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名残りの雪  作者: yukko
34/59

帰宅

車は美咲の家に近づいた。

翼は忠頼から住所など聞いていた。

何も話さなくても家に着いたことに美咲が驚いたのは、自分の部屋に入ってからだった。

家に着くと、美咲は夢から覚めるのではないかと思った。

それくらい夢のような一日だったのだ。

翼はほんの少しの希望を持とうと思った。


「美咲ちゃん、今日はありがとう。」

「いいえ!……あの……。」

「うん?」

「先輩、ありがとうございました。

 送って下さって……。」

「送りたかったから、俺こそ、ありがとう。嬉しかったよ。」

「う………あの、今日の先輩……リップサービスが……凄いです。」

「リップサービス? はぁ~~っ!」

「済みません!」

「美咲ちゃん、謝らないでくれるかな?」

「へっ?」

「へっ?って……。」

「あ……済みません。」⦅ハズっ! もう消えたい!⦆

「リップサービスじゃないから、本気だからね。

 返事、待ってる。」

「………………。」

「遅くなってもいいから、返事して下さい。」

「………………。」


その時、玄関が開いた。


「美咲、遅かったのね。」

「お母さん。」

「こんばんは。

 美咲さんのお母さんでいらっしいますね。

 僕は美咲さんと同じ会社の坂東翼と申します。

 帰りが遅くなって申し訳ございません。」

「あら?……貴方……忠頼の……。」

「はい、忠頼君の大学の友達です。」

「やっぱり! 忠頼の披露宴ではお世話になりました。」

「いいえ、忠頼君にはお世話になってますから。」

「まぁ、あんな子でもお世話出来るのですか?」

「おいっ、玄関で長話は良くないぞ。

 入って頂きなさい。」

「はい……坂東さん、主人もあんな風に言ってますので。

 どうぞ、お入りください。」

「いいえ、お送りしただけなので……。」

「いいじゃありませんか。さぁ、どうぞ!」

「入って下さい。

 忠頼の友達で美咲の会社の方なのですし……

 さぁ、あばら家ですが、どうぞ!」

「では、お言葉に甘えて。」


美咲は何がどうなっているのか全く分からなかった。

ただ、想いを寄せている先輩が自分の家に入って行く姿を眺めていた。

家のリビングで父と母と……そして翼が談笑している。

不思議な想いで3人を美咲は見ていた。

翼は帰る時に美咲にメッセージを送りたいと言った。

美咲は求められるままに連絡先を交換した。


「じゃあ、会社で……。」

「はい。」

「美咲を送って下さって本当にありがとうございました。」

「気をつけて帰って下さい。」

「はい、では失礼します。」


翼が帰ってから、美咲は入浴した。

浴槽に浸かっていて長すぎて逆上(のぼ)せてしまった。

母に声を掛けられるまで、浴槽に浸かってしまった。


「美咲、あんた、逆上せるまでお風呂に入ったら駄目でしょう。」

「ごめんなさい。」

「気を付けなさいよ。」

「はい。」

「もう寝なさい。」

「はい、おやすみなさい。」

「おやすみ。」


自分の部屋に入ってから、何度も翼の言葉が頭の中でぐるぐると渦を巻いた。

そして、ふと気付いたのだ。


⦅あれっ? なんで先輩、知ってたの?

 うちの住所……私、道順……話した?

 話してなかったよね……あれっ? なんで?⦆


スマホの画面にメッセージの通知があった。


「ヤバっ! お兄ちゃんだっ!」


スマホのメッセージを見ると、兄から「おい! 美咲。帰ったらメッセージを寄越せって兄ちゃん言っただろ。早く寄越せ。」と兄からのメッセージでスタンプ迄怒っていた。


「あちゃ~、お兄ちゃん、怒ってる。」


急いで返信メッセージを送った。


「お兄ちゃん、ごめんなさい。

 お父さんとお母さんが先輩を家に!って……。

 それで3人でお喋りしてた。

 それで、遅れたの。

 ごめんね。」

「遅い! それでも遅すぎる。

 翼からメッセージを貰ったから、帰ったって分かってるし、

 父さんと母さんが家に上げたことも知ってる。

 ただな、お前からのメッセージが無いと不安だったんだ。

 無理させたんじゃないかとか、な。

 大丈夫か? 美咲。」

「うん、大丈夫だよ。

 ちょっと逆上せちゃって……。」

「え? 逆上せた?」

「うん、長湯してしまって、お母さんに叱られた。」

「お前、風呂で遊んでたんじゃないよな。アヒルさんはもう無いぞ。」

「お兄ちゃん、私、もう19よ!」

「まだ!19だっ!」

「お兄ちゃん……もう私は19歳です。」

「分かってる。子どもじゃなくなった。

 だから、不安なこともある。」

「?」

「翼はいい奴だ。」

「分かってる、よ。」

「だけど、不安だ。」

「?」

「お前に好きな人が居て、それで今日、無理させたんなら済まない。」

「お兄ちゃん! 謝んないで!」

「美咲ぃ~、お前はいい子だな。

 でっ、好きな奴居るのか?

 居たら兄ちゃんに会わせろ。いいなっ!」

「……もう……会ってるよ。」

「なんだとぉ~!」


直ぐに兄から電話が架かって来た。


「おい、美咲。好きな奴って居るのか?

 誰なんだ? 兄ちゃん、知らないぞ。」

「誰にも言ってないもん。」

「兄ちゃんには言えよ。」

「だってぇ……これが、好きって言っていいのか……分かんないんだもん。」

「どんな気持ちになったんだ?」

「気になるの。」

「うん! それで?」

「一目見るだけでいいの。」

「うんうん、それで?」

「後姿だけでもいいの。」

「うん! 他には?」

「幸せになって欲しいの。」

「う……ん?」

「私じゃ無理だって分かってるから……。」

「そいつ、そんなにエリートでイケメンなのかよ。」

「だって、私は高卒だもん。

 勉強も出来ないし、運動も全くだし……いいとこ無いもん。」

「何言ってるんだ。お前はいい子だ。兄ちゃんが保証する。」

「いい子……だけだもん。女性じゃないの。」

「へ………誰がそんなこと言ったんだ?」

「そう思うもん。大きいし……女性らしいとこ無いもん。」

「背の高さなんか、好きになったら気にならねぇってぇの!」

「ほんと?」

「ほんとだ!」

「……じゃあ……先輩は嘘言ってないの?」

「先輩って誰だよ。」

「お兄ちゃん、今日、一緒だったよ。」

「あっ! 翼か……え?………ええええええ?

 美咲、お前……もしかして、もしかするのか?」

「もしかして、もしかって、なぁに?」

「否、だからさ、お前が好きな奴って、翼?」

「………………。」


思わず、通話を終了してしまった美咲だった。

電話先の兄は「えええええええ! そうなのか………ええええええ!」と一人大騒ぎして、妻に「ちょっと聞こえないから静かにしてよね。いい所なのにぃ!」と叱られたのであった。 

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