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テトラポッドにうちひしがれて  作者: 池間ふゆ
7/10

テトラポッドの波と僕の鼓動。

 机の上に教科書と問題集、さらには赤本と参考書を開いた。今日は数学の気分だ。あっとノートがないことに気が付いた。僕はほかっていたカバンの中をあさる。

 カバンはものであふれかえっている。どれがなんのノートかわからない。とりあえず全部出してみることにした。すこしため息をつきながらも自分のせいだとはわかっているので責めようにも責めれない。

 黄色いノート、水色のノート、橙色のノート、男子高校生にしては明るい色ばかりのノートだ。ノートわけはそれぞれの教科のイメージカラーで決めている。

 数学は水色だ。

 水色のノートを手に取りこれもまた机の上に開く。一番左のページから一枚一枚めくっていく。効率なんて関係ない。

 お風呂でふやけた指でめくるのはいつも苦労する。

 椅子に座りシャープペンシルを握る。カチカチと音をならして芯を一ミリずつだしてゆく。三回音をならすとちょうどいい具合だ。

 第一関節を曲げつに伸ばしてシャーペンを持つ。それから自分の世界に入った。部屋に鳴り響くのはページをめくるぺらぺらという音だけだ。黙々と解き進んでいく。たまにシャーペンの芯がおれる。乾いてきた指でそれをつかんでゴミ箱に捨てる。

 もう、日がでてるうちに外で遊ばなくなった僕の白い肌は黒く塗られていた。

 今日はいつもに増して集中していた。気が付いたら0時を過ぎていた。なんだかまだやれる。やれるうちにやっておかないと。ときどき学校で言われる。意外とまじめだよねって。自分でもそれはつくづく思う。やらないといけないことはやれるうちにやっておくタイプだ。

 もう一度、机に視線を置く。

 ブーブーすぐにスマホが鳴ったのだと分かった。集中しすぎて感覚が研ぎ澄まされていた。通知音がなっているスマホを見る。

 楓からラインが一通送られてきた。


 いつもの海にきて

 

 装飾品もなにもないシンプルな一言だ。素直に物事をいう彼女だが自分のしたいことはあまりいわない。もしかしたら初めて彼女のほうからお願いかもしれない。

 でも、内心は勉強の続きをしたいと思っている。

 僕がラインの既読をつけたとき狙ったかのように彼女から電話が鳴った。数少ない彼女の頼みだ。しょうがないなーという顔をして電話に出る。

 「どうしたの?」

 「ちょっと息抜き。場所分かるよね。」

 「なんで行く前提なの。まだなんも言ってないじゃん。」

 「どうせ来てくれるでしょ。」

 「わかったよ。」

 僕はそういうとプツンと電話は切れてしまった。電話ごしの彼女の声はいつもより明るさがなかった。彼女はテトラポッドが近くにあるところにいるだろう。前々からなにかあったらそこにいるとは聞いていた。

 もう夜中だ。僕は机の電気を消し、スマホをもって部屋を出る。階段は音を鳴らさぬよう。そろりそろりと降りる。キシキシとならしながらもなんとか降りることができた。玄関でクロックスを吐いた僕はドアをあけて外に出る。

 外は真っ暗だ。街頭のおかげで何とか歩ける。近所は静まり返っている。だが、かすかによるによるの食卓の残りががする。

 頭をつかっていたのでなのかお腹が鳴り響く。

 どんどん海にむかって歩いていく。歩いているうちに街頭がどんどんなくなっていく。スマホのライトをつけようかまよいながらもまだ許容範囲だなと心得てあるいた。

 周りの灯りはいっさいなくなった。海についたようだ。灯りはなくなったが変わりにしょっぱい潮風が顔に着く。

 周りに何があるのか全く分からない、ポケットにしまってあったスマホの電気をつけて視界を確保する。

 少し光は弱いがまあ大丈夫だろう。潮風が吹いてくる方向に足を運ぶ。クロックスの中に砂がはいりこむ。なんというかムズムズする。

 スマホのライトに僕を外につれだした彼女が映る。

 「電気もつけずにどうしたの?」

 ずっと海を見ている彼女にむかって僕は言う。

 「勉強つかれた。」

 「こっちなんていいところでよびだされて 迷惑だよ。」

 「でも、やっぱり来てくれたじゃん。」

 「そりゃ、お前から頼みごとしてくるなんてはじめてじゃん。」

 「裕っていつから私のことお前って言い始めてるの?ちょっと前までしtの名前でよんでくれてたのに。」

 こっちをまったく見向きもせずに彼女はいった。

 であった当初から彼女は僕のことを下の名前でよんでいる。僕も少しの間は下の名前で呼び合っていた。だが、いつの日からか下の名前でよばなくなりさらにはお前と呼んでいる。でも、彼女との距離は遠ざかりはしなかった。

 あっちが僕のことをしたの名前で呼ぶ限りは遠ざかりはしないのだろう。

 「別にいいじゃん。で、勉強つかれたってだけで呼び出したのか?」

 そう僕がいうと彼女は僕の肩に頭をよせた。

 「すこし、このままいさせて。」

 力のこもっていない声だ。

 「死にそうな声。」

 独り言でいったつもりだがうるさいと言われた。

 「でも、もしかしたら死んじゃうかもね。人なんていつ死ぬかわからないし。死んだらどうなるんだろ。」

 いつもの彼女ではない。でも話に乗ってあげることにした。

 「死の世界とかあるかもね。もしかしたら死んだ人は現代を僕たちのことをみているのかもしれない。神と一緒に。」

 「そんなことあるわけないじゃん。」

 「でもさ、もし自分がしんだらみんなのこと心配にならない?大丈夫かな。自分がしんでかなしんでるのかななんて。」

 「裕がしんでもなー。」

 「お前は悲しまんのか。殺生だな。」

 「もしさ、私がしんだら裕は悲しむ?」

 難しいことを聞いてきた。

 「実際に起こらないとわかんないよ。」

 思ったことを正直に話した。

 「てか、病んどる?」

 「受験勉強に追われる日々で疲れただけ。心配してくれてありがと」

 「ふーん、しっかり休めよ。」

 「久しぶりに裕が優しく見えた。」

 「いつもだと思うけど。」

 以外に自分が思っているようには人の目には映っていないようだ。

 急に彼女は僕の手を握ってきた。

 「ちょっどうしたの?」

 横にいる彼女の方を向き聞いた。だが、彼女は僕の肩で寝ている。ずいぶんと疲れているんだな。

 どこかに行くわけにはいかない。彼女が起きるまですこしの間だけ待つことにした。静かな海は近くにあるテトラポッドの波を打つ。ザブーンザブーンいかにも海らしい音を鳴らしている。波はゆっくりと打ち付けられている。

 それとは裏腹に僕の鼓動は早々と百を打っている。波と脈はまったくは超が合いそうにない。

 交わりそうで交わらないこの音。この一瞬たりとも景色と音を忘れることはないだろう。

 

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