第96話.安全な投資はいかがですか
どうして銀行は居心地が悪いのでしょうか。
銀行の応接室、趣味の悪さは無く、育ちの良いお金持ちらしさを感じる丁度品の数々。
それなのに居心地の悪さを感じるのはもうすぐ現れる人物のせいだろう。
「お待たせしました、ミヤビ様、うちの行員が不手際をしてしまい、遅くなってしまいました、申し訳ない」
居心地の悪さの元凶がやって来た。
「頭取、お気使い無く、品の良い丁度品に囲まれて素敵な時間を過ごしておりましたわ」
「何をおっしゃられますか、ドネッセラ商会の会長ともあろうお方が」
「まずはこれをどうぞ、暇な時にでもお読みください、あっ頭取はお忙しくて暇なんて無かったですよね」
綴じられた紙束を頭取に差し出す。
「新大陸航海の会社設立原案ですか……」
わたしの皮肉も無視してバンカーの表情になった頭取は真剣な顔で紙束に目を通す。
しばらくは、紙をめくる無機質な音だけが豪華な部屋に響くが、頭取の頭はフル回転しているだろう。
「……さすがはミヤビ様、出資者は航海毎にではなく、決算期毎に配当を得るとは面白いですね、しかも全てを配当に回すのではなく、最高でも純利益の30%までとは、これはどう言った意味でしょうか?」
「残りのお金は内部留保に回します、こうやって会社に体力をつけておけばもし船が沈んでも、出資者は弁済の必要がありません。
安全に株を買える仕組みだと思ったのですよ」
「ふむ、投資に対する配当は少ないですが、もしもの時も一切弁済の義務の無い株式とは斬新ですね。
一株が金貨一枚からとは安くないですか、新大陸航海の場合は白金貨単位ですよ、ミヤビ様」
「100株買えば済む話ですよ、それに細かく分かれた方が売り易いでしょう」
「それです、株式を他の株主の同意なく売買出来る、これが理解出来ないのですよ」
「そうですねぇ、金貨一枚で売り出した株式、もし会社に何かあっても弁済の必要は無い、皆さん最初は怪しげだと思うでしょうが、決算期になると株主に配当が配られます、いかがです、他の皆さまも欲しくなりますよね」
「それを金貨一枚で譲り渡す訳ですね」
「いえいえ、頭取、皆が新航海会社の株を欲しがったら、値段はどんどん上がって行くのでは」
「ほう、株価を市場に任せる訳ですね」
さすがは銀行のトップ、理解が早い。
「わたしが思うにこのシステムで一番怖いのは人々が熱狂してしまう事です。
大勢が株を欲しがれば、保有者はどんどん値を釣りあげますよね、そう言う事にならない様に、一日の上げ幅は何%まで、一月の上げ幅は何%、と規制を入れ、度が過ぎた場合はその日は取引停止、無駄に過熱する事を防ぎます。
同じ理由で下げ幅にも規制を入れた方が良いでしょう、金貨5枚まで大暴騰した株を100株買ったけど、次の週には金貨2枚まで大暴落、なんてなったら目も当てられませんよね」
「なかなか先読みをした考えですが裏で株式をやり取りする輩が現れるかもしれませんよ」
「株式は発行致しますが、管理会社を別に設けます、売り買いと言っても実際は名義変更をするだけにすれば、裏取引は規制できますよね」
わたしの頭の中には電子の数字が点滅し、銘柄番号と共に横にスクロールする証券取引所が思い浮かぶが。
こちらの世界では当分の間、取引所では黒板にチョークで数字が記入されるだろう、だけど経済的には物凄い進歩だと思う。
中産階級でも投資に参画出来る様になるのだからね。
「ミヤビ様、さすがです、新しい会社の仕組みを考えただけでなく、人々の気持ちまで先読みしているとは、これをミヤビ様の新しい事業計画として支援致しましょう」
思わず腰を浮かせたわたし。
「頭取、勘違いをされておりますわ、これは御行に対する提案です、ドネッセラ商会やスリーローズ商会には手に余る事業です」
「そうですか、株式会社の仕組みは面白いです、ですが証券取引所のボードが一社だけでは寂しいでしょう、ミヤビ様なら新大陸航海以外にもビジネスのアイデアがあるのでは?」
株式会社の起源、本当はもっと複雑なはずですけど、ざっくりと描写しました。




