第30話 轍を追跡してみれば
村から少し出たところにある北に向かう枝道を辿って行く。
轍の跡は、かなりはっきりしているので追跡は容易だが、馬車の速度は人間が歩くより速いので、急がないと距離が開くばかりになる。
かといって2日分もの距離がある以上、走って差を詰めるのも悪手だ。
バテない程度に出来るだけ早足で歩くが、この枝道は人が滅多に通らないためか魔物に襲われることが多く、撃退するのに時間を取られて思ったように進めない。
「馬車に引き離されていると思うか?」
野営用の焚き火で撃退したグレーウルフの肉を焼きながらトゥデラに意見を聞いた。
「ここまで、停まって戦った跡がない。おそらく魔物の襲撃は、駆け抜けて躱しているのだろう。この枝道を抜けるまで、かなりの速さで馬を駆けさせていると思われる」
「ということは、かなり離されているということか」と俺はぼやいた。
「旦那様。焦らずに、地道に追い掛けるしかありませんよ」と、いつも静かなルージーが珍しく意見を言った。
「そういうけどな・・・、俺は焦っているんだ」と答える。
「追いついたところで、金が無いだろう。どうする気だ?」とトゥデラに痛いところを突かれた。
「うっ。確かに、身請けする金はない」
俺が黙り込むと、ルージーは困った顔をして俺の顔を見る。
トゥデラは、苦り切った顔をして、
「金を稼ぐには、魔物の素材を売るしかないだろう」
「金貨50枚というとキラーベア50匹か。気が遠くなるな。というより、スキルがなくなった今の俺にキラーベアが狩れるのか?」と、最後は自問自答になってしまう。
「剣術を6まで引き上げろ。熟練度が5のままでは無理がある」とトゥデラ。
「このまま魔獣を狩り続けたら、6になるかな?」と俺。
「それは、主殿次第だ。常に剣の使い方を考えて、最も効率的よく倒すようにしろ。工夫もせずに剣を振っていても、剣術の熟練度は上がらないぞ」とトゥデラ。
「それは、そうだよな」
「主殿の場合は、斬り付けるときに腕力だけに頼る癖が見られる。そこを直した方がいいぞ」
とアドバイスをもらった。確かに身体強化で強くした腕力に頼っている自覚はあった。それを直せということか。
だからといって、具体的にこうしろというアドバイスはない。トゥデラの剣術は全くの我流らしいから、基本以外のことを下手に指導するのは避けているのかもしれない。何処かで確立した剣技を学ぶ機会が来るまでは、我流で剣術を磨くしかないのだろう。
しかし、このアドバイスで、魔物を斬るときに、身体強化に頼り切らないようにしようと決めた。
それからも、ゴブリンやグレーウルフの襲撃があったが、徐々に力まかせでない剣の扱いが出来るようになりってきている。
人気が全くない枝道を轍の跡を追いかけて3日後、東西に走る街道との合流点に出た。
枝道よりずっと幅が広く、轍の跡が幾つもあって、これからは、跡をつけていくということが出来ない。
「枝道を出て東に曲がっているな」と俺。
「このまま東に行くと王都に着くのじゃないか」とトゥデラが予想する。
「とにかく後を追いかけよう」
こうして街道を東へ向かって進んだ。
次の日の夕方、そろそろ野営の場所を探そうというときになって、前方の街道脇の茂みに、何かが見え隠れしているのを見つけた。
「止まれ。前方に何かある」
俺が立ち止まりながら、腰の剣に手を掛けて、後ろから来る2人を止めた。
俺の言葉と動作に、トゥデラもルージーも、直ぐに武器を構える。俺も剣を抜いて、前の方に見えている茂みに近付いて行く。
茂みの間から見えているのは、黒塗りの木材のようだった。
そして、さらに近づくと、それが大きな筐体の一部であることが分かってきた。
「あれは、馬車か?」俺が誰に言うともなく声をあげると、
「馬車だな」
「馬車ですね」
トゥデラとルージーが同時に答える。
馬車だとすれば、盗賊に襲われてここに打ち捨てられたということだろう。
周囲に盗賊の仲間が残っていないか、警戒しながら茂みに近付いた。
茂みを回り込むと、そこにあったのは、半壊した馬車の残骸だった。




