頭を腹に叩き込む。


ハイヒールは馬車で脱いでいる。

6年戦場を駆けた経験は伊達ではない。


左右のステップで相手を翻弄する

野盗は私の動きについてこれていない。


膂力では絶対に勝てない私は、読みと速度で勝負するしか無かった。幸いにも私の筋肉は適していた…持久力はないけどね。


野盗の身体を踏み台に駆け上がる、スカートが舞い上がるが、顔面を蹴った勢いで空中に身を投げる。


スカートを押さえて、目測を図る。

私を見て驚いている野盗の肩口に踵を見舞う。


「痛ったーーー!」


生足で鎧を蹴ったんだから当たり前か…


涙目になりつつも駆ける。


セルジュに視線を向ける。

ほぼ移動することなく最小の動きで野盗を制圧している。


流石私の最初の先生だ。


「動くなーー!」


次の野盗に向う途中で制止の声が上がる。


「この娘がどうなっても良いのか!」


「セシル!」


セシルが首を掴まれ剣を突きつけられていた。



お読みいただき有難う御座います。

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