親の心
姉夫婦と兄夫婦が居る家は賑やかで両親は喜んでいる。
姉夫婦は長男を連れて来ている。
姉夫婦の長男は3歳で、姉のお腹の中には命が宿っている。
兄夫婦も子宝に恵まれて、11ヶ月の長女を連れて来ている。
孫が来ているので両親の喜びも一入である。
「もう、凄いんですよ。」
「どんな風に?」
「娘が産まれて直ぐから、『誰にもやらないぞぉー!』って……。」
「仕方ないだろう……こんなに可愛いんだから……。」
「女の子は心配だよね。忠頼君。」
「そうなんです! 分かってくれるんですね。お義兄さん。」
「分かるよ。うちは男の子だけど心配で心配で堪らなくなるよ。」
「そうですよね。子どもだから心配ですよね。」
「そうなんだよ。男の子でも怖い目に遭うこともあるからね。
ほら、あの芸能事務所!」
「ああ! あれは酷過ぎ!」
「そう思うだろう!
うちの子は可愛いから、あの事務所で起きたことが起こらないとは言えないんだ
よなぁ~。」
「ほんと! 心配だぁ~。」
「あれと同じことが起きてたんだよ。昔から……。
男の子でも性被害は昔からあった。」
「そうなんですよね。表に出ただけで!」
「そうだよ。軍隊でもあった話だよ。」
「お父さん、誰かから聞いたの?」
「聞いたことがあるんだよ。子どもの頃にね。
だから、忠頼のことも心配だったんだ。
美琴も美咲も……何事もなく無事に育って欲しいと切に祈った。」
「お父さんはね。誰よりも、あなた達が大切だったのよ。」
「美咲が結婚した後で、お父さん泣いてたもんね。」
「美琴、貴女が結婚した時も泣いてたのよ。」
「そうなんだ!」
「忠頼、貴方の時も結婚した時、お父さん、泣いたのよ。」
「もう、止めないか!」
「いいじゃん、教えてよ。母さん!
俺の時まで泣いてたって?」
「あなた達が結婚した日。
一人で部屋で『もう、この家には帰って来ないんだな。』って言って……
泣いたのよ。」
「止さないか。」
「いいじゃない。お父さんの心が今なら分かるだろうから……。
いずれ、経験するかもしれない親の心だもの。」
「………分かります。お義父さん。」
「忠頼が美咲のこと心配して色々言ったのは、お父さんに似たのかしら?」
「そうですね。お義父さん似なんだ。納得しました。」
「もう、いいだろう………この子達、お昼寝の時間のようだ。」
「あらっ? お父さんの膝にお座りしたまま寝ちゃったのね。」
「隣の部屋で寝かせて来なさい。」
「はい。」
「うちの娘もお義母さんに抱っこされて寝ちゃいましたね。」
「隣の部屋で寝かせましょうね。」
「はい。」
幼子が二人、隣の部屋で寝ている。
家族揃って、今日は妹夫婦の訪問を待っている。
美咲は20歳で結婚した。
今日は新婚旅行から帰って来て、初めて実家へ挨拶に来る日なのだ。
インターフォンが鳴った。
誰もが立ち上がった。
「こんにちは。」
「美咲!」
「美咲、お帰り。」
「お父さん、お母さん、ただいま。」
「美咲、もう結婚したから、『お邪魔します。』だよ。」
「父さん! もう、そんなこといいじゃないかっ!
俺も『ただいま。』って言ってるし……。」
「お邪魔します。」
「いらっしゃい。」
美咲を囲むようにリビングへ向かった。
一人取り残されたようになったのは翼だった。
美咲の笑みを久し振りに見たようで、誰もが嬉しかった。
その笑みの中に僅かな悲しい色を誰も見つけられなかった。




