第39話 風魔法で追い風を作ってみた
その次の日も、そのまた次の日も、俺にとってはただひたすら歩くだけの日々だった。
隣を歩くルージーは平気な顔をしているし、ここで根を上げては、男の沽券に関わる、奴隷主にも沽券にも関わると、痩せ我慢を通して、一つ目の街に着いた。
王都から見て、宿場街を2つ挟んだタンベスクという街だ。
馬車に乗っているホゾスや馬に乗っている従者たちは、疲れなど無いので、この街でも1泊しかせず、明日の朝早くに出立する予定だと言い渡された。
この街で、やっと4人部屋が斡旋され、みんなと話が出来た。
「主殿、かなり疲れているようだな?」とトゥデラが珍しく気遣ってくる。
「ぶっ続けで、こんなに歩いたのは、初めてだからな」と白状すると、
「そうなんですか?」とルージーに驚かれた。
「私たちの村では、毎日、この半分くらいは歩きます。それも川から汲んだ水を持って」という衝撃の事実を聞いた。
それで、ルージーは平気なのかと納得した。
「それよりナーシャ、馬車の中で変なことはされていないか、心配なんだがな」とナーシャに向かって言うと、ナーシャは顔を赤らめて、
「そんなことは、されていません」ときっばりと否定して、そっぽを向いてしまった。
「そうか、それはよかったな」
俺が、いらないことを聞いたので、ナーシャは心を閉ざしてしまい、会話が続かない気不味い雰囲気になった。
「取り敢えず、飯を食いに行こうぜ」
その沈黙を破ったのはトゥデラだった。
4人で連れ立って1階の食堂に降りる。
お通夜のような雰囲気で食事をしているが、ルージーが俺を元気付けようとしてくれたのか、
「旦那様、明日は追い風だったらよいですね」と言っていた。
「追い風?」俺は訳が分からなくて、聞き返した。
「背中に風を受けると歩くのが楽になります。村で、水を運んでいたときに、追い風になると、皆で喜んだものです」
その話で、俺は思い出した。
「そうだな。追い風が吹いていれば、確かに、走るのが速くなる。それは、歩くことでも、同じということか。ルージー、よくやったぞ、これで、明日から楽になるぞ」
俺は元気よく宣言した。
トゥデラとナーシャは、俺が何をはしゃいでいるのか分からずに、怪訝な顔をしてこちらを見ている。ただルージーだけは、にこにこしながら、優しい視線を俺に送っている。
これは何か?俺は可哀想な子と、思われているのか?
とにかくだ、奥の手が再び使えるようになった俺は、風魔法が使えるのだ。
風魔法で自分に追い風を吹かせればいいだけのことだったのだ。
何故、こんな簡単なことを思いつかなかったのだろう?自分の背中を、風魔法で押してやれば、歩くのがぐんと楽になるだろう。偉いぞルージーと、俺は、心の中でルージーを褒めた。
飯を食って部屋に戻っても、ナーシャとの間がしっくりこない。
まあ、関係改善は、時間を掛けてやればいいと考えて、俺は早々に眠った。
身体が疲れていたから、ベッドに入って直ぐに眠ったようだ。
翌日は、昨日考えたように、風魔法で、自分の背中に風を当てた。
風が強すぎると前につんのめるし、弱いと効果がない。
背中を押すぐらいの感じの風に調節するまでに少し時間がかかったが、上手く追い風を背中に受ける感じになった。
すると、それを横を歩いていたルージーが、
「旦那様だけ、ずるいです。私の背中にも追い風をお願いします」と頼んできたので、俺とルージー、2人の背中に追い風が当たるように調整した。
それで、どれくらい楽になったかというと、普通に歩いても、早足で歩く速度になった。
これを初日からやっていればよかった。
気になるのは、魔法を使い続けて、魔力切れにならないかということだ。
俺のステータスには、MPの表示がない。魔法をどれくらい使ったら、魔力切れになるのか?それとも、ならないのか?それが分からない。
幸い、今まで、魔力切れを起こしたことがない。とはいえ、それほど長く魔法を使い続けたことがないので、半日も魔法を使い続けるとどうなるかは分からない。
そんな不安があったので、ときどき魔法を止めて、早足に戻したりと、魔力を節約する工夫をしながら歩き続けた。
冷や汗ものだったが、幸い、次の宿場街に着くまで魔力切れは起こさなかった。
魔法の追い風で、歩く方はかなり楽だったが、魔法を使い続けたので、神経がすり減ったので、疲れ方は早足だけのときより酷かった。
「あ〜あ、疲れた」
宿場街では、それぞれに1人用の部屋を斡旋されて、ベッドに倒れ込むなり眠ってしまった。




