第83話.奴隷商会の落日
接客業はストレスが溜まる業種です。
何らかの発散する必要があります。
頭取からの提案でアンフェタの流通経路を探って欲しいと言われたが、保留と言う遠回しな辞退をして来たわ、わたしだって薬物に思うところが無い訳ではない。
風俗の仕事をしていると、色々な物に依存している子達を見て来たわ。
お酒とタバコは風俗嬢の一般教養、ホストにいれ込んだり、ヒモを囲ったり、相手を選ばないセックス依存もありがちよね。
他にはギャンブル依存とかかな、パチンコなんて可愛いものよ、スマホ一つで最高のスリルが味わえるFX取引で一瞬で数百万を溶かした、なんて話も耳に入ったわね。
今になって客観的に見てみるとわたしも最初はホストに貢いでいたし、ソープ嬢になってからは買い物依存症だったわね。
男に貢いでも買い物に嵌っても、経済的に破たんするかもしれないけど、身体は健康よね。
お酒やお薬は身体がボロボロになって行くのが怖いのよ。
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銀行を出るとフリッカと別れ、わたしはレオポルト商会へ。
そろそろ新大陸から船が入る頃よね、戦闘センスの有る獣人奴隷の女の子を買うチャンスよ。
獣人も最初の頃は人ではない、と言う扱いで首輪もしないで足首を鎖でつないで働かせていたのだけど、彼らにも人権が認められ、今では普通の人間と同じ様な扱いよ。
実は新大陸から運んで来る主な産物は魔晶石と言う物で魔道具の製作に欠かせない物らしいの、獣人はそのついでなんだって。
そんな生活必需品を運んで来るので航海では大きなお金が動くのだけど、船を運航するのは海運会社ではなくて株主。
新大陸へ航海をしようと思ったらまずは船主から船を借りて、船員を雇って。
良く知らないけど、帆船って物凄くたくさん水夫を乗せないと動かないらしいの。
そういう投資は一人や一つの商会で賄えられるものじゃないから、数社が集まってお金を出し合って、やっと出港なんて流れらしいのよ。
新大陸から帰港して積荷を売りさばいて、船員の給料を清算して、残ったお金を株主で分けたら、それでチャラ。
毎回毎回航海の度に同じ事を繰り返しているのだけど、配当金が出資金を下回る事は絶対にない、むしろ倍近い金額が帰って来たりする。
物凄い率の良い投資だけど、参加できるのはお金持ちだけ、金持ちはどんどんお金持ちになっていくのよ。
平民はお金の為に働くけど、金持ちはお金を働かせる、なんてことわざがあるくらいだからね。
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馬車がレオポルト商会に近づいたけど、何か様子が変、人込みをかき分けて門の前まで進むと、見た事の無い制服を着た衛兵が槍を持って威嚇している。
「ちょっと、これどう言う事よ!」
わたしの問いに衛兵もどきは張り紙を指さす。
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告
本日、法の定るところによりレオポルト奴隷商会(以下甲と呼ぶ)はダ・デーロ銀行(以下乙と呼ぶ)の管理下に入った。
甲の保有する不動産、従業員、奴隷を含む人的資産、現金、有価証券は全て乙の管理下に置かれ、乙の許可なく持ち出しをする事を固く禁ずる。
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レオポルト商会は破産しちゃったの?
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わたしはそのままレオポルトの父親、ルードルフの奴隷商会に向かった、こんな時に頼りになるのは金持ちの身内よね。
「……そう言う訳でレオポルト商会の前は大騒ぎになっています、大変なんですよ、今こそ父親のあなたが出ていかないと」
「まぁ、少し落ち着いたらどうだね、ミヤビ君、そんなに大騒ぎする程の事でもなかろう」
「今!騒がなかったらいつ騒ぐのですか、一大事だと言うのに」
レオポルト商会はわたしがこちらの世界に来て初めてお世話になった場所よ、その後は頭角を現して大事な仕事を任される様になったし、今でも大切なビジネスパートナー。
だと言うのに父親のルードルフは落ちつき払って紅茶を勧めて来る始末。
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「どうだね、少しは落ち着いたかね」
「多少は、先程は声を荒げ過ぎました、失礼をいたしました」
「まぁ、良い、ところでミヤビ君、どうしてレオポルト商会が銀行の管理下に入ったかは知っているかね?」
「はて、わたしの聞き及ぶ範囲では財務状況は健全でしたよ、運転資金も自己資金で賄っていたし、銀行からの融資は殆どないはずですが」
「まったくもってその通り、レオポルトは堅実な経営をしておった、だがあのバカは新大陸に手を出しおった。
船が帰ってくれば投資した白金貨は倍近い値段になって帰って来るが、船が沈んだりしてみろ、株主は船の代金を船主に払わなければならないのだぞ」
「あの、ルードルフ様、わたくし不勉強で良く分からないのですが、新大陸に船を出すにはお金がかかるからみんなでお金を出し合い、船を借りて船長や船員を雇うのですよね」
「その通り、だが今回の航海では船は沈んでしまったので、株主は船主に船代を払わなければならない、今回の船主は銀行だがな。
借りた物を無くせば弁償する、当たり前のことであろう」
ちょっと、わたしの知っている株式とはずいぶん違うじゃない、株主にはそんな賠償責任は無いはずよ。
「それで、ルードルフ様はこれからどうなさるおつもりなのですか、御子息が破産の道を歩むのを黙って見ているだけですか」
「ふむ、ミヤビ君には我が一族の誓願を話して無かったかな?」
「一族の誓願と申しますと?」
「貴族に返り咲く事である、我が父の代までは爵位持ちだったのだよ、我が家は」
「ますます、分かりませんが、破産しては貴族にはなれないでしょう」
「レオポルトはもうダメだな、だがわしには孫が四人もいる、今回はたまたま我が家に遊びに来ておったから、銀行の連中の手は及ばんよ……」
なんと言うか身内の情に訴えレオポルト商会の窮状を何とかしてみようと思っていたのだが、これはダメだ、我が息子をアッサリと切り捨てるとは、金持ちは怖いわね。
それよりも株式会社の株主は全ての責任を負うと言うのは知らなかったわ、わたしもダールマイアー領に娼館街を作った時には株式会社の制度を導入したわ。
だけど株主は全員が娼館主で組合みたいな組織になってしまったし、本当は怖い株式会社よ。
黎明期の株式会社を描写してみました、実際にはもっと複雑だったみたいです。




