兄
兄・忠頼に翼からメッセージが送られてきた。
それは、美咲と夕食を食べて家に送った――というメッセージだった。
兄は直ぐに美咲に電話した。
「あ……お兄ちゃん。」
「美咲、今日、翼とデートだったんだな。」
「デ………そんなんじゃ……なくて……。」
「一緒に、それも二人っきりで夕食を食べたんだろう?」
「うん、それは、そうだよ。」
「それも、お前に告った相手だよね。」
「告った………って、あれ?」
「あれ?って何なんだ?」
「あれ……現実?」
「お前………何言ってんだ。
現実だよ。翼はお前と付き合いたいの!
分かった?」
「ほんとに、ほんと?」
「兄ちゃんは嘘言わない。」
「嘘だぁ~、嘘言うよ。お兄ちゃん。」
「これは嘘じゃない!
信じろ!ってか、現実と思って貰えてない翼が気の毒だ。」
「…………初めてなんだもん。」
「告られたこと無かったな。」
「うん。」
「じゃあ、少しだけ、ほんとに少しだけ、いいことにする。」
「うん。」
「………あのな、それでだ。」
「うん。」
「付き合ったらな。」
「まだ、付き合ってないよ……そのはず……。」
「まぁ聞け。今後の為に! いいな!」
「はい。」
「男と女の違いだ。」
「違い?」
「そう違いだ。」
「見た目から違うよね。」
「美咲ぃ~。」
「でも、私の見た目は……男の子……。」
「美咲ぃ~、何処へ行くんだよ。
兄ちゃんの話を聞きなさい。」
「はい。」
「男はな。例えば付き合ったら手を繋ぎたくなる。
手を繋いだら、その次に行きたくなるんだ。」
「?」
「手を繋いだら、肩を抱き寄せたくなる。
肩を抱き寄せたら、抱き締めたくなる。
抱き締めたら、キスをしたくなる。
キスをしたら………そんな風に次を求めたくなるんだ。」
「……………………。」
「でも、一般的に女は違う。
女は満足するんだ。手を繋いだら、その次に進むとかより先ずは満足する。
勿論、違う女性も居るけどな。
少なくともお前は満足する方だ。
翼はいい奴だ。
だけどな、お前が嫌だったら断れ。
いいな。嫌なことは断っていいんだ。
付き合ってても夫婦でも断っていいんだからな。」
「?」
「分かったか?」
「うん……。」
「ほんとに分かったんだろうな。」
「分かったよ、お兄ちゃん。」
「ほんとだろうな?」
「ほんと、ほんとだよ。」
「ちゃんと覚えておけよ。」
「はぁ~~い。」
電話を切った兄は不安だった。
「あいつ……分かってないような気がする、ってか絶対に分かってないぞ。参ったなぁ~。」と言った。
それを聞いていた妻が「大丈夫よ。坂東さんに任せておけば。」と言うと、兄は「はぁ………。」と溜息を吐いた。
兄の不安は当たっていた。
美咲は意味を充分理解していなかったのだ。




