第28話 満身創痍
夜が明けた。
俺たちは宿屋の朝飯を食べると、宿屋を引き払った。
「弓はどうする?」
「出費が痛いが、買っておくべきだな。それと、野営に必要な物資も買い揃えよう」とトゥデラ。
テントや野営用の毛布は持っているので、買い込むのは、主には保存食と罠の道具などだ。トゥデラはこっそり酒も買い込んでいた。
弓は、長弓は高いので、半弓と矢を買った。射程距離は短くなるが、半弓でも鳥を仕留めるぐらいの飛距離はあるので、もっぱら、俺は食料調達係だ。
途中で魔物と出会ったら剣を使って、剣術スキルをレベルアップしろとトゥデラの厳命だった。固有スキルが使えない俺は、トゥデラの剣の腕と、傭兵としての経験に頼らなくてはならないので、トゥデラの発言力が強い。この頃はトゥデラが上司に見えてきた。
心に引っ掛かるのが、クエストが『ナーシャの救出』となっていることだ。
ナーシャを見捨てた形になってしまったが、村で無事に暮らしているなら、何故、『救出』になっているのだろうか?もしかして、俺たちがあの村を去った後、別の盗賊が現れて、ナーシャに危害を加えようとしているか、もしくは、攫って行ったということも考えられる。
とにかく『救出』と言うからには切羽詰まっている気がする。
街の門を出て、ナーシャの村の方向に向かって街道を進む。ややもすると足が速まってしまい、
「ここで急いでも、バテるだけだぞ。3日かかる距離だ、焦っても仕方がない。それより周囲を警戒しておかないと、こちらが盗賊の餌食になるぞ」とトゥデラに窘められた。
時折、午前中に街を出発した馬車に追い抜かれる。そんなときは、街道から少し外れて、木陰に身を寄せてやり過ごす。
昼飯は歩きながら干し肉を食べ、夕方まで歩き続けて、漸く街道から村へと道が枝分かれしている場所に着いた。
「今日は、あの木の根元で野営だな」とトゥデラ。
「分かった」
「分かりました」
俺とルージーはテントや毛布などの担いていた野営道具を下ろした。
トゥデラは周囲の木立ちを利用して音罠を仕掛けている。
俺とルージーは火を起こして、干し肉には火を通して、夕食の準備をする。
「改めて確認するが、主殿がいうクエストは、ナーシャの救出だったな」とトゥデラ。
「ああ、それで間違いない」
「その救出とはどういう意味か分かっているのか?」とトゥデラに問い詰められた。
「どういう意味とは?」
「主殿は冷静さを失っているようだが、ナーシャを救出すると言うのには、少なくても2つの意味があるんじゃないか」とトゥデラ。
「2つの意味?」俺は言われていることが分かにらず問い返した。
「1つ目は文字通り、盗賊か何かに襲われているのを助けることだ」
トゥデラの指摘に俺は頷く。
「もう一つは、こっちは厄介だが、奴隷の立場から助け出すことだ」
「奴隷から助け出す?」
直ぐにはトゥデラの言ってることの意味が分からなかったが、暫くして、その意味が分かった。
「その可能性を考えなかったのか?」
「ああ、面目ない。思いつかなかった」
「もし、奴隷から助け出すことだったらどうする?30枚以上の金貨なんて持ってないだろう?」とトゥデラ。
「ああ、その通りだな」
「どうするつもりだ?」
トゥデラの追及に、
「そうだな・・・」と俺は目を逸らした。
「やっぱり何も考えていなかったのか」とトゥデラが呆れた声を出す。
「どちらにしてもナーシャに関わるなら、金が必要だぞ」
「借りにしておくことは出来ないのか?あの村の村長はナーシャを預かってはいたが、人頭税は払っていなかった。ということは、待ってもらえる制度があるということだよな」と俺は制度の抜け穴がないかを考えながら言う。
「それは役人次第だろうが、待ってもらうことが出来たとしても、期限までに支払えないと主人殿は奴隷落ちだぞ。人頭税の徴税官ほど恐ろしいものはないからな」
「奴隷落ちは嫌だな」
「いっそのこと諦めてしまえば良い」
トゥデラは思い切れと言う。
「そんなことをすれば俺のスキルが使えないままになる」
俺なりの理由を挙げて反論した。
「そのスキルに頼るのを止めてみるのもありだぞ。剣の腕なら、私が鍛えてやる。奴隷落ちする危険を冒すよりましだ」とトゥデラ。
「鍛えてくれるのは有り難いが、俺にとっては、大事なスキルだ。かといって、奴隷になるのはもっと嫌だ。う〜ん、金のことは、ナーシャを助けてから考えることにするよ」
「そうか。分かった」
深刻な話をしたので寝付けないところに、夜の間に3回ほど魔物の襲撃があった。眠りが浅かったので直ぐに起きて撃退した。
襲ってきたのは、ゴブリンとグレーウルフだ。
ゴブリンは身体強化を使っていると難なく蹴り倒せるので、見えない腕が使えなくても楽勝だった。
しかし、グレーウルフの群れは、俺が3人の中で一番弱いと見破ったグレーウルフが、俺に群がってきたのでかなり苦戦した。俺に噛みつこうとしているグレーウルフを、トゥデラが後ろから手際よく斬り殺してくれなかったら、俺はグレーウルフの餌になっていたかもしれない。
そんな訳で、魔物を撃退はしたものの、俺は全身傷だらけになってしまった。
見えない手を使えないので、癒し魔法を使うことも出来ない。
多めに買い込んでいた傷薬を、ルージーが傷に塗り込んでくれる。
それで漸く傷の痛みから解放されたが、トゥデラに、立ち回りが下手過ぎるとしかられた。
そんな風に、何度も魔物の襲撃を受け、最終的ににはトゥデラが蹴散らして追い払うということを繰り返し、俺は満身創痍のまま、ナーシャの村が見えるところまで来た。




