人参と大根
兄からの電話を終えた美咲のスマホに翼からのメッセージが届いている。
⦅あ……先輩からだ。
今日はちゃんと返信しないと!⦆
「美咲ちゃん、今日もありがとう。
楽しかったよ。
また、食べに行こうね。二人で!」
「先輩、誘って下さってありがとうございました。
送って下さって帰りが遅くなられましたね。
済みませんでした。」
「謝らないで欲しいな。
俺が送りたかったんだから!
それと……一緒に食べに行ってくれて送るのもOKだったってことは
いいのかな?
もう俺の彼女になってくれるってことなのかな?
そう思っていいのかな?
メッセージじゃ分からないから、電話するよ。」
⦅あ……そういう……でも……いいのかな? 私なんかで……。⦆
翼からの着信を告げている。
美咲は勇気を出して、電話に出た。
「はい。」
「美咲ちゃん?」
「はい。」
「美咲ちゃん、答えて欲しいんだ。
一緒に食べに行ってくれたってことは、俺は希望を持っていいんだと思った。
違うのかな?
俺の想い違い?」
⦅先輩の彼女が……私で……いいの? 釣り合わないのに……。⦆
「美咲ちゃん、答えられないのか……。
駄目ってこと?
ごめん。急がせたら駄目なのにな。
ごめん。待つって言ったのは俺なのに、ごめん。
美咲ちゃん?」
美咲はリビングを出た。
「先輩」
「何?」⦅あれっ? 美咲ちゃんの声、急に小さくなった……?⦆
「ほんとに私でいいんですか?」
「美咲ちゃんがいいんだ。」
「私なんか背が高いだけです。」
「それも好きだよ。」
「私、先輩に釣り合うような……じゃないです。」
「俺は釣り合うとか考えない。
それって、何基準?」
⦅何基準……基準?……分かんない。⦆
「美咲ちゃんが自信を持てるようになったら、いいのかな?」
⦅私、自信……無い。⦆
「俺、自信満々な方が苦手なんだ。
だから、美咲ちゃんの自信の無さも好きだよ。
でも、もう少し自信を持って貰いたい。
いい所がいっぱいあるよ。
いい所がいっぱいあるから、職場でも可愛がられてるだろう?」
⦅そうなの?⦆
「美咲ちゃん、待ってるから返事。」
リビングを出て廊下で話していたら、母がリビングから出て来た。
⦅ヤバい! 部屋に向かわなくっちゃ。⦆「ほんとに、いいんですか? 私で」
「いいから、ってか、美咲ちゃんしか考えられないから告った。」
⦅けど、急に行くと、お母さん変に思う?⦆「あの、頑張ります。」
⦅?………頑張ります?……もしかして彼女として頑張るってこと、か?⦆
「そのままでいいよ。
そのままの美咲ちゃんが好きだから頑張らなくていいよ。
誰か傍に居る?」
「あ……母が……。」
「そう……じゃあ、言いにくいよね。
返事しにくいよね。
OKっていうのも言いにくいのかな?」
「あ……はい。」
「そっかぁ………じゃあ……OKだったら……そうだな。
OKだったら、人参。」
「人参?」
「そ、OKだったら人参って言って。
NOだったら大根。
いい? OKは人参、NOは大根。」
「は……はい。分かりました。」
「じゃあ、付き合ってくれますか?」
「………………。」
「うん? 聞こえなかった。」
「あの……人参……です。」
「ありがとう。美咲ちゃん。
恋人になれたって思ってもいいんだよね。」
「はい、あの、よろしくお願いします。」
⦅固いなぁ……彼と彼女の会話じゃない。⦆
「うん、こちらこそ、よろしく。
所で、何時まで先輩って呼ぶのかな?」
⦅?……先輩なのに?⦆
「もう俺は美咲ちゃんの彼だろう?
恋人同士で彼女から先輩呼びされる彼の気持ちを考えて欲しいな。
出来たら名前で呼んで欲しい。
翼って名前を呼んで欲しい。」
⦅つばさ!って……呼べるわけないよぉ~。⦆
「……え……っと……頑張ります。」
⦅ふふふ……出来るだろうか? 美咲ちゃんには難しいような気がするな。⦆
「うん、呼び方を変えてくれるのを待ってるから。」
それから、何気ない会話をして電話を切った。
「おやすみなさい。」と言って電話を切った時、美咲は信じられない気持ちのままだった。
まだ、現実とは思えない出来事だった。




