第30話 人買い村
ミヤビは実務能力も高い女性だったのです。
わたしは、レオポルト様の奴隷だけど、そのご主人様は表に出て来るのは最低限で、奴隷契約とか変身魔法の時に顔を合わせる程度。
ミーアの話によると魔道具の回路図を描いているそうで、徹夜をする事もしばしばだそうよ、根っからの研究者よね。
その幼女ミーアも簡単な回路図なら描ける程度まで勉強が進んでいるらしいから、レオポルト様、女児のスカートを覗いて喜んでいるだけの変態ロリコンじゃなかったのですね。
そんな出不精なご主人様の代わりに、商会の実務をこなしているわ。
やってみると意外に楽しいし、やりがいがある仕事よ。
“自分のやりたい仕事をする”現代日本からやって来たわたしには当たり前の感覚だけど、ここは異世界でわたしは奴隷、まったくやりたくない仕事に就けと言われても従わなければならないのよ。
生活の保障の代わりに職業選択の自由を売り渡したわたし。
もっとも風俗嬢時代のお客も同じ様な愚痴をこぼしていたわね。
生活があるから仕事は変えられないとか、この歳で新しい事なんて出来ない。
あれ、現代日本にも奴隷がたくさんいたんじゃないの?
とは言え、わたしが実務をこなすと暇になって来たのが執事のオスヴァルトさん。
申し訳ないと言う気持ちもあるけど、彼はレオポルト様が独り立ちできるまでのつなぎの役割だからしかたないよね、そんな彼の部屋をノックする。
「失礼致します、オスヴァルトさん、只今時間宜しいでしょうか?」
「これはミヤビ嬢、こんな時間の止まった様な部屋に何の御用ですかな?」
暇を持て余した執事は木彫りで魔物の彫像を彫っていた。
手の平サイズなんだけど、一体一体に躍動感があって、売れば商売になるレベルよ。
並べられた完成品に思わず見とれてしまったわたし。
「気に入られたようでしたら持って帰っても良いですよ」
「魅力的な提案をありがとうございます、ですがわたしの話は別にあるので……」
ビアンカの話をオスヴァルトさんに伝える、わたしが騙されて人買いに売られた村はデニス村と言うそうだ。
そこに残っているビアンカの妹を買い受けして欲しいと頼まれた。
「……こちらがビアンカからもらったお金です」
小さな革袋をオスヴァルトさんに渡すと、彼はその中を見て目を見開く。
「これなら村の娘全員買ってもお釣りが来そうですね」
「ですがあの村は一筋縄ではいかないでしょう」
考えてみればおかしな話だ、わたしが村に現れて翌朝には人買いが来ていた、近くに人買いのアジトがあるのか。
そもそも人買い自体が非合法な活動、そんな彼らと連絡がつく事も怪しい。
「ミヤビ嬢の考え通りでございますよ、デニス村は半盗賊の村です。
普段は農作業をしておりますが、めぼしい獲物、そうですなぁ一人旅とか護衛の少なそうな隊商が来ると牙をむくたちの悪い連中でして」
「ビアンカとカタリーナはその被害者なのですね?」
「カタリーナの親は行商人だそうです、ビアンカの親も盗賊の被害者でした、確実ではありませんが身分が高い人だった可能性があります」
だから隷属スキルが効いていなかったのね。
「領主様に頼めないのですか? 悪い村だから懲らしめてくださいとか」
「あそこは丁度領地の境界にあるので、どちらの領主の力も及びにくいのです」
「オスヴァルトさん、わたし達は商人です、利益を上げるのがその務めですよね?」
「もちろんですが」
「ですが犯罪を見逃すのは人としてどうなんでしょう?」
「大変高潔なお考えですが、商会の資産を勝手に危険に晒すことは許される事ではありませんよ、あなた自身を含めてね」
わたしの様な正義感に駆られたバカな小娘を何人も見て来たであろう、ベテラン執事に浅はかな考えはお見通しだった。
だけどわたしの決意は変わらない、金貨の入った袋を持ち毅然と言う。
「依頼を受けました、買い取りに行きたいのですが」
ため息をついた執事オスヴァルト。
「ルードルフ様にお頼みして戦闘奴隷をお借りして来ましょう」
◇◇
今まではギルドの修練場で汗を流していた少女戦闘奴隷達、わたしの思いつきで対魔物の戦闘練習は一旦切り上げ、対人の剣術を極めている。
もちろん対人の練習をギルドの修練場で行ったら面倒が起きる事間違いなし。
仕方なく、狭いパティオで木剣を鳴らしているけど、サン・ホセ達に言わせると狭い場所の方が実戦向きで良いそうよ。
ルードルフ様からも戦闘奴隷を借りる事が出来たけど、彼らはみんなゴツイ筋肉の塊。
見るからに戦士みたいな人達が来たら盗賊村は平和な農村の仮面を被ってしまうから、使い方が難しいわね。
対魔物との戦いと、対人での戦いは勝手が違います。




