第35話 徴税官代理ホゾス
俺たちが
「ナーシャを追いかけて王都に向かう」
と言うと、ホゾスと名乗った徴税官代理は、図々しくも
「それなら吾輩も同行させて下され」と言って付いてきた。
俺たちを護衛の代わりにしようという魂胆が丸見えだ。
「管理庁が付けてくれた護衛は、あの厳つい顔の男に一太刀で殺されました。腕利きだったはずなんですが、まったく歯が立たなかったですわ。それを倒してしまうとは、恐ろしく腕の立つ女剣士殿ですな」
トゥデラは、俺より頭半分ほど背が高い上に、体中が分厚い筋肉で覆われている。手足が長いからスマートに見えるが、上腕筋なんか俺より二回りも太い。そのトゥデラが発散している獰猛な雰囲気に、徴税官代理はビビっているから必要以上に褒めちぎっているようだ。
「ヒスタンのことか?こいつは、何度も取り逃しているからな。ここで、やっと成敗してやったぜ。主殿、王都に着いたら、この首の懸賞金で、祝杯をあげようぜ」
とトゥデラが腰に吊るしたヒスタンの首を包んだ袋を片手で叩きながら、ご機嫌な笑み見せる。ヒスタンは賞金首だからと、首を刈って持ってきているのだ。
「その男が、徴税官代理である吾輩に、暴行を加えたと証言いたしますぞ。さすれば、懸賞金に幾らかの色がつきますぞ」とホゾスがトゥデラのご機嫌を取る。
「それは有り難い。よろしく頼む」とトゥデラ。
そんな警戒心の無い会話をしながら王都に向かって進んでいると、前方に死体が転がっているのを見つけた。その死体の側で、馬が1頭、不安そうにしながらも、その場から逃げずに立っている。
「あの男は賊の一味ですぞ」
ホゾスは、まだ、距離があるのに断言した。
周囲を警戒しつつ近寄ってみれば、その男の腹には大きな穴が空いており、周囲には夥しい血が流れている。
「ここにも、血が流れている」
倒れている男から少し離れたところにある血溜まりの横でトゥデラがしゃがみ込んで地面を見ている。
「もう1人いたのか」とトゥデラ。
トゥデラが言っているのは血溜まりの横にある、血の付いた足跡だ。その足跡は、すぐに街道を離れ、草むらに分け入っている。
俺が、追跡スキルを使いながらその後を追いかけようとすると、
「ここに徴税官殿が来られましたな。この腹の穴は、徴税官殿の魔法ギルティによるものです。ここに死んでいる男の他に、もう一人金髪の男がいて、その男がボスのようでしたが、徴税官殿の魔法をくらっても死なずに、驚くことに、逃げ延びたようですな」
目の前の状況から、まるで、自分の眼で見たかのように何が起きたかを分析するホゾスに、俺は思わず足を止めて、
「ナーシャはどうなった?」と聞いていた。
「徴税官殿が来られたのは奴隷の回収のためです。ですから。ナーシャという奴隷は、徴税官殿が管理庁に連れて行った思われます」
「その徴税官は、転移が出来るのか?」とトゥデラが、ホゾスに聞く。
ホゾスは首を捻り、
「そのような質問に答えることは、普通はいたしませんが、この状況では、答えないと話が進みませんな。いいでしょう、その質問にお答えしましょう。徴税官は皆、転移が出来ます」
「ホゾスは出来ないのか?」とトゥデラが重ねて聞く。
「残念ながら、出来ません」と、ホゾスは首を横に振った。
ホゾスの答えを聞きながら、血の付いた足跡が草むらに分け入っているのを確認していたトゥデラは、
「確かに、この足跡は、誰かを背負ったりしたものではないな。1人で逃げている」と独り言を言った。
俺も追跡スキルを使って周囲の地面を調べて回った。
すると、馬の蹄の跡から、ここで2頭の馬が転んだこと。人間が地面を引きずられたような痕跡から、馬に乗っていだろう3人の人間が放り出されたことが分かった。
ここで死んでいる男は、その放り出された場所で死んでいるから、ギルティとかいう魔法で即死だったに違いない。
もう一人は、立ち上がって、草むらに分け入っている。
すると、投げ出されたもう1人がナーシャのはずだが、放り出された跡が残っているのに、足跡がない。つまり、立ち上がった跡がない。にもかかわらず、どこにもいない。
その放り出された跡の横に、別人の靴跡があるから、この靴跡の人物がナーシャを担いで連れ去ったものと思われる。
その靴跡を見入っていると、トゥデラとホゾスがやって来て地面にしゃがみ込み、
「これが徴税官の足跡か?」とトゥデラが聞き、
「ナーシャという奴隷を、回収されたようですな」とホゾスが首を縦に振った。
「ナーシャは、何所に連れて行かれたんだ?」と聞くと、
「王都の奴隷管理庁ですな」とホゾスが平然として答えた。
「それなら、俺たちも、このまま王都に向かおう」と俺が言うと、
「この馬を使わせてもらってよろしいですかな?」とホゾスが馬の首に手をかけて聞いてきた。
「金を払うなら乗ってもいいぞ」とトゥデラが、驚くようなことを答えた。
これには、ホゾスも渋い顔をして、
「うむ、吾輩だけ馬に乗るのは気に入らぬというわけですな。それなら、王都まで、私がこの馬に乗っていってもよいなら、王都でこの馬をお譲りしましょう。この馬を売れば、金貨数枚にはなりますぞ」と、自分の物でもない馬を、自分の物であるかのように交渉し始めた。




