第86話.荷馬車で遠征
今回は隠密行動での移動です。
今までの遠征は高級馬車のフカフカなシートだったのに、今回は幌の付いた荷馬車、グリーン車からトラックの荷台になってしまったの。
ガタガタと不規則に揺れ、幌の隙間から入って来る寒風に身を寄せながらの旅よ。
スリーローズ商会の冒険者全員参加でエルフの里を目指すけど、大勢では目立つから数人毎にグループを組んで隠密旅行。
と言っても、若くて美人な娘の集団だから目立つけどね。
馬車を降りると森の中に分け入っていくと、鳥の鳴き声に模した口笛が聞こえ来る。
「カタリーナなの?」
「こちらです、ミヤビ様」
上下ねずみ色の服を着た戦闘奴隷の女の子、迷宮の紫ビキニとは似ても似つくかない地味な服よね。
「みんなはいるの?」
「はい、こちらに」
何も無いと思っていた草むらからワラワラと少女達が出て来る、みんなねずみ色の服を着て、頭に葉っぱを付けている子までいるわよ。
「いつでも出発可能です」
自慢気に答える少女戦闘奴隷達、今はレンジャー部隊みたいな格好だけどね。
「ミヤビ様、この先の峠を二つ超えるとエルフの里に出ます」
「国境線は無いだろうけど、わたし達は受け入れてもらえるかしら?」
「さぁ、エルフは排他的だと言われていますからね……」
ファンタジー物の定番エルフ族、こちらの世界にもしっかりいた、森の奥に住んでいて人間とはあまり関わりを持たない。
特徴は尖った耳と男女問わず美形と言う事かしらね、後は寿命が長いらしいのだけど、これには諸説あって。
美形揃いのエルフ族なので時々遭遇する人間族からは見分けがつかなくて、
“子供の頃に遭遇したエルフが未だに若いままだ”
なんて噂が独り歩きしているみたいなの。
まぁ、それくらい人間と接点が少ない種族だと思って頂戴。
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エルフの里に向けて道なき道を歩くのだけど、どう見ても何も無い場所なのに、戦闘奴隷の子達には道が見えているみたいなの。
考えるのも疲れて来た時に突然歩みが止まったの。
「どうしたの?」
「シッ! います」
マルチナとナーディアがフラフラしているわたしを強引にしゃがませる。
“ピィィィィィ”
突然笛の音が聞こえて来ると頭の上を通り過ぎていった。
「鏑矢です、わたし達の真上を飛んで行きましたよね、これはお前達の居場所は分かっているぞと言う警告です」
「どうするのよ?」
「返事をします」
カタリーナが弓をつがえると真上に向けて放つ。
彼女の矢も鏑矢だったらしく、笛の音が長く響いた。
「敵意は無いと言う意味なのですが、エルフに通じたでしょうか?」
「ヒト共よ、ここから先はエルフの地だ、徒党を組んで入り込むとは何事か、今引き返せば許してやる、早々に立ち去れ」
鬱蒼とした森に男の声が響くが、どこから話しているかは分からない。
「大地と水の精霊に祝福を、我々はエルフ族の長と話し合いを持ちたく参じた者。
敵意は無い、どうか族長と話し合いの場を貰えないだろうか」
カタリーナが口上を言うと、しばらくして返事が来た。
「長にはかってみる、今夜はそこで泊れ、返事があるまで尾根を越える事は許さん」
「色良き返事を待っている、貴殿に精霊の加護が有らん事を」
カタリーナの声が木魂の様に森に響いた。
「カタリーナ、すごいじゃないエルフと話した事あるの?」
「ありませんよ、と言うか見た事も無いです」
「だけどさっきは“精霊のナンチャラ”とか言っていたじゃない」
「ああ、あれは本で読んだのですよ」
「エルフの話は貸本屋の定番ですよね」
「人間と恋に落ちて、だけど寿命が違うから先に死なれて傷心とか、超ありがち」
「先週の新刊は読んだ~」
「エルフの夫婦の話でしょ、子供が可哀そうだったわよね」
「ちょっと、わたしまだ読んでないの、オチは言わないでよ」
さっきまでの緊張感は娯楽小説の話で一気に消し飛んだ、現実のエルフには会った事はないけど創作物を通して知識を得ているのね。
「みんなに聞きたいのだけど、エルフの言葉でラーニョって何だか知っている?」
『蜘蛛でしょ!』
あれ? みんな知っているの、だとしたらアンフェタの販売者がエルフじゃない可能性も出て来るのでは、ここまで来て引き返せないわよね。
エルフはいるけど、ほとんど接触が無いと言う世界観です。




