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婚約破棄の通知を書いていた王宮書記ですが、百通目の宛名が私でしたので、原本を読み上げます  作者: 銀細工ナギ


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19/20

訂正条項

私は婚約申請書の余白へ、最初の一条を書き加えた。


いずれか一方の意思により婚約または婚姻を解消する場合、相手の尊厳を損なう理由を要せず、財産上・職務上の不当な罰を伴わない。


銀墨ではなく赤墨で書いたため、端正な書面の上でひどく目立った。けれど、その目立ち方が気に入った。幸福を約束する文書の中にこそ、幸福でなくなった時の自由は見える形で記すべきだ。


エドガーは文を読み、しばらく口を開かなかった。


「お気に召しませんか」


「逆だ。私が書くべきだったと思っている」


「いま同意していただければ、共同で書いたことになります」


「同意する。謄本の第一条にもしてほしい」


私は次の箇所へペンを置いた。


「ここに、婚姻後の居所は王都を基本とするとあります。書庫が王都にあるから配慮されたのでしょうが、殿下の監察で地方へ長く滞在する場合、私は同行を強制されず、同行を禁じられない、としたいです」


「つまり、来たいときは来てよく、書庫に残りたいときは残れる」


「はい。旅先の古文書庫には興味がありますので」


「勤務より私に会いたくて来る可能性は?」


「文言上は保証いたしかねます」


彼が笑い、私も笑った。


重い話をしているはずなのに、訂正のたびに、紙が恐ろしいものではなくなっていく。文字は私を閉じ込める鎖ではなく、二人が互いに守る距離を測る線になった。


「もう一つございます」


「まだ不備があるか」


「私が徹夜を始めた際は、書庫長権限で殿下を退室させる場合があります」


「それは困る。監察官権限で、書庫長を帰宅させる条項と交換だ」


「私の体調に関する監察権限など存在しません」


「新規に設置を申請する」


「却下します」


冗談の応酬が落ち着くと、夜は深くなっていた。白硝子の灯りに照らされた机には、赤い訂正が五箇所入った婚約申請書がある。


私は、赤墨が乾くのを待ちながら尋ねた。


「エドガー様。私のどこを、伴侶にしたいと思われたのですか」


名前で呼んだことに、彼は小さく目を見開いた。それから、慎重に言葉を選ぶ。


「鐘を鳴らした君を見たとき、強い人だと思った。だが、それだけなら尊敬で終わっただろう。クララ嬢への謝罪から逃げず、自分の過失も書き残そうとした君を見て、私は、自分の弱さを隠さずに隣へ立てると思った」


「弱さを?」


「私は、兄が罪を犯していたと気づけなかった王弟だ。王家を守る名のもとに目を伏せかけた日もある。君の隣に立つなら、立派な救済者のふりをしなくてよい」


彼は少し困ったように微笑んだ。


「そして、君と茶を飲む時間が好きだ。書類を置く場所を間違えると叱られるのも、悪くない」


胸の奥で、固く畳まれていたものがほどけた。


「私は、あなたが原本より先に私を慰めなかったことを、最初は冷たいと思いました」


エドガーが固まる。


「そうだったのか」


「ええ。でもすぐに分かりました。私に必要だったのは、可哀想な婚約者として扱われることではなく、発見者として原本を守れることでした。あなたは、私の仕事を私より先に奪わなかった」


私は申請書を裏返し、別紙を一枚取り出した。


「正式な清書は、明日いたします。赤墨の訂正をすべて本文に反映し、双方が再度確認する。それでも内容が変わらず望ましいと思えましたら」


「署名をしてくれるか」


「共同申請人として、署名いたします」


彼は、私の手に触れようとして、途中で止めた。


「手を取っても?」


その問いが、何より嬉しかった。


「はい」


手袋越しではない彼の手は、思ったより温かい。私はその温かさを、紙の外で初めて自分の意思で受け取った。


「明日、清書の確認には第三者が必要です」


私が言うと、エドガーは真剣に頷く。


「法務卿を呼ぶか」


「クララ様とミーナで十分です。とても厳しい照合官ですから」


エドガーが帰った後、私は赤字の入った申請書を一人で読み直した。胸は高鳴っているのに、以前のように自分の幸福が誰かの許可の上にある感じはしなかった。断る条項を含んだ約束だからこそ、結びたいと思える。


清書用の紙は、父の工房から送られた新しい束から選んだ。原本を作るには少し素朴だが、丈夫で、銀墨をよく受け、年月を経ても波打ちにくい。父に理由を伝えれば最上級の紙を急いで用意しただろう。けれど私は、書庫で日々使うその紙へ、新しい日々の約束を残したかった。


共同申請人という表題を書き、二つの名前を書く場所を同じ幅で空ける。赤墨で合意した条項を、今度は一文字ずつ黒い本文へ組み込む。誰かの用意した幸福を受け取るのではなく、私自身が清書する幸福だった。


翌朝二人に話したとき、クララは鎮静草の鉢を倒しそうになり、ミーナは泣きながら予備紙を三枚も用意した。


私たちの婚約は、静かな秘密ではなく、見届けられて始まることになった。


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