第15話 最初はみんなこうなのよ(パオリーナ)
元娼婦目線の話です。
わたしはどこから来たの? この事を考えると頭が痛くなります。
ミヤビ様の話ではわたしは山奥の寒村で口減らしに売られた娘だ、と言っていたけど、いつも窓辺から船を見ていた記憶が有るの。
なんでなの? 考えようとすると頭痛がしてきます。
口減らしで売られたわたし達、商会で本を読み、計算の勉強をしていましたが、ついに売られる日がやって来ました。
わたしは仲間と一緒に馬車に乗せられ迷宮にやって来ました。
迷宮と言うのは魔物が住んでいる怖い穴、その魔物を狩るのが冒険者と呼ばれる人達。
それは恐ろしい魔物だけど身体の中には魔石と言って魔力の塊が入っています。
この魔石を魔道具にセットすれば真っ暗な夜でも本が読めるくらい明るくなるし、食材を冷やして保存したり、凍える冬でも暖かく過ごせます。
馬車の中でミヤビ様から御説明を受けました。
“今回はお試しで一日だけ冒険者に同行します、気に入ってもらえたら奴隷として、お買い上げしてもらえるから頑張ってね”
いつまでも商会でご飯を食べているだけの生活は申し訳ない、頑張って冒険者さんをサポートしますからね。
わたしとペアを組んだのはフリッカさんと言うソバカス顔の女性、まだ幼さの残る顔立ちですけど、かなりのやり手らしいです。
荷物持ち奴隷のわたしは武骨な背嚢を担ぎ、左腰には魔石を取り出す為の小刀、右腰にはお昼ご飯の入った雑嚢。
そしてフリッカさんの愛刀を両手に抱えてヒタヒタと冷たい洞窟を歩きます。
「パオリーナ、今ここは迷宮の第四層と言う所よ、滅多に来ないけどね」
「フリッカさんの腕を疑う訳ではありませんが、強い魔物がいるのではないのですか?」
「実はそれ程でもないんだよ、本当に……」
わたしを手で制するフリッカさん、押し殺した声で絞る様に言う。
「 …… いるわ …… 」
全神経を集中すると暗闇の中に不気味に光る二つの赤い点。
フリッカさんは物凄い速度で駆けて行くと、二つの赤い点に向けて飛び蹴り。
不快な音が冷えた床に響き一瞬で勝負がつきました。
わたしは重い荷物をガチャガチャ揺らしてやっと駆けよると、そこには大型犬くらいのウサギが横たわっていました。
誰に指示されたわけでなく、わたしは背嚢を下ろすと腰のナイフを抜いてウサギの腹を切り裂き、魔石を取り出します。
そうそう魔物と言うのは異界の生き物、わたし達みたいに切れば血が出たりしません、ねずみ色の不気味な肉の中から魔石を取り出し背嚢に入れます。
“漁港から揚がったばかりの魚を捌いていたわたしにはどうって事有りません”
なんで漁港? ダメです頭痛が、早く違う事を考えないと。
その後は魔物を見つけるとフリッカさんが飛び蹴りや正拳突きで倒すと。
わたしが速やかに魔石を回収するという流れ、空っぽだった背嚢も随分重くなって来ました。
今はお昼ご飯、わたしとフリッカさんは背中合わせに座りながらパスティーを食べます。
パスティーと言うのは少し厚めのパイの中に炒めたひき肉や野菜を詰めた物。
片手で食べる事が出来るし手も汚れないので、外で働く労働者の食事として重宝されている食べ物の事ですよ。
「ねぇ、パオリーナここは地下だと思う?」
「フリッカさん、何言っているのですか? ずいぶん深く潜りましたよね」
フリッカさんは迷宮の秘密をわたしに教えてくれます。
「昔ウルリッヒと言う好奇心旺盛な貴族様がいてね……」
ウルリッヒと言う男性、迷宮の横に深い縦穴を掘り、そこから横に迷宮方向に掘り進めば途中の階層から迷宮に入れるのでは?
そんな思い込みで始まった実験だが、迷宮が有るはずの場所には何もなく、ただの粘土質の土が堆積しているだけだったの。
だったら迷宮の壁を壊して横に穴を掘り進んだらどうなるのか?
結論から言うと、迷宮の壁は壊れなかった、鉱石を掘り進む様に石の壁を削っていくが、気がつけば元の姿に戻っている。
「……そう言う事が有ったの、他の迷宮も調べたけど、結果は同じよ」
「フリッカさん、私達は今どこにいるの? 変でしょ」
「私達の知らない遠くの世界に繋がっているのよ、迷宮はその世界をつなぐ通路みたいなもの」
食事の後は更に迷宮を進みわたし達は第五層まで降りて来ました。
今フリッカさんはセルヴィーンと言うトナカイの化け物に正拳の突きを浴びせている最中。
わたしは戦いを見守る事ができ、なおかつ後ろから忍び寄る別の魔物も監視できるポジションから周囲を警戒しています。
視界の隅を動く物がいました、わたしは背嚢を捨てるように下ろし、剣を構えます……
「パオリーナ、もういいから、とっくに死んでいるから」
フリッカさんの声が聞こえて我に帰りました。
足元にはズタズタになった魔物の塊、判別できない程わたしは剣を打ち下ろしていた様です。
フリッカさんは魔石を回収されました。
「今日一番の魔石はパオリーナの手柄だよ」
褒めてくださっているのですがわたしの脚はガタガタ震え剣を握る指は真っ白です。
「初めて倒した時はみんなこうなるよ、パオリーナは立派なほうだって」
フリッカさんがガチガチに固まった指を一本ずつ剥がしてくれました。
帰りの背嚢はフリッカさんが担いでくれると言う、何とも情けない迷宮デビューです。
次からは誰も私を指名してくれないのではないでしょうか。
フリッカは剣よりも、体術で魔物を倒すタイプのファイタータイプです。




