第2話:何かされたのですね
ホールが静まり返る。
注目を集めていた隣国の王太子が、別の注目を集めていた行き遅れの私に手を差し出したから…
私に手を差し伸べたクロード殿下を見る。
なんで私にという疑問しか湧いてこない。
国境を巡り剣を打ち合った経緯は、戦場にいなければ知らないのかもしれない。
だけど、行き遅れなのは場内の雰囲気を見れば気づけそうな気がするんだけど…
歳も離れている気がするし。
でも、このような席で隣国の王太子に恥をかかせるわけにはいかない。場内の注目も集まっている。
「なんでミネルヴァ嬢が」
「場違いな」
「ありえない。どんな卑怯なことをしたのかしら」
耳に痛い声が聞こえてくる。
(私が何をしたというの)
私は心を殺して、クロード殿下の手に自分の手を乗せた。
「私でよろしければ」
スカートを摘んで片足を引いた。
クロード殿下は私の声を聞くと、花が咲くような満面の笑みを見せた。
(えぇぇ?どうして?)
私には理解のおよばない、そんな笑顔だった。
クロード殿下にエスコートされて、ホールの中央へ。
視線がとても痛い。
誰か助けてと周りを見るとジャスティン殿下と目があってしまった。
ジャスティン殿下は驚きとも、嫉妬とも違う表情をしている。
焦燥?何故そのようなお顔で見られるのですか?
隣国に対する私の気持ちはご存知でしょうに。
楽団の音楽が奏でられ、クロード殿下に預けた手が掲げられる。
滑るようなステップが私を優しく踊らせる。
上手いわ。流石は王太子。
身体が近づく。
顔が近づく。
端正な顔、長いまつ毛。
背が高い。私のほうがだいぶ年齢が上の…ケホンケホン。
「やっとお会いできました。私は貴方に会うために今回訪れたんですよ」
私は驚きにクロード殿下の目を見る。
突然話しかけられそんなことをいわれるなんて思わなかった。
何故?
「わ、私をご存知なのですか?」
手を支点にターン。
「勿論です」
後ろに倒した背中を支えられ。さらに顔が近づく。
「好きです。貴方が欲しい」
驚きに思考が停止する。
(何を、この方は何を言っているの?)
私は、私の領地は貴方の国に荒されたし、私自身が剣を持って戦場にいたのよ。
「私は、私はヴァルシス辺境伯令嬢。貴方の敵だったのですよ」
この場に似つかわしくない言葉、違う。決して口にしては行けない言葉のはず…
なのに、クロード殿下は微笑んだ。
「もちろん知っています。知っていても狂おしいほどに貴方を好きなんです」
私は背を押され立たされた瞬間に、クロード殿下から身を離した。
「ふざけないでください!」
私の叫びがホールに響く。
ダンス中の周りの足が止まり、音楽まで途切れてしまった。
周りを見渡すと、私への白い視線が集まっていた。
「ミネルヴァ嬢。どうされました?」
ジャスティン殿下が何事かと走ってくる。
いたたまれない。
私はクロード殿下に「申し訳ありませんでした」と会釈するとホールから逃げ出すように駆けていた。
(参加するんじゃなかった)
明日早々に領地に戻ろう。
そう心に決め王都の屋敷へと足を早めた。
***
「お嬢様」
翌朝、私が帰り支度をしていると、領地から連れてきた家令のセルジュが難しい顔で私を呼んだ。
「どうしましたか?」
「城から使いが来ております」
「城から使い?」
私は青くなる。国賓。しかも他国の王大使への無礼な振る舞い。申し開きのしようもない。
どうすれば良いのか…
「何か心当たりでも?」
「い、いえ、何もありません、ありませんとも」
「何かされたのですね」
子供の頃から私のことを見てくれていた人は騙せないのね…
「ご当主が伏せられている今、ミネルヴァ様が当主代理なのですよ」
「…わかっています」
「…戦は終わりました。ミネルヴァ様もご自身の幸せを追われていい時期だと思いますよ」
「セルジュ…」
私は唇を噛みしめ目を閉じる。考えないわけでもない。でも、今更?
昨日のジャスティン殿下とクロード殿下の顔が浮かぶ。
ブンブンと首を振る。
「城の使いはなんと?」
「登城せよとのことです」
「え?」
「お嬢様、お顔が真っ青です。大丈夫ですか」
(爵位剥奪。お取り潰しとか言われ無いわよね…)
ドレスをギュッと握りしめた。
***
使いの者の馬車で王城へ連れてこられた。
心臓がバクバクするわ。
今の私は当主代理でもあるから、私の行動で伯爵家も領民も影響を受けてしまう。
昨日の行動は良くなかった…
(ああ、もう!)
「ミネルヴァ・ド・ヴァルシス辺境伯令嬢ご到着です」
フットマンが扉を開け、私の来訪を告げた。
ここは、応接室?
謁見の間ではなく、応接室だった。
入口で、ドレスをつまみ軽くカーテシーを捧げて来訪を示した。
ソファーに国王陛下が座り、後ろに宰相と…
(ジャスティン殿下…)
が立って控えていた。
何事なの?私の視線がさまよう。
「よく来たミネルヴァ嬢、こちらに来て座り給え」
「はい」
座る前に正式なカーテシーを行いソファーの先端に浅く腰掛ける。
「さて、ミネルヴァ嬢…」
緊張に喉がなる。いやだわ。
ジャスティン殿下のお顔を見ると強張っていらしゃる?
まさか、昨日のせいでまた戦争?
「…申し訳ありませんでした」
私は頭を下げた、頭を下げて済む問題ではない。
どうしたらいいの…
「ミネルヴァ嬢どうした?いきなり目に涙を溜めて…」
陛下とジャスティン殿下心配そうに覗き込む。
「私のせいで、また戦争に…」
「なんのことだ?」
「ミネルヴァ落ち着いて、大丈夫だから」
陛下をが訝しがり、ジャスティン殿下が優しく声をかけてくれる。
「でも…」
「今日君を呼んだのは、プレディアウス王国特派大使から国王の印が入った親書が届けられたからだ」
「親書ですか?」
それが私と何の関係が?
「君への正式な婚礼の申し込みだ」
「え?」
「本来、ヴァルシス辺境伯と相談すべきなのだが…現在は君が代理となっている…
本人に話すというのも変な話だが…」
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