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名残りの雪  作者: yukko
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Lesson

翼が言った時間より15分前に美咲は家の外で待っていた。

父と母には「ちょっとお出掛けしてくる。」とだけ言って家を出た。

父が「何処へ行くんだ? 誰と行くんだ?」と聞いた時、姉が「お父さんったら心配性なんだから…私の時も……。」と話し始めた。

母が美咲に「行ってらっしゃい。」と言い、美咲は笑みで返した。

家の前より少し離れた所で待っていると、翼の車が近づいて来た。

美咲は胸が高鳴った。

翼の車が美咲の前で泊まった。


「美咲ちゃん、家の外で待ってくれてたんだ。」

「は……はい。」

「どのくらい待った?」

「そんなに待ってません。」

「そう? それなら、良かった。

 さぁ、助手席に座って!」

「あ……はい。」

「今日は……というか、これからは間違えずに助手席に乗ってくれるよね。」

「は……はい。」

⦅固いなぁ……これじゃあ、上司と部下だ。⦆「美咲ちゃん、行く先だけど。」

「はい、よろしくお願いします。」

「まだ、行く先を言ってないよ。」

「え……そでした?」

「うん。俺にお任せなのかな?」

「……はい。」


車が向かった先は、閉園するとニュースになっている古くからある遊園地だった。

駐車場に止めた翼は、ここを選んだ理由を話し始めた。


「ここは、俺の両親がデートした場所なんだ。」

「そうなんですか!」

「うん、閉園のニュースが流れた時、両親が話してくれたんだ。

 ここのボートに二人で乗ったんだって、さ。」

「そうなんですか……ご両親の想い出の場所なんですね。」

「うん、俺達にとっても想い出の場所にしたいな。」

「…………はい。」


二人で翼の両親が載ったボートに乗った。

翼がオールを漕いでくれる。

その姿をうっとりと見ては、自分の視線に気づき、頬を染めて俯いた美咲。

その美咲を愛らしく感じる翼。

ボートから降りる時、翼が手を差し出した。

優しく微笑みながら……美咲はどうしたらいいのか分からなかった。


「美咲ちゃん、俺は何時まで待てばいいのかな? このままで………。」

「え………。」

「お手をどうぞ!」

「あ……は……はい。」


美咲は大人になって初めて異性の手に手を重ねた。

ボートを下りても翼は手を離さない。

美咲は恥ずかしくて堪らなかった。


「美咲ちゃん、これからLessonするよ。」

「れ……え?……Lessonですか?」

「そう! 今は、恋人じゃない感じだからね。」

「こい! 違うんですか?」

「そう、今はまるで上司と部下の会話。」

「え………。」

「だから、恋人らしい会話をして欲しい。

 そのためのLesson。」

「……あの……どうしたらいいんですか?」

「それだよ。 いいんですか?じゃなくて、いいの?に、して欲しいんだ。

 です、ます、ではないだろう? 友達と話す時。」

「あ……そうですね。」

「ほら! また……。」

「あ……そう……ね……で、いいですか?」

「うん?」

「え?」

「いいよね……に出来る?」

「え?」

「まぁ……追々(おいおい)……です、ます、がなくなるといいな……。」

「はい。」

「そこは、うん、かな?」

「あ……うん。」

「OK!…………それと、俺のこと、何て呼んでくれるのかな?」

「え!」

「先輩は止めてくれるよな。」

「あ……駄目なんです……ね。」

「駄目っ! 今日からは俺のこと、つーくん。 いい?」

「つ!……つーくん?」

「そう、俺のニックネーム。」

「呼びにくかったら、翼。」

「つば……無理です。呼び捨てなんか出来ません。」

「じゃあ、何て呼んでくれるのかな?」

「え…………先輩じゃ駄目」

「駄目! 絶対に駄目だからね。」

「…………………………。」

⦅考えてくれてるのかな? 美咲ちゃん、俺、期待してしまうぞ。⦆

「………つ………。」

「つ?」

「……ば……さ」

「うん!」

「さん。」

「翼さん?」

「はい……駄目ですか?」

「まぁ……先輩よりはいいよ。

 じゃあ、今から翼さんで! いいね。」

「はい。」

「さ、呼んで!」

「え?」

「さ、呼んで!」

「何をですか?」

「俺を呼んで!」

「え…………。」

「Lessonだから、早く!」

「つ……ばさ……さん。」

「Please say that again. もう一度!」

「え?」

「もう一度!」

「つばさ……さん。」

「もう一度。」

「つばささん。」


繰り返し練習させられた美咲だった。

翼は美咲が「翼さん。」と呼ぶ度に嬉しそうに微笑んでいた。

少し頬を染めて……。



遊園地から帰ったのは夜になっていた。

美咲は翼と夕食も終えて帰宅した。

美咲を送った翼は玄関で美咲の両親に言った。


「美咲さんとお付き合いさせて頂いています。

 僕は美咲さんとは、結婚を前提にお付き合いさせて頂いています。

 どうか、お許し下さい。」

「…………………。」

「お父さん、上がって頂いたら、どうかしら?

 玄関では、ね。」

「そうよ、お父さん。お母さんの言う通りに上がって頂いたら?」

「いえ、今日は送っただけですので……

 また日を改めまして、ご挨拶に伺わせて頂きます。」

「まぁ……将来のことも考えて下さってるのね。」

「お母さん、嬉しいわね。」

「ええ、ええ。」

「あの……坂東君、美咲は承知しているのですか?」

「告白をした時に、結婚のことも話しました。」

「そうなんですか…………美咲が………。」

「まぁ、お父さん、直ぐじゃないから……。」

「そうよ、お母さんの言う通りだわ。直ぐじゃないわ。」

「あ……僕が先走り過ぎたようですね。

 でも、真剣なお付き合いだと知って頂きたかったので、お話しました。」

「ええ、それは有難いです。

 また、日を改めてお越しください。」

「はい、そうさせて頂きます。」


美咲一人が目を丸くして、その光景を見ていた。

翼が「また日を改めて!」と言った通りに、付き合いだして3ヶ月ほど経った日曜日。

翼は「結婚の申し込み」を美咲の両親にしたのだ。

それからは、美咲が驚くほど速く結婚の日取りが決まり、新居も決まった。

美咲は夢の中に居るようだった。

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