二度目の妊娠
美咲は涙が出て止まらなくなった。
そして、気分が悪くなってトイレに駆け込んだ。
翼は驚いて美咲の傍に行った。
「美咲ちゃん、どうしたんだ?
気分が悪いんだな。」
吐いてしまった美咲の背中を翼が撫でた。
吐き終わった美咲に翼はタオルを渡すために洗面所へ急いだ。
「美咲ちゃん、これで拭いて。」
濡れたタオルと乾いたタオル。
翼から渡されて美咲は「ごめんなさい。」とだけ言った。
「横になった方がいいよ。」
「……うん。」
翼は美咲を抱き上げた。
「あ!……歩けます。」
「美咲ちゃん、間違ってたらゴメンな。
もしかしたら、妊娠?」
「え…………。」
「悪阻だろ? 明日、一緒に病院へ行こう。」
「え…………。」
「今度は絶対に一緒に行くよ。」
「私一人で。」
「駄目だ! 一緒に行く。
決めたから、一緒に行こうな。明日!」
「あ…………いいの?」
「休めるよ。大丈夫!」
「ううん、いいの?」
「何が?」
「産んで……いいの?」
「当たり前だ! なんで……そんなこと言うんだ?」
「喜んでくれるの?」
「勿論!」
「本当に?」
「当たり前だろ? 本当に嬉しい。
美咲ちゃんと俺の子。嬉しいに決まってる。
何が心配なんだ? うん?」
「私なんかより相応しい人が居るでしょう?」
「また! 私なんか、だ。
俺が好きになって結婚したいと願ったから今なんだよ。」
そう言って翼はベッドに美咲を寝かせた。
「不安は全て話して!
そう言っただろう? 結婚する前に。
何が不安?」
「…………。」
「美咲ちゃん? 話さないと分からないよ。
話し合うのが夫婦だと思うよ。
何が不安?」
「………スマホ………。」
「うん? スマホ?」
「光って………通知が………。」
「うん? 通知?
ちょっと待ってて、取って来るから……。」
翼がスマホを取って来た。
通知を見ていた。
「美咲ちゃん!
これを見たんだな。」
画面を美咲に見せた翼は直ぐに返信メッセージを送った。
「これでも不安?」
見せられたメッセージは「申し訳ないけど、もう会わないよ。俺も妻が居る。妻に要らぬ心配を掛けたくないんだ。もう悪いけどブロックさせて貰うね。元気で! そして幸せになって!」と………。
「これでも不安なんだよな。
もう二度と会わないから……。
前にね、一度、偶然に会ったんだ。
その時にブロックしてなかったことに気が付かなかった。
ごめん。不安だったよね。
こんなの目にしたら………ごめんな。」
「いいの?」
「うん?」
「ブロックして……。」
「いいよ、ってか当たり前だよね。
結婚する前に、いや……付き合った時に……告って受け入れてもらえた時にブロ
ックするべきだったんだ。
すっかり忘れてた……俺が悪い。」
「本当に後悔しない?」
「しないよ。ブロックせずに、そのままの方が後悔する。」
「良かったの?」
「良かったんだよ。
うん、良かった。」
「そう?」
「そう、良かったよ。
美咲ちゃんが焼きもちを焼いてくれたことが一番良かった。」
「それは……焼きもち?」
「気付かなかったのかい。
立派な焼きもちだよ。
嬉しいなぁ……美咲ちゃんが俺のこと大好きって証拠だよな。」
「あ…………。」
「俺も自信たっぷりじゃなかったんだ。」
「何が?」
「美咲ちゃんから愛されているという自信。」
「それは……そうに決まってます。」
「決めってるんだ。」
「はい。」
「で、何が決まってるの?」
「あ……それは……ですね。」
「うん。」
「それは………決まってるんです。」
「だから、何が? 決まってるのかな?」
「……もう、意地悪っ!」
「アハハ……で、言ってくれないんだ。残念!
……美咲ちゃん、俺ね。
このメッセージの美玖って子が好きだったんだ。
付き合ってた。
だけど、彼女には彼女に合う人が居たんだ。
俺には俺に合う人を見つけた。
それが美咲ちゃん! 君だよ。
だから、このメッセージ、俺には要らないんだ。
それよか……おめでただったら、めっちゃ嬉しい!
明日、行こうな。病院。」
「はい。」
その日、翼は美玖との出逢いと別れを話した。
包み隠さず全て話した。
美咲は話してくれたことを信じた。
そして、吐いた嘘を翼に話す時が来た。
そう美咲は思った。
翼を苦しめる結果になると思った。
「お話があります。」
「うん? 何? なんか怖いな。」
「………ごめんなさい。」
「え? どうした? え?」
「私………私…………二度目なんです。」
「?」
「初めて……じゃないんです。」
「うん? 何が?」
「初めての……妊娠じゃないんです。」
「え゙…………初めてじゃない?」
「はい。ごめんなさい。」
「いやいや……美咲ちゃん、俺が初めての相手だろ?
それとも………え゙…………誰かと……え゙…………?」
「前に会社を三日間休んだ時……あったでしょう。」
「え゙ぇ―――っ………俺意外の誰かとぉ?」
「あの……聞いてますか?」
「え゙ぇ―――っ、俺、捨てられるのか?」
「あのっ! 何を言ってるんですか?」
「えっ? 美咲ちゃんが……その……俺意外の誰かと……。」
「なんで?」
「なんでって! 初めての妊娠じゃないって言っただろ!
誰なんだよ!
俺意外の男は!」
「そんな人居ません!」
「そう言っただろ! 二度目の妊娠って!」
「二度目……妊娠したって言ってなくて、ごめんなさい。」
「誰の子だよ。」
「え?」
「もういいから、誰の子か言え!」
「誰の子って、翼さんの子。」
「翼さんの子……って、翼って誰だよ!」
「あなたの……。」
「あなたの……? 翼……? 俺?」
「はい。」
「間違いなく?」
「間違う訳ないです。」
「じゃあ……なんで? なんで俺は知らなかった?」
「……言えなかった……ごめんなさい。」
「なんで? 俺の子なんだろう?」
「はい!」
「俺の子なのに言えない訳ないよな。」
「言えなかった……喜んでくれか不安だったから……。」
「え…………え……………?
俺が喜ばないと思った?」
「喜んでくれなかったら……どうしようって思って……言えないまま……流産しました。」
「流産…………。」
「病院で流産の手術を受けて帰りました。
三日間、安静にって先生が……それで会社を休んで……。」
「あの時か……美咲ちゃんが帰って来なくって心配して探したあの日。
あの日、流産したのか……。」
「ごめんなさい。嘘を吐いて……貧血って言って……。」
翼は美咲を抱き締めて「もう、いいよ。そんなこと……一人にしてごめんな。一人で流産の後……一人だったんだよな。一人にして悪かった。」と言った。
そして、「今度は二人で一緒に行こうな。」と抱き締めた腕に力を入れた。
強く抱き締められながら美咲は幸せを感じていた。




