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名残りの雪  作者: yukko
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高まる鼓動

それは美咲にとって信じられないことだった。

夢ではないかと思い、誰にも気づかれないように美咲は、そっと指で頬をつねった。


⦅痛い……痛い…から……夢じゃないのよね。⦆

「美咲ちゃん、もうすぐ着くよ。

 ほら、あそこの店。」

「…………は…はい。」


店に着くと、先に着いていた兄夫婦が手招きした。


「こっち!」

「お兄ちゃん。」


兄夫婦の隣に座ろうとする美咲に兄が言った。


「美咲は翼の隣。」

「え………。」

「さぁ、早く座りな。」

「美咲ちゃん?」

「は……はい。」


美咲は緊張と理解出来ない展開に食事が喉を通らない。

食事中、兄は「なぁ、翼………。」と話し掛けている。

兄と翼の話は弾んでいる。

その内容をも美咲の頭に入らなかった。

美咲の頭の中は「美咲ちゃんが好きだ。」という言葉が繰り返し流れている。

そして、それを信じられない美咲は混乱している。


食事を終えてからも桜を愛でている兄夫婦と翼。

その中に居る美咲は翼の言葉が残って、たった一人桜を愛でていなかった。


「綺麗だね。」

「は……はい。」

「………美咲ちゃん……。」

「は……はい。」

「嫌だった?」

「は?」

「俺が告った事、嫌だった?」

「いえ!………そんなこと……ありません。」

「ほんとに?」

「はい。」

「そっか……良かった。」


それから何度か翼が美咲に話し掛けたが、美咲は緊張していて満足に答えられなかった。

兄夫婦が振り返り兄が「そろそろ帰ろうか。」と言った。

「そうだな。帰ろう。」と翼が返事をした。

駐車場まで兄夫婦の後を美咲は翼と歩いた。

駐車場に着くと、兄が言った。


「美咲、翼に送って貰え。」

「えっ? お兄ちゃん、なんで?」

「なんでって……はぁ………。

 翼はいい奴だ。

 あいつなら俺は美咲と付き合うのを許すんだ。」

「忠くん、許すって……いったい何様なの?」

「お兄様だ!」

「もう……忠くんったら……ごめんね。美咲ちゃん。」

「お義姉さん。」

「うちの車で帰っていいのよ。」

「それは駄目だろう。翼は今まで待ったんだから。」

「それは、忠くんがそうさせただけでしょう?」

「そうだけど……。」

「美咲ちゃんの気持ちを考えてあげて!」

「でもな、あいつを知らないと返事が出来ないだろ?

 だから、少しでも一緒に居て、話をして、だな。」

「まぁ、それもそうだけど……美咲ちゃん、嫌じゃない?」

「嫌……じゃない……です。」

「ほぅ~らな!」

「勝ち誇っちゃって……うふふ。」

「じゃあ、美咲は翼に送って貰え。」

「……………うん。」⦅心臓が持つかな? もうドキドキしてる。⦆


そして、兄は翼に言った。


「翼、美咲を家まで送ってくれるだろう?」

「うん、いいけど……美咲ちゃんはいいのかな?」

「嫌じゃないって! そう言ってるから……。」

「嫌じゃないって……はぁ………可能性ゼロか?」

「違うだろ。美咲は家族親族以外の男と二人っきりになったこと自体が無い。」

「そうなんだ。」

「だからな、始めてなんだよ。

 翼、信頼してるから、ちゃんと送れよ。いいな。」

「分かってる。」

「美咲、ちゃんと家に着いたらメッセージを俺に送れよ。」

「うん、お兄ちゃん。」

「翼、途中で寄り道は駄目だぞ。」

「分かってる。」

「じゃあ、美咲を頼む。」

「うん。」

「美咲ちゃん、乗って!」

「……は……はい。」


美咲が後部座席に乗ろうとした。


「美咲ちゃん! そこじゃなくて……。」

「はい?」

「前に乗って! 助手席に!」

「じょ……いいんですか?」

「勿論、俺はタクシードライバーじゃないからね。」

「あ……そうですね。

 では………お邪魔します。」


それを見ていた兄は笑い出して止まらない。


「お兄ちゃん!」

「あはは……。」

「何で笑うの?」

「だって、お前……後部座席に乗ろうとするなんて……くっくくく……。」

「忠くん、美咲ちゃんはいつも後部座席だったからじゃないの?」

「そうなんです。お義姉さん。」

「そうよね、美咲ちゃん。

 ……坂東さん、美咲ちゃんをよろしくお願いします。」

「はい。」


兄と翼が内緒話をしている。


「翼、お前……大変かも……ぷっ……。」

「いい加減に笑うの止めろよ。」

「そう言いながらお前も笑ってるじゃないか。」

「……黙れよ。

 じゃあ、帰るから。」

「このままお前の家に帰ったら許さん!」

「違うよ。美咲ちゃんの家に帰るんだ。」

「わざとか? お前……美咲の家に帰るんじゃ無くて送る!だろ!」

「はは……バレたか。」

「お前なぁ……。」

「美咲ちゃんを送るから、行くよ。」

「おう、気をつけて送ってくれ。」

「勿論! じゃあな。」

「おう。」


女子席に座った美咲は緊張がより一層高まった。

隣に翼が居る。

車内がこんなに狭いのだと美咲は感じた。

美咲は兄夫婦へ手を振った後、顔を上げることも出来なかった。

感じたのは自分の鼓動だけだった。

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