第85話. お使いは可愛い女の子
情報収集には若い女性に任せるのが一番です。
警戒心を解くには持って来いです。
ダ・デーロの街、街区は高級住宅街や港湾労働者が多い地区、工房が集まった地区、卸し問屋が集まった商業区等に分かれている。
商業区の南に店舗を構える薬局“マリウス・デライア薬局”に可愛らしい訪問者がやって来た。
「こんにちはー、お薬くださいな」
10歳前の女の子、顔つきが整っている、服は生地が立っていて使い込まれていない、袖口にしっかり糊が効いている、靴もしっかり磨かれているから良家のメイドだろう。
「はい、いらっしゃい、何が欲しいのかな?」
「うんとね、メイド長がこれを」
しっかり畳まれたメモを差し出す小さな手、あかぎれ一つしていないツルンとした肌は下働きをした事がないな、訳あり下級貴族の娘だろうか。
商売人特有の分析で客を値踏みする店主。
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「はい、お待たせ、グラセ錠が10包とカローレ錠が20包、こっちの袋にまとめて入れるからね」
「おじさん、アンフェタは?」
「ごめんねお嬢さん、アンフェタは今入荷しないんだよ」
「えー、どうしよう、メイド長きっと怒るよぉ」
「こっちも仕入れしたいんだけどね、今は色々厳しいんだよ」
「おじさん、これで何とかなりませんか?」
ポーチから数枚の大銀貨を取り出しカウンターに並べる女の子。
「ちょっと探して来るね」
ご禁制品と言っても所詮は商人、これくらいの融通が効かないと商売なんてやっていけない。
「こっちに入っているよ、残り少ないから大事に使う様に言ってくれよな」
さっきまで紙袋に優しく錠剤を包んでくれた薬剤師は密売人の顔に代わっている。
密売人は無愛想な皮袋を外から見えない角度で少女に渡す。
「おじさん、ありがとう、誰がアンフェタを売っていたのか分かりますか?」
そう言いながら更に大銀貨をカウンターに置く少女。
商売人と言う者は対価に応じた仕事をしなければならない、それが商人の矜持と言うもの。
「実は女の人なんだよ、割と体格が良くて、髪がスラリと長くて美形だったな」
「名前とかは分かりますか」
「アラクネって名乗っていたけど“蜘蛛”なんて名前は偽名だと思うよ」
「ふーん、アラクネさんか、おじさんありがとうね」
薬局の主人は上機嫌、思いの他の臨時収入が入った、週末はちょっと高めの娼館に行ってみよう。
▽▼▽▼
アンフェタの仕事を受けてから15日後、バンカーレベッカがわたしの商会を訪れた、
「……ミヤビ様、どうでしょうか進捗はありましたか?」
「今は捜索範囲を周りの街に広げているところよ、結論から先に言うと二人の売人がいるようね」
「アラクネとラーニョですね」
「そこまで調べてあるならわたし達が歩きまわる必要はないじゃない」
「そうでもないですよ、情報には裏付けが大切ですから」
レベッカはそう言うと一枚の紙を差し出す。
「マリウス・デライア薬局アラクネ、ファーマシー・プロッターはアラクネ、インシスト薬局はラーニョ、ダ・デーロ港湾薬局もラーニョ、三角地ファーマシーはアラクネ……」
わたしはレベッカからもらったリストを読みあげる。
「体格の良い女性がアラクネで、毛皮の帽子を被った細身の男性がラーニョですね。
我々銀行としては夫婦ではないかと疑っているのですが、ミヤビ様はいかがお考えでしょう?」
「う~ん、薬局の位置とかに規則性はないし手詰まりなのよねぇ」
「あのー、ミヤビ様、ご意見宜しいでしょうか?」
紅茶のワゴンを押して来た高級娼婦候補生のシルキーナが甘ったるい声で話しかけて来る、声だけで勃起すると言われている脳トロボイスよ。
「アラクネとラーニョは同一人物ではないでしょうか、ラーニョは毛皮の帽子を被っているのですよね、髪をたくしあげて男のふりをしているだけで。
あっ、逆かもしれませんね、華奢な男性が女性のふりをしているだけかも」
脳トロボイスにわたしとレベッカは顔を見合わせる。
「シルキーナ、なかなか良い視点ですね」
「お褒め頂きありがとうございます、ミヤビ様、ラーニョも蜘蛛と言う意味ですよ」
「そうなの?」
「はい、確かエルフ語だったと思います」
紅茶を飲み干す頃にはわたし達の次の遠征先が決まった。
エルフは男女が分からないくらい美形揃いです。




