第81話.シャンパンタワー
元冒険者のフリッカが現れます、覚えている人はいるかな。
地方銀行と信用金庫の二種類の金融機関がある世界です、地銀と信金はそもそも、根拠となる法律が違っています。
迷宮から帰った翌日、今日は客人と会う日よ。
「フリッカ、お待たせぇ~」
「ミヤビ! だよね?」
わたしの身体を舐めるように見まわすフリッカ。
「身体が幼く見えるでしょ、これも魔力の力なのよ」
「そうなんだ、魔力持ちも大変よね」
「ええ、まぁ」
ゴメン、フリッカ、ウソなんだ。
「そうそう、ミヤビ、まずはこれを見てよ、わたしの自信作よ、今シーズンはずいぶん稼がせてもらったわよ」
細長い木箱の中からはワインのボトルが出て来た、栓がコルクじゃないわね。
「白ワインね」
「まずは飲んでみてよ」
迷宮で一旗揚げようと田舎から出て来た冒険者フリッカ、抜群の戦闘のセンスと、荷物持ち奴隷や戦闘奴隷を上手く使いこなすマネジメント能力、あっという間に財をなし引退、ワイナリ-を始めたの。
革パンツを脱ぎ捨てビジネススーツを華麗に着こなす女実業家。
そして何よりわたしとタメ口で会話のできる相手なの、商会主なんて立場になると、そう言う友達は貴重よ。
アーバンイエローの液体からは小さい泡が弾けては消え、弾けては消え。
「フリッカ、どう言う事? このワイン泡が出ているわよ」
「わたしのワイナリーで偶然できた物なんだ、去年は200売ったわよ」
「200樽なんて凄いじゃない」
「あー、ミヤビ、ゴメン、200って言うのは瓶で数えての数字、樽だとすぐに泡が抜けちゃうでしょ」
「なるほど」
「それでね、今シーズンは専門の醸造所を造ろうと思うんだけど、お金の件で相談に乗って欲しいんだ」
「銀行に行くの?」
「うん、銀行なんてわたしの事、絶対バカにするでしょ、味方が欲しいのよ」
「ちゃんと事業計画書を作ってあれば平気だよ、わたし達はお客だよ、それよりもお酒の名前はなんて言うの?」
「まだ、決めてないけど、泡が出るから“泡盛”ってどうかな?」
ちょっと待って、泡盛って沖縄のお酒じゃない、どう見てもシャンパンでしょ。
異世界でホストクラブ開いたらシャンパンタワーが泡盛タワーになっちゃうわよ、そんなメンソーレなホストクラブは嫌よ。
「あのさぁ、フリッカ、泡の音がシャンシャン聞こえて、パンパン弾けたからシャンパンってどうかな?」
「シャンパン…… ……シャンパン良いじゃない、さすがはミヤビね、センスがあるわ」
よし、これで異世界シャンパンタワーの布石ね。
本当のシャンパンは地名が由来だった気がしたけど、そんな事は些細な問題よ。
▽▼
スリーローズ商会はダ・デーロ迷宮の稼ぎ頭、ワインの醸造所を建てるくらいのお金ならいつでも貸せるけど、フリッカはわたしに頭を下げないわ。
あくまでも対等の立場を望むのね、彼女の事は大切にしないとね。
それなりのお金を融資してもらうなら銀行、前の世界ではATMくらいしか使った事なかったけど、こちらの世界では身近な存在よ。
ダ・デーロ港湾商銀、トライトン興業銀行、ヘールバッハ流通銀行、等の銀行がそれぞれの得意分野にお金を融資しているの。
だけど、これらの銀行は組合、つまりギルドが起源、一般の人でも預貯金は出来るけど、融資はギルド所属の事業所だけなの。
信用金庫だと思ってね。
わたし達が行くのは地方銀行のダ・デーロ銀行よ、信用金庫とは格が違うけど、尻込みしちゃダメよ。
マホガニーの扉をくぐり、皮張りのソファーに座って、所在なく待っている、わたし達。
「お待たせいたしました、フリッカ様、ミヤビ様、わたくし当行の融資担当を任されておりますレベッカと申します、若くて不安に思えるかもしれませんが、期待に沿えるよう、一生懸命頑張りますので、よろしくお願い致しますね」
自分の事をまだ若いと行ったバンカーのレベッカだけど、確かに二十歳前後に見えるわね、フリッカと同じ位か。
わたしはワイルドカード、実年齢だと二人より10歳くらい上なんだけど、見た目年齢は中学生。
異世界に来ても女性の年齢チェックを欠かさないのは女の業なのかしら。
「それでは、今回はフリッカ様が新しく醸造所を造りたいのでご融資の相談でよろしいのですね」
「そうよ、見積書を渡したと思うけど、2か所に建てたいのよ」
「えっとー、ハイラリアとクレールの二か所でございますか、ギリギリ馬車で往復出来る距離ですよね、一か所に集約した方がよろしいのではないですか?」
「ワインの醸造は鮮度との戦いでもあるのよ……」
フリッカはワイナリーのすぐ横に醸造所を造る事の大切さを説いた、彼女の話を聞くとワインに対する造詣の深さが良く分かる、これは冒険者時代から起業の準備をしていたのね。
この世界には地産地消と言う言葉はないわ、地元の物を食べるのが当たり前だからよ、わたしが思うに輸送コストが大きいのだと思うの。
長距離トラックや貨物列車が発達して、配送便が毛細血管の様に張り巡らされていた前の世界では、わずかなお金で日本全国に宅配便を送る事が出来たのとは大違い。
そんな物流コストが高い世界でワインを遠くまで出荷するのだから、利益率の高い商品出ないと割にあわないわよね。
どうして醸造所を二か所にするのかは、リスクヘッジを考えての事よ。
ハイラリアの里とクレール郷は直線距離では近いけど、大きな運河を挟んでいて地勢がまったく違うそうよ。
更に育てているブドウの品種が違うので、定期的に訪れる病害を考慮しての事らしいけど、そんな事にまで頭なんて回らないわよね。
だけど若いバンカーはそんなに甘くなかった、頭の中に電卓が入っている、なんて表現を聞くけど。
レベッカは頭の中に緑のシンボルカラーの表計算ソフトが入っていて、利益率35%で500本売った場合と、利益率27%で800本売った場合、5年後にどれだけ差が出るか。
会話をしながら計算しているのよ。
「フリッカ様、こちらの見積書には輸送コストが載っていませんよね、価格に上乗せと言う形でよろしいのでしょうか」
「ええ、舟運を考えているのよ」
「なるほど、それならばお安いですね、あの辺りはバルク船(バラ積み船)が運航していますから丁度良いですね」
「いやいや、バルク船は使わないよ、チャーター船を使う予定、ワインは品質管理が大変だからね、雑に扱って欲しくないんだ」
「そこまで考えていらっしゃるとは、宜しいでしょう、上司にはかってみますね」
そう言って席を立ったバンカーのレベッカ。
ワイン作りはブドウ栽培から始まり、数多くの工程が有るのです、マネジメント能力が問われます。




