ときめき
目を瞑っても、なかなか美咲は眠れなかった。
⦅寝なきゃ……。⦆と焦っても、なかなか眠れなかった。
その時、スマホの着信音が響いた。
美咲はスマホに手を伸ばして取り、スマホの画面を見た。
スマホの画面に表示されたのは「坂東翼」だった。
⦅先輩!…………どうして? 先輩から電話?
あれっ? なんで? 知らん振りされてたよね。
え…………?⦆
スマホは成り続けている。
美咲は、その音に反応するかのように電話に出た。
「あの………こんばんは。」
「美咲ちゃん! 良かった……出てくれた。」
「あ……済みません。」
「メッセージも送ったんだよ。既読にならなかったから心配だったんだ。」
「メッセージ? あの……済みません。
スマホ、見てなかったです。」
「そっか……それならOKだよ。気にしないで!」
「済みません。」
「話せたから、結果オーライ!だよ。」
「けっかオーライ……。」
「美咲ちゃん? どした?」
「……いいえ、なんでもありません。
あ……ほんとに済みませんでした。
メッセージ、読まなくて……。」
「いいよ、そんなこと……それより……土曜日、どっか行こう。
迎えに行くから……。」
「えっ?」
「何か用事、あった?」
「……いいえ、ありません。」
「じゃあ、会って貰える?」
「あ……はい。」
「じゃあ、10時に迎えに行くよ。」
「あの!」
「何?」
「迎えに来て頂かなくても、私、場所を教えて頂いたら行けます。」
「美咲ちゃんを車で迎えに行くのも俺の特権だと思うけど?
俺は美咲ちゃんのカレだよね。」
「カレ!」
「え……違うのか?」
「……済みません。あの……言葉で聞いたらドキドキ……して……。」
「ドキドキ、かぁ……俺もドキドキしてるよ。」
「え?」
「美咲ちゃんと電話で話してて、デートに誘って断られたら?とか……
迎えに行ったら駄目なんだろうか?とか……ね。」
「だめ……とか思いません。」
「そう? なら、土曜日10時に迎えに行くからね。」
「は……い。」
それから、美咲は翼と他愛ない話をして電話を切った。
切るのが嫌だった。
ずっと話していたかった。
翼との会話の余韻が残っている美咲は姉に電話を架けた。
「お姉ちゃん。」
「美咲、どうしたの?」
「あのね………私……おつき…あいを……。」
「あの人ね、坂東翼さん。」
「お姉ちゃん、なんで知ってるの?」
「あぁ……それは、聞いたから……。」
「お兄ちゃんからね!」
「そうよ。」
「もおっ! お兄ちゃんのお喋り!」
「それで? 何かあった?」
「土曜日ね、お出掛けするの。先輩と……。」
「先輩?」
「あ……坂東翼さん。」
「先輩って呼んでるの?」
「うん。」
「それは、可哀想だわ。坂東さん。」
「え?」
「彼女から先輩呼びは……ね。寂しいでしょうね。」
「そうなの?」
「そうよ。彼女からが呼ばれる名前が、先輩じゃ……ね。
ところで、何? 美咲が聞きたがってることは?」
「あ! あのね、土曜日に着て行く服……何がいいかな?」
「服ね。」
「うん。いつもパンツだから………。」
「遅いけど、今から行こうか?」
「え? 駄目よ。お姉ちゃん、赤ちゃんがお腹の中に居るのに!」
「もうね、実家に帰って出産を待つ気だったのよ。
だから大丈夫よ。
それに、実はね、もう出産する産院も決まってるの。
私達が産まれた産院よ。」
「そうなの?」
「だからね、実は土曜日に帰る予定だったのよ。」
「お姉ちゃんと一緒?」
「一緒にデートには行かないわよ。うふふっ。」
「……お姉ちゃん……。」
「なに?」
「大好きっ!」
「……私も美咲が大好きよ。」
「嬉しい……。」
「じゃあ、今から行くわね。待っててね。」
「うん!」
姉は義兄の車でやって来た。
義兄も泊まるということだった。
美咲は、持っている服を姉に見て貰った。
姉はその中からワンピースを選んだ。
「これ、覚えてる?」
「うん、覚えてる。」
そのワンピースは姉のワンピースを亡くなった祖母がリメイクした物だった。
美里に似合うように祖母が考えてリメイクしたのだ。
姉がそのワンピースを着ていた頃、美咲は「お姉ちゃん、綺麗! 可愛い!」と燥いでいた。
祖母が姉の為に縫ったワンピースだった。
姉が着なくなった頃、美咲が欲しがったのだ。
それで、祖母がリメイクした。
「これが一番、美咲に似合う。」
「そう?」
「そうよ。美咲、これを着て行きなさい。
おばあちゃんがリメイクしてくれてから一回も着てないでしょう?
おばあちゃんに見せてあげなさいよ。
きっと、お空から見てくれてるわ。」
「うん! そうする。」
美咲は姉が来ていたワンピースを祖母がリメイクしてくれた時、嬉しかったのに着られなかった。
着る勇気が無かった。
姉のように綺麗じゃなく背が高すぎる美咲にワンピースは遠い物だった。
でも、今、勇気を出して着ようと思った。
⦅似合ってなくてもいい。
ワンピース着よう。
ちょっとだけ、女の子らしい服装で……会いたいから……。⦆
美咲は土曜日が待ち遠しかった。




