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名残りの雪  作者: yukko
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ナイチンゲールとバラ

オスカー・ワイルド『幸せな王子その他 第一童話集』の中の『ナイチンゲールとバラ』(The Nightingale and the Rose)より


スマホを置いて、美咲は熱くなった頬に手を当てた。

恥ずかしかった。

兄に知られたのが恥ずかしかった。

誰にも話さなかった美咲の想い……美咲は、⦅今日の先輩との時間が夢でなければいいのに……。⦆と思った。

どうしても現実に起こったことだとは思えなかったのだ。

美咲が長い間の心の奥底に秘めた悲しい劣等感が、【夢の中の出来事】にしてしまったのだ。

姉も兄も大好きだけれど、見た目も能力も全て劣る美咲。

だから、姉とも兄とも違う道を選んだ。

中学の時、進学先を就職に有利になると思う高校を選んだ。

父は「昔なら商業科の高校だな。」と言った。

それで、決めた進学先だった。

なりたい職業など無かった。

見つからなかったのだ。

看護師も考えたが、命を預かるような仕事は無理だと決めつけた。

全ては劣等感。

高い身長も劣等感を大きくした。

そんな美咲を「好き」だと言う男性が現れるなど考えられなかったのだ。


ベッドに横になっても美咲はなかなか寝付けなかった。

置いたスマホの画面が光って、メッセージの通知を表示している。

それに気付かぬまま、何時しか美咲は眠りに就いた。



夢の中で美咲は小鳥になっていた。

小鳥の名はナイチンゲール。

ナイチンゲールは恋をした。

その相手は人間の男性だった。

男性は学生で人間の女性(教授の娘)に恋している。


「赤い薔薇を持って行ったら教授の娘は僕と踊ってくれると言ったけど、なんてこ

 とだ。

 僕の庭には赤い薔薇が無いじゃないか。

 あんなに哲学の本を読んだのに、たった1輪のバラのために、僕の人生はめちゃくちゃだ。」

⦅あれは……先輩……先輩だわ。⦆


その言葉を、ナイチンゲールがオークの木にとまって聞いていた。

「ああ、とうとうここに真の恋人がいる。」―そうナイチンゲールは思った。


⦅あれっ? あの小鳥……私? 私なの?⦆


ナイチンゲールは、愛はどんな宝石よりも尊いと考えていた。

そもそも、愛は店には売っていない。


その後も、学生は、「赤い薔薇さえあれば、どんなふうに意中の人を腕に抱き、楽しく踊ることができるだろう。」などと、赤い薔薇を持って行ったら、パーティで起こるだろうことを想像して、細かい描写を続け、しまいには泣き出してしまった。


「あいつ、いったい、何泣いとんねん?」

⦅あれは……お兄ちゃん!⦆


傍に居た蜥蜴や蝶、デイジーは、不思議がっている。

「赤い薔薇のことで泣いているのよ。」とナイチンゲールが答えると、「赤い薔薇ぁ~?? なんじゃそれ。そんなことで泣く人おるわけ?」と、蜥蜴は笑い出した。

でも、ナイチンゲールは、学生の嘆きのみなもとをよく理解していた。

そして、翼をひろげて赤い薔薇を探しに大空に飛び立った。

ナイチンゲールは、ある薔薇の木のもとに行き、「赤い薔薇を下さいな。その代わり、私が美しい声で歌いますから。」と頼んだ。

すると、「あいにく私は白い薔薇なんだよ。花時計のそばにある私の弟の所へ行ってみたら? 君の欲しいものがあるかもしれない。」と言った。

そこで、ナイチンゲールは教えられた薔薇の木へ行き、同じように頼んだ。

すると、「私は黄色い薔薇なんだよ。学生の家の窓の下にある私の弟のところに行ってごらん。君の欲しいものをくれるんじゃないかな?」

ナイチンゲールは学生の家の窓の下にある薔薇の木の所へ行き、赤い薔薇を欲しいと頼んだ。


「確かに私は赤い薔薇だが、今は咲いていないんだよ。

 冬の寒さで私の血管が縮こまり、霜で蕾が枯れてしまってね。」

「たったひとつだけでいいのです。赤い薔薇を1つだけ。

 なんとか手に入れる方法はありませんか?」

「あるにはあるが、悍ましい方法なんで、ちょっと言えないな。」

「お願いです。どうか教えてください! 私は何も恐れません」

「赤い薔薇が欲しいなら月光の音楽から作るしかないんだ。

 つまり、夜、月が出ている間に、私の棘に君が胸をぎゅっと押しあてて、歌い続ける。

 君の血で赤い薔薇を作るんだ。

 君は私に歌う必要があるし、棘は君の心臓を貫かねばならない。

 すると君の血が私の血管に流れ込んで、赤い薔薇が咲く。」


赤いバラのために、死ぬ価値がある、とナイチンゲールは考えた。

「生命はとても素晴らしいものだけど、愛は生命よりもっと素晴らしい。人間の心臓に比べたら、鳥の心臓なんて何ほどの価値もないわ。」

その夜、ナイチンゲールは赤い薔薇の木の棘に、自分の胸をぐっと当てて、歌い始めた。

すると薔薇の木は言った。


「ナイチンゲールよ、もっと強く棘に胸を押し当ててくれ。

 そうしないと、陽がのぼるまでに薔薇が出来上がらない。」


ナイチンゲールは、もっとしっかり棘に胸を押し当て、より大きな声で歌った。

すると、薄ピンクの薔薇の花が咲き始めた。


「ナイチンゲールよ、もっと強く、もっと強く、胸を押し当てて!」


ナイチンゲールはさらに、胸を棘に押し当てた。

棘はナイチンゲールの心臓を貫き、鋭い痛みが走った。

それでも、ナイチンゲールは木にしっかりつかまって、より大声で歌い続けた。

ナイチンゲールは、死で完璧になる愛の歌を歌い続けた。

薔薇は、だんだん赤くなっていった。

ナイチンゲールの歌声はか細くなった。

翼が戦慄き、目は霞み、何かが喉に詰まったような気がした。

ナイチンゲールは最後の力を振り絞り歌った。

白い月もその歌声を聴き、夜明けだということを忘れ、空に留まっていた。


「見て、見て、赤い薔薇だ! 終わったよ!」


薔薇の木が叫んだが、ナイチンゲールの返事はなかった。

返事出来なかったのは……小鳥は、草の上で死んでいたから……。

死んだ小鳥の胸には棘が刺さったままで……命絶えた小鳥。


学生が窓をあけると、そこに赤い薔薇があった。


「赤い薔薇だ! なんて幸運なんだ。

 それに、こんなに綺麗な薔薇は見たことがない。

 きっとこの薔薇には長いラテン語の名前がついているはずだ。」


そう言うと学生は薔薇を摘んで、帽子をか被り、教授の娘の所へ行った。


「赤い薔薇を持って来たら、僕と踊ると言ってくれましたよね。

 ほら、見て下さい。赤い薔薇です。

 どうか今夜、胸に着けて下さい。そして僕と踊って下さい。」

「その赤い薔薇、私のドレスの色には合いませんわ。

 それに、チェンバーレイン家の従兄の方が、本物の宝石を贈って下さったの。

 宝石のほうが花なんかより、ずっと高いこと、誰だって知っていますわよね?」

「そんなこと! 約束が違うじゃないかっ! 恩知らず!」


学生は怒って、赤い薔薇を道端に投げた。

その直後、投げ捨てられた赤い薔薇の上を車輪が走って行った。


「恩知らずですって? なんて無礼な人なの。

 そもそも貴方、何様なの? ただの学生でしょう。

 貴方の靴には、チェンバーレイン家のいとこの方みたいに、銀のバックルがついてないでしょう?」


こう言うと娘は家の中に入ってしまった。


「愛とはなんと馬鹿げたものなんだ。

 論理の半分も役立たない。

 愛は何も証明できないからね。

 今は実用的なものが大事な時代だ。

 僕は哲学に戻ろう。形而上学の本を読もう」。


学生は部屋にもどって大きな本を取り出すと読み始めた。


⦅あぁ……どうして先輩の想いは届かなかったの?⦆


そうなのだ。

美咲の夢の中のあの男性は坂東翼だった。


そこで、目が覚めた。

美咲は涙を流した自分に気付いた。

そして、夢の中の翼が本当の翼で、昨日の翼が夢だったと思えるのだった。


「そうよ、昨日のことは夢よ。

 夢……に違いないのよ。

 私なんかが選ばれるわけない……選ばれるわけないのだから……。」


悲しい美咲の独り言だった。

そして、想い違いをしている美咲の独り言だ。

シンデレラ物語アニメと童話を楽しむブログ「シロツメクサの夢」ブログの運営者:pen様のブログhttps://furansugonosekai.com/the-nightingale-and-the-rose/からあらすじを使わせて頂きました。

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