第92話.神の酒
戦争が終わると、戦利品の切り分け作業が始まります。
捕虜達を後にすると、エルフの族長がやって来た。
「ミヤビ殿よ、此度の戦いまことに見事であった、我がエルフ族にも見習わせたいものよ」
「人間界には、苦しい時に手を差し伸べるのが真の友、と言うことわざがあります、サムコヴァー様」
「まこと、ならば我も友としてミヤビ殿に伝えねばならぬな」
「族長殿、急ぐ必要はありませんよ」
これは“早くしろ”と言う意味よ。
族長は近くにあった木の実を取る。
「ミヤビ殿よ、手を出すが良い」
わたしは両手の平を差し出すと、族長は木の実を握力で握りつぶす。
緑色の果汁が滴り落ちるが、わたしの魔法で滴は空中に浮かぶ球に、表面張力で離れたり、くっついたりしている緑の宝石。
「ヴェルデと言う果実だ、少し酸っぱいが癖になる味であるぞ」
族長はそう言うと緑の粒を一つまみすると口に入れる。
わたしもそれに習い搾り立ての果汁を“摘んで”飲み込む、味は無添加のグレープフルーツジュースと言ったところかな、酸っぱいけど飲めない事は無い。
「今日はたくさん汗をかいたので身体に染みますね」
「気に入ってもらって何よりだ、このヴェルデの実は絞って果汁にして飲むのだが、ある手順で発酵させると酒になるのだ」
「今度はお酒の方も楽しみたいものですね」
「ミヤビ殿よ、何を言っておるのだ、酒の方はそなたが持って来たではないか、あんなキレイな瓶に入っていたので最初は分からなかったぞ」
「族長、どう言う意味です、アンフェタは果実酒と言う意味なのですか?」
どう言う事なの、エルフに嵌められたわ、アンフェタは誰かの発明品と言う先入観に囚われていたわ、まさかエルフの世界で身近にある物だったなんて。
ちょっと待て、エルフ達はアンフェタ中毒になったりしないの。
「族長、ヴェルデから作った酒、アンフェタと呼ばせて頂きますが、やめられなくなる様な中毒性は無いのですか」
「話を聞く限りでは我らエルフもヒト族も、同じだな、中毒の危険があるのでヴェルデの実から酒を作る事は禁止されておる」
「体質は意外に似ているのですね」
「そうだな、だが野蛮なオーガ族共は戦いの前に飲む神の酒として珍重しておるそうだ、仲間が殺されても屍を乗り越えて来るオーガを見たであろう、あれが神の酒の力よ」
そうそうエルフ達には魔力は無いの、その代わりに精霊力と言うのが有って。
怪我を治すとか、植物の成長を速くしたり、濁った水をろ過したり、その中の一つが発酵。
例のアンフェタはエルフの精霊力を使わないと作れないらしいのよ。
連日の戦いで緊張していたけど、このやり取りですっかり力が抜けてしまったわ。
これからどうすれば良いのかしら、ちょっと待って、人間界にアンフェタを持ち込んだのが誰かを訊いておかないと。
「族長、もう一つ質問があります、我ら人間の世界にアンフェタを持ち込んだのはどなたですか、御存知なら教えて頂きたい」
族長は“ついて来い”と身振りで合図する。
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連れて来られたのは死体置き場、等間隔で並べられたエルフ族の遺体、顔には白布がかけられているが、その布にまで血が染みていたりして戦闘の凄まじさが分かるわ。
「スピデルはどこにいる?」
族長の言葉に名も無きエルフは黙って指をさしただけ。
「ミヤビ殿よ、彼の者がアンフェタを持ち出したのだ」
自ら白布を取り払った長、そこにはクズエルフの顔が。
“あいつでも最後まで戦ったのね”
「スピデルと言うものだ、こ奴の家は人里に近いのでな、金の便利さに気が付いて金儲けの方法を考えたそうだ」
「金儲けはエルフの法では違法ですか?」
「さあぁな、我らエルフには人間達の様な法は無い、部族全員が集まってどうするかを決めるのだ。
スピデルの場合は戦時だったので、部族裁判は一旦保留だったのだよ」
やはりエルフは狡猾だ、オーガとの戦争でわたし達の助力が欲しくて一芝居うって、手の平の上で転がさせられていた、
アンフェタを売りさばいた張本人は死んでしまったし、この感情はどこに持って行けばいいの?
「族長、今回の戦いでは、我々も勇敢に戦いました、ご覧になられましたよね?」
「もちろんだ、ミヤビ殿達の戦いは範としたいものよ」
「お褒め頂きありがとうございます、つきましては我らにも褒美を頂きたいと存じますが」
「出来る限り答えようではないか、勇敢な戦士よ」
「我々にもオーガ族の女性を頂きたい」
命がけの戦いをしたのですから、戦利品を貰う権利はあります。




