第97話.お酒は控えめに
「株式会社は前座だと思って頂きたいです。
本日お話ししたいのは別件です、実はスリーローズ商会でもアンフェタ中毒が出まして、副作用でアルコール依存を併発、現在アミレット治療院と言う場所で暮らしております」
「アミレットなら知っていますよ、わたしも何度か見舞いに行きました」
「まずは本人を呼びますね」
応接室にカタリーナに付き添われたパトリッツアが入って来る、今日はお出かけと言う事で髪も揃え、可愛らしい出で立ち。
そんな可愛らしい彼女に今から地獄を味あわせないといけないのよ、これも商会主の仕事なんだけど辛いわね。
「パトリッツア、これ何だか分かる?」
テーブルの上にコトリッとショットグラスを置く、ラム酒がトップトップ波打っている、
「それ、お酒ですよね、ダメですよ、ここは銀行なんだからそんな物飲んじゃ……」
素直で可愛らしい少女、従順だった目から理性の光は消え、髪の毛が逆立っているかの様、次の瞬間ケダモノが乗り移ったかの様にテーブルの上のグラスに飛び付くが、わたしはヒョイっとグラスを持ち上げる。
「てめぇ、寄こせよ!」
わたしに詰め寄ってくるが、奴隷の首輪の効果で強力な頭痛が起きたのだろう、痛みでうずくまる。
「ババア、酒寄こせ! ウッ、ウワァァ」
汚い言葉をわたしにぶつけるが、その度に頭痛の嵐に見舞われうずくまる少女。
素直で明るい娘だった面影はどこにもない、これ以上続けたらアンフェタ中毒の力と奴隷の首輪の力で心が砕けてしまうわね。
ショットグラスを渡すと、一瞬で飲み干し、それでも足りないのかグラスを舐めまわしている、そんな姿に耐えられず、頭取は目を反らす。
心をケダモノに囚われた彼女に理性が戻り、自分が何をしたのかしっかり覚えているのだろう、泣きだしてしまった。
「……申し訳ございません」
嗚咽をもらすパトリッツアを優しく撫でるカタリーナ、しばらく経つと落ちついてきた。
「パトリッツア、ゴメンなさいね、辛かったでしょ」
「いえ、わたしの意思が弱いだけです」
あくまでも自分が悪いと言い張るあたり痛々しいわね。
「お酒じゃないけど、これ飲んで見て」
わたしは透明な液体をショットグラスに注ぐ。
怪訝そうに匂いを嗅ぐパトリッツア、覚悟を決め、一気に飲み干す。
「パトリッツア、味はどうだったかしら?」
「えっと、松の木みたいな味がしました、ちょっと苦いけど、飲めますよ」
「そう、それじゃあご褒美にラム酒をあげますね」
甘い香りのお酒を少女に差し出す、匂いを嗅いだ瞬間に顔をしかめる少女。
「…… イヤ ……」
「どうしたの、パトリッツア、大好きなラム酒よ、いくら飲んでも怒らないから」
その後何度もお酒を勧めて、グラスを口にしたけど、部屋の片隅に行って吐いていた。
嫌酒薬の効果は絶大ね。
「ミヤビ様、そのお薬は何なのですか?」
頭取が身を乗り出し訊ねて来る。
「これを飲むと、お酒が苦く感じて飲めなくなります」
「効果は三十日以上続きますよ」
実際は三十日前に完成して、別の人に試したのだけど、未だに効果が衰えていない。
とりあえず月に一回飲めば効果はあるのかなぁ~。
わたしは紙の束を差し出す。
「こちら嫌酒薬のレシピになります、お売り致しますよ」
「いくらで?」
「白金貨3枚で」
「白金貨5枚で買い取りましょう」
どうせ値切ってくるだろうから高めに吹っかけたらこちらの上を行った頭取、白金貨5枚って5億円よ、フーゾクのお姉さんには理解出来ない。
「ちょっと大盤振る舞いが過ぎるのではありませんか頭取」
「いえいえ、その代わり少し条件をつけさせてもらいますけど」
「あら、何でしょう」
「白金貨5枚で、新航海会社の株式を買って頂きたい」
「5枚全てですか?」
「お気持ちだけで充分ですよ」
これは全額出資しろと言う意味よ、銀行員は転んでもただじゃ起きないわね。
▽▼▽▼
新航海会社と並行して証券取引所の開設も進んで、取引初日は6社の株価が黒板に書かれたの。
異世界初の証券取引所は生き馬の目を抜く様な鉄火場な雰囲気は無く、紳士達が集まり、コーヒーを飲みながらビジネス情報を交換する場所だったのよ。
今朝も取引所のカフェでゆっくりとカップを傾けながら黒板に書き込まれる数字を見て感慨にふけっている。
“あっ、また上がった、昨日は利益確定で売りが出て、売りが売りを呼ぶ展開だったけど、今日は一転買い一色ね”
最初に投資した5枚の白金貨は今では8枚の価値があるのよ、怖いわね~、5億円が8億円よ、わたしはとんでもない物を持ちこんでしまったのでは。
わたしにはエルフ娘の力があるから、その気になればアッと言う間に財をなす事も可能だけど。
レオポルトの事を思うと“稼いで何になる”そんな気持ちに傾きだす。
そうレオポルトが心の奥に引っかかっているのよ、助ける為とはいえ、商会主で妻子持ちだった20代の男性を、10代の少女に変身させたら、記憶も女の子の記憶に。
人格なんて記憶の連続、以前のレオポルトは死んでしまったの?それともミーアと議論をたたかわせている姿がレオポルトの本来の姿なのだろうか。
「ミヤビ様、こちら相席よろしいですか?」
品の良い女性の声に無条件で大丈夫と答えてしまった、あれどうしてわたしの名前を知っているの?
「もしかしてヒルベルタさん?」
「はい、いつぞやはお世話になりました」
「えっとー、最近はどうなのですか」
やばい、何を話して良いか分からない。
パニックに陥ったわたしを無視して近況を語り出したヒルベルタ。
やはりと言うか、ルードルフに離婚届を書かされたらしい、4人の子供のうち、男児はルードルフが強引に引き取ったが、女の子だけは死守したそうよ。
シングルマザーになった彼女だけど、奴隷商会時代のツテを生かしてビジネスで身を立てようと決意、旅芸人の一座を劇場に紹介して、公演前に宣伝をして知名度を上げる。
芸能プロダクションと広告代理店を一社でこなす様な会社を設立。
「……それじゃ、芸能広告ヒルデライトはヒルベルタさんが創った会社だったのね、株価も順調じゃないですか」
「おかげ様で、今期は無理だけど、来期には配当を出せそうなのよ」
「すごいわね」
「ところでミヤビ様、わたしの主人が地下室から消えてしまったの、御存知ですよね、今どこにいるのかしら?」
レオポルト失踪事件、地下室の入り口は一か所だけ、隠し扉らしきものは見つからなかった、服が全て脱ぎ捨てられていたのも、事件の異常性に拍車をかけた。
結局謎の魔法陣は転移する為のものだったのだろう、そんな結論に達したわ。
「ヒルベルタさん、御主人のレオポルトさんは魔法陣を使って転移したと、銀行から聞きましたよ。
今頃転移した先で魔道の勉強でもなされているのではないでしょうか」
「そうですか」
勘の良い彼女の事だ、わたしが何らかのカギを握っているとは感じているだろう。
「ところで、ミヤビ様、わたしは旅芸人の宣伝をしておりますが、
いずれは常設の劇場を作って …… 」
怖い株式会社編 完
株式会社編はここまでです、最終章の神竜編につながります。




