帰宅
流産手術後、一人で帰宅した美咲。
家に帰ったら、翼が居なかった。
翼に知られたくない美咲は、翼が居ないことに安堵した。
取り敢えず簡単な夕食を作った。
そして、ベッドで横になった。
涙が流れ落ちる。
泣き声が漏れないように……翼に聞かれないように……美咲は口を塞いだ。
心配の余り色々な人に電話した翼は、美咲を探しに駅へ向かっていた。
二人は擦れ違っていたのだ。
タクシーで帰って来た美咲と翼は出会えなかった。
駅で美咲を探しても見つからない。
電話をしても美咲は出なかった。
⦅美咲ちゃん……どこに居るんだ……どこに……。⦆
翼のスマホに美咲の父から電話が架かって来た。
「翼君、申し訳ない。」
「いいえ、お義父さん。」
「何も無ければいいのだが……。」
「はい。無事で居てくれたら……。」
「電源でも切っているか、充電出来なかったか……。」
「はい。」
「君は家にいてくれないか?」
「でも……探さないと……。」
「探すのは私達にさせてくれないか?
君は美咲が帰って来たら、連絡して欲しい。
家に誰も居なかったら、美咲が帰って来ても分からないからね。」
「そうですね……では、お願いします。」
「そう言って貰えると有難い。」
「お義父さん……。」
「では、家に帰って連絡を待ってくれ。」
「はい。」
翼は家に帰った。
帰りながら、美咲の姿を求めていた。
翼は、何かが美咲の身に起こったとしか考えられなかった。
それが怖かった。
家に着いて、リビングの照明は点いていない。
翼は深い溜息を洩らした。
不安でいっぱいだった。
だが、照明を点けて見たダイニングテーブルに食事の支度がしてあった。
「美咲!……美咲ちゃん! 帰ってるのか?」
美咲の名前を呼びながら家の中を探した。
寝室は常夜灯が点いていた。
「美咲ちゃん?」
「あ……ごめんなさい。」
「美咲ちゃん! 良かった。無事に帰ってたんだ。」
「……ごめんなさい。」
美咲の頬を涙が流れ落ちた。
「美咲ちゃん、泣いてる……どうした?
何かあった?」
「ううん、大丈夫です。
ごめんなさい。夕食が簡単で……。」
「そんなこと、いいよ。
体の具合が悪いの?」
「ちょっと……。」
「熱かな?」
翼が美咲の額に手を当てた。
「熱は無いみたいだね。」
「ごめんなさい。今日は、このまま寝かせて……。」
「ゆっくり寝て……。
あ! お義父さんに電話しなくっちゃ。」
「お父さん?」
「帰ったら先に帰ってるはずの美咲ちゃんが居ないから……。
俺、あちこちに電話しまくったんだ。
今からお義父さんに電話して、それから川崎さんとか……。
電話した人に電話して、美咲ちゃんが帰って来たって言うよ。」
「ごめんなさい。」
「ううん、顔を見られて嬉しかった。
もう会えないんじゃないかとか怖いことばかり思い浮かんだんだ。」
「……ごめんなさい。」
「美咲ちゃん、これからは必ず連絡して! いいね。」
「はい。」
「じゃあ、俺は電話してから食べて来るからね。」
「はい。」
「あ……美咲ちゃんは食べられた?」
「………はい。食べました。」
「食べられたんだ。良かった。
ゆっくり休んで……あ! 明日、病院へ行く?
行くなら俺も一緒に行くよ。」
「一人で! 会社に行って……お願い。」
「一人で本当に大丈夫?」
「大丈夫。だから、会社に行って!」
「分かった。
……ゆっくり……おやすみ。」
「おやすみなさい。」
翼は嬉しくて、そして少し恥ずかしく……電話を架けた。




