第32話 待ち伏せされていた
ルージーとトゥデラの間で、奴隷主としての俺の評価が話題になっている。
そして、何故か、俺は男としては対象じゃないようだ。何が原因だろう?
『おっと、今、やらなければならないことから気がそれてしまった』
俺は気を取り直して、地面に残っている足跡を調べる。足跡はかなりの数がある。
「襲撃者はおそらく5人か6人。血の痕から考えて、斬られた者は3人だな」
と、俺が口にすると、
「ほ~、よく分かるな」
「凄いです」
とトゥデラとルージーが感心する。
『この追跡スキルは凄いな』と、俺自身も思った。
追跡スキルを使って、馬車を襲撃した者たちの足跡を追う。
足跡は直ぐに森の中に入り、森の奥へ奥へと進んでいる。
「襲撃者たちは、森の奥へと進んでいる。賊のアジトが何処にあるか分からないが、ナーシャは大丈夫だろうか?」
「それは何とも言えないな。しかし、村で、徴税官代理が一緒に居たと言っていたから、殺されることはないだろう」
「徴税官代理というのは、そんなに偉いのか?」
「奴隷の人頭税は国の収入の根幹だ。何処の国でも、10人の人間がいれば、そのうちの7人が奴隷だからな。奴隷が多い国では、10人のうち9人が奴隷だ。だから、国にとって、奴隷の人頭税は収入の柱の一つだ。それを集める徴税官に手を出す奴は、何処の国でも徹底的に追い回されて殺される。それを知らない盗賊はいないだろう」
とトゥデラの説明。
「そんなに奴隷って多いのか。それにしても、それを知っていて、よく奴隷商の馬車を襲ったものだな」
「あるいは、盗賊ではないかだな」
『んっ?この話は何処かで聞いたような気がする。そうだ、ルートヒルトの護衛をしてヤヌンツクに向かったときの襲撃者だ。ルートヒルトは、あれは盗賊ではないと言っていた』
「すると、何処かの軍か?」
「その可能性がある。んっ?主殿、なんで、そんなことを考えついた?」
「ああ、前に、似たようなことがあってな」
俺は、ルートヒルトを護衛してヤヌンツクに向かったときに、盗賊を装った軍隊らしき者たちに襲われたことを話した。
「そうか、そんな経験をしていたのか。よく、生き残れたな」
「あのときは、例のスキルがあったからな」
「そうか。スキルの力か」
そこまで言って、トゥデラは立ち止まって考え込み始めた。
「どうした?何かあったのか?」と、俺が聞くと、
「今回は、そのスキルが無い。もし、相手が軍か何かなら、主殿は危ういかもしれない」
「俺が危うい?確かに、あのスキルがないと力量不足だよな」
するとトゥデラが唐突に、
「どうする?今なら止められるぞ」
と聞いてきた。
「止める?、ナーシャを助けなければ、スキルが戻ってこない。相手が軍であれ何であれ、ナーシャを取り戻す」
「いい覚悟だ」とトゥデラは言って、再び歩き出した。
足跡は途切れることなく続き、追跡は楽だった。
だが、そのために油断したのだろう。気が付いたときには、矢が俺の脚に刺さっていた。
それが合図だったかのように、次々と矢が飛んできた。
トゥデラもルージーも慌てて地面に伏せる。
俺は太腿を射抜かれた拍子に転んだので、偶然、地に伏せたカタチになり、他の矢を躱すことが出来た。
トゥデラとルージーは、地面を這って、射手から死角になる樹の根元に回り込んでいる。
俺もそれを見て、近くの樹の根元に転がり込んだ。
太腿に刺さった矢を確かめると、幸い矢尻が後ろに突き抜けているので、ナイフで鏃を切り落としてから、矢を前方に引き抜いた。
俺はベルトポーチから傷薬を取り出し、傷に振り掛けた。
すると、ラノベに出てくるポーションのように、傷口がみるみるうちに治っていく。傷薬を掌に溜めて、太腿の裏の傷口に傷薬をこすり付ける。すると、太腿の裏側の傷口の痛みも無くなった。
樹の裏側に隠れながら、背中に担いでいた半弓と矢筒を下ろして、夜をつがえた。
矢の飛んで来た方向を見ても、何も見えないが、気配察知で探ると3人の気配を捉えたので、その気配の1つに向けて矢を放った。
続けて残り2つの気配に向けても矢を放った。
「ぎゃー」と悲鳴が上がり、続けてもう2つの悲鳴が上がる。
3つ目の悲鳴が上がると同時にトゥデラが樹の陰から、鉄の盾を前に翳しながら飛び出して、気配目掛けて次々と飛斬撃を放ちながら駆けて行く。
飛斬撃は、剣術10で身に付く派生スキルで、斬撃の効果を20〜30メートルほど飛ばす中距離攻撃スキルだ。派生スキルにレベルはないが、親スキルと同じレベルと考えられるという。その通りなら、トゥデラの剣術10と同じ威力がある。
俺たちを襲撃した3人は、50〜60メートルほど離れたところに居たが、俺の矢が当たって動きが鈍くなっているところに、トゥデラが一気に距離を詰めながら飛斬撃を放ったので、躱わすことが出来ずに体を斬り裂かれた。
遅れてルージーも飛び出して、盾を体の前に構えながらトゥデラの後を追う。




