翼
翼が美咲を誘った翌日、美咲の兄夫婦と夕食を摂ることになった。
美咲の兄・忠頼からの呼び出しだった。
「翼、今日、美咲とデートしたんだよな。」
「まぁ、そんな感じかな。」
「おい、明日、飲もう。」
「なんでだよ。」
「話すことがある。」
「俺は無い!」
「俺はあるんだ。」
「まだ、何か文句があるのかよ。」
「お前なぁ……俺の大事な妹と結婚する気なんだろう?」
「それは、まぁ、その、なんだ……。」
「なんだって、なんなんだ?」
「美咲ちゃん的には、ず~~っと先のことかもしんないからな。」
「そりゃそうだ。まだ19だからな。」
「で、なんなんだ?」
「兎に角、いつもの店に来い。」
「いつもの店って……俺は遅くなるぞ。」
「待ってるからな。来いよ。」
「分かったよ。」
「で、奥さんは来るのか?」
「お~~い、忠頼さん。」
「言いたいこと言って放置かよ。」
そして、いつも忠頼と会う店に着いた。
忠頼は妻と来ていた。
「こんばんは、奥さんも一緒で。」
「こんばんは、坂東さん。この人が無理言って、ごめんなさいね。」
「いつものことですから……あはは……慣れてます。」
「そうよね。正常運転だわ。」
「俺の悪口を二人で言うな!」
「で! 何の用だ?」
「あれは、幼いからな。」
「うん。」
「あれが雰囲気に流されるのは許せないんだ。」
「うん? 流されてないと思うぞ。」
「お前にとっては、厄介な子どもだろうけど、な。
大切にしてくれ。」
「勿論!」
「デキ婚だけは、止めてくれよ。」
「まぁ、順番がいいよな。」
「結婚するまで綺麗なままで……頼む。」
「うん? それは、身体の関係を持つなってことだよな。」
「そうだよ。美咲は幼いからな。
俺が守ってやらないといけないんだ。」
「忠頼、お前、もう酔っぱらってるのか?」
「そう思われても仕方ないわ。
でも、まだ飲んでないの。」
「えっ? 凄いシスコン………。」
「仕方ないだろう。美咲に『嫌だったら断っていいんだぞ。断れ!』って言ったの
に、あいつ理由、分かってないんだから……。」
「そんなこと言ったのか!」
「お前に捨てられたら……可哀想過ぎる。」
「捨てるぅ? まだ、俺から告って付き合って……一日目だぞ。
なんてこと……言うんだ!」
「大切にしてくれよな。初カレなんだぞ、お前が!」
「大切にするから安心してくれ。」
「絶対だぞ。」
「分かってるって。」
「美咲には言ったんだ。」
「何を言ったんだ? 余計なこと言ってないだろうな?」
「いい奴だから、って言った。」
「良かったぁ~。いい奴だな、忠頼は……。
そうだ! 奥さん、以前は忠頼のことターチって呼んでましたよね。」
「ええ、そう呼んでました。」
「いつから、忠くん、に変えたんですか?」
「話せば長いの。」
「いいです。聞かせて下さい。」
「婚約した頃まではターチって呼んでたの。
婚約して顔合わせの時に、お義父さん、お義母さんの前でターチは、ね。
それで、ターちゃん、にしたのよね。
そしたら、この人の実家の近くで、この人の幼馴染に会ったのね。
美人の幼馴染がターちゃん、って呼んでたの。
癪だから、変えたくて……それで、誰も呼んでないニックネームにしたの。
それが……。」
「忠くん。」
「ええ、そうなのよ。」
「そっか……誰にも呼ばれてない一人だけが呼ぶニックネーム。
俺もそんな風に呼んで貰いたいなぁ。」
「美咲はお前のこと、なんて呼んでるんだ?」
「先輩。」
「え?」
「だから! 先輩、だよ!」
「あはは! そりゃカレじゃないな。」
「カレだよっ! 正真正銘のカレだっ!」
「アハハ!」
「……あぁ……いいニックネーム無いかなぁ~。」
「いいんじゃないですかぁ……先輩っ。」
「止めろ!」
翼は自分のニックネームを考える日々に突入した。




