第91話.戦後処理
撤退援護の白煙が立ち込める谷を見下ろしているわたし。
「来ましたマーシャとライラリアです」
「ポーリンもいたんじゃない」
「います三名戻りました」
「あなた達で最後よ、良く頑張ったわね、顔が真っ黒よ、キレイにしなさい」
顔を真っ黒にした二人の少女と一人の幼女、生活魔法で水球を宙に浮かせると、少女達は頬を拭ったり、水球に顔を突っ込んだりしてキャーキャー騒いでいる。
ちょっと前まで地獄の死闘を繰り広げていたのに、今は年頃の娘ね。
エルフの連中は結局わたし達をすり潰そうと最前線に送り込んだのよ、急いで王都の武器商人ヘリオス商会に連絡、高価な武器を惜しげなく発注したのよ。
遅滞作戦でオーガの進軍が遅れさせたので、ギリギリで会戦に間に合ったわ、危ない綱渡りだったのだけどね。
金貨を惜しげも無く使ったから数人の軽傷者で済んだわ、どうしてわたし達がエルフの為に死ななければならないの。
「早々に撤退か、最後の一兵まで戦えばもっとオーガを倒せたのにな」
一人のエルフが偉そうに言って来る。
「だったら自分で行きなさいよ、ボウガンを貸してやるわ、まだ掩蔽壕は取られてないわよ、ほら戦いなさいよ!」
少女から取りあげたボウガンをクズみたいなエルフに押し付ける。
「さっさとしなさいよ、手本を見せてよ!」
わたしは周りから抑えられ、クズエルフはどこかに行ってしまった、自分が戦いもしないで死んでこい、なんて最低よね。
怒り心頭なわたしにギュンターが謝りに来る。
「ミヤビ殿よ、我が一族の者が無礼な事を言って済まない」
「まったく無礼千万とはこの事ね、誰の為の戦争なのか分かっているのかしら。
ここにいるエルフは臆病者の集まりみたいね、助ける価値なんて無いわ!」
謝罪は大切だけど、それを受け入れるかどうかは感情の問題よね。
▽▼▽▼
臆病なエルフ達だけど、自分達の出番になるとしっかり戦ったわ、まともなエルフもいるって言う事ね。
午前中は一進一退だったけど、午後の早い時間オーガが全力で突撃をかけて来た。
戦線全体に圧力をかけるのではなく一点突破と言う戦術よ、さすがにエルフの戦線も崩壊寸前、わたしやニンファの攻撃魔法を動員したわ。
炎の塊を落したのは敵の後方、後続を潰すと先頭で戦っていた連中は孤立して最後は捕虜に。
あっけない幕切れだったわ。
▽▼▽▼
「……ミヤビ殿よ、そなた達は良く戦った、戦果を自分の目で確認して来ると良い」
ギュンターがわたしに敬称を付けて呼ぶ様になった、これは共に戦った仲を認めたと言う事かしらね。
後ろ手に縛られ、しゃがまされているオーガの捕虜たち。
しゃがんでいても顔の位置がわたしとそんなに違わないし、二の腕が女の子のウエストくらいありそうよ。
そんな中に一人立派なオーガがいた。
「こいつは敵の大将だ、自分の事をオーガキングと呼んでいるけどな。
どうだ、キングとやら、お前達はこの小娘に負けたのだぞ」
ギュンターも容赦ないわね。
「なんだ、人間の小娘か、こんな若鳥の助けを借りないと戦えないとは軟弱なエルフらしいな」
「偉そうな口を叩くな、元エルフのくせに」
「ちょっと、ギュンター殿、元エルフとはどういう意味なの?」
「ああ、こいつらオーガ族はエルフ族の突然変異みたいなものだ、時々こう言った忌み子が産まれて来るので、間引くか部族の奴隷として使い潰していたのだが、いにしえの時に忌み子共が反乱を起こしてオーガを名乗っているのだ。
そうだな、オーガキングよ」
「腰ぬけエルフが何を言うか、我らこそ本来の姿であるぞ」
どう言う事なのよ、スラリとしたエルフ族と、筋肉ダルマみたいなオーガ族、元は同じだって言うの、共通点は背が高いくらいしか浮かばない。
ボルゾイと土佐犬くらい違うわよ。
オーガの怖い顔をよく見てみると耳が尖っているわ、今まで顔面インパクトが強くて気が付かなかった。
「ミヤビ殿、負け犬オーガの遠吠えに耳を傾ける必要はない。
オーガ族のオスはこの様に醜いが、女性は我々エルフ族と同じ外見をしておるぞ、これは我らエルフ族が本流だと言う事の証左であろう」
「それはもっともですね」
わたしとギュンターが話をしていると、キングを自称するオーガが不遜な言葉。
「お前ら、勝ったつもりだろうが、真の勝者は我らオーガ族よ」
「負け犬がいつまでも吠えて、見苦しい限りだな」
「ほざけ、軟弱エルフよ、戦いこそオーガの真価が発揮される場所、弱い者はそうそうに死んでいったから、残ったのは強者のみ。
生き残ったオーガだけが子孫を残せると言う訳よ、人間の小娘、どっちが勝者かわかるであろう」
「オーガのキングさん、やっぱりあなたは負けよ、勇敢なオークは最初に死んで行ったわ、生き残りは弱くて卑怯なオーガだけじゃないのかしら」
「 …… 」
「ハハハ、オーガのキングよ、人間の小娘にも勝てない様だな。
心配するなお前達は殺さん、人質交換でオーガの女を大勢貰い受けてやる、我らが種を仕込んでやるぞ」
「ほざけ、誰がそんな取引に応じるものか!我らオーガを舐めるな、さっさと殺せ」
「我らは捕虜を殺したりはしない、だがうるさいオーガを黙らせる為に股にぶら下がっている物を切り取る事はあるかもな」
去勢をちらつかせるギュンター。
「卑怯だぞ、そんな事をしたら我らが子を為せなくなるではないか」
「選択を与えているのだよ、ここで男の象徴を無くすか、おとなしく部族の女を差し出すか、我らとしてはどちらでも良いのだがな」
味方だと思っていたギュンターが悪役に見えて来たわ。
今回の戦争、最初オーガ族がエルフの村を襲い、大勢の女性を連れ去ったの、孕ませる為によ。
ところが形勢逆転、今度はエルフが勝っちゃったから、オーガ族から女性を戦利品として召し上げる。
人里から離れ仙人みたいな生活を送っていると思っていたエルフ族だけど、やっている事は人間とたいして変わらない。
そして女は単なる道具。
「ミヤビ殿よ、今回の捕虜交換で大勢の女がエルフの里に来るであろう、楽しみな事よ、これが勝者の権利であるぞ」
ボルゾイと土佐犬、見た目は全然違うけど交配は可能よね。
オーガ族の正体は突然変異のエルフです。




