第107話. 禁断の花園
この世界の竜は地竜です、羽根の生えた竜は空想の生き物と言う位置付けです。
水落としは二隻の飛行船、もう一隻はシャワーみたいに水を播いて魔物の動きを止めて、進軍をサポート。
わたしとニンファの飛行船は搭載量が少ないので、上空から“氷の矢”で魔物を削っていくのよ。
ミーアとエルヴァに作らせてあった、禁断の魔道具を飛行船にセットしたわ。
まずは水をタンクに入れ、氷魔石で先の尖った人差し指くらいのサイズに瞬間冷却させた弾を作ると、ミーア謹製の風魔具で圧縮された空気で一気に押し出す。
何の事か分からない? 早い話が鉄砲よ。
火薬を使わない空気銃なんだけど、銃身から放たれた氷の弾、数百Mは余裕で飛んで行き、板を打ち抜くくらいのパワーがあるの。
そうそう、歴史を遡ると、火縄銃とかの時代の弾は球形だったのよ、意外にも空気抵抗が大きいので、遠くに飛ばしたいなら鉛筆みたいに先の尖った形にするのが良いそうよ。
気の効いたミーアは引き金を引いている間、弾が何発でも出て来る機関銃みたいな魔具に仕上げてくれたのよ。
この武器を世に出すべきか迷ったわ、だけど、いつかは出さないといけない、心の中でそう分かっていたからね。
タンタンタンタン、規則的なリズムが両舷と艇尾に備えられた氷矢と言う名の機関銃から聞こえてくる。
なんか、昔観た戦争映画で、こんな場面があったわよね、確かヘリコプターの上から機関銃を撃っていたような。
“左舷の銃、水が足りません”
“アニカ、水タンクを持って来て”
“艇尾の銃、氷魔石が弱って来ました、新しいのと交換出来ますか”
“予備はどこよ … ”
「カタリーナ、みんなにちゃんと狙う様に言いなさい」
「ミヤビ様、下一面魔物だらけですよ、外す方が大変です」
「そうなの?」
「あっ、右の前線で紫の発煙弾が上がりました、水落とし隊がもうすぐ来ますね」
「ねぇ、戦いは魔物に不利よね、魔物は逃げようとしないのかしら?」
「逃げませんよ、あいつら、スタンピードになると知能が無くなって、死ぬまで進むだけですから。
いつかは魔力が尽きて死ぬはずですけど、その頃には領地はズタズタにされているはずですし。
そうなったら、魔石を回収出来ませんからね」
「えっ、外の魔物も魔石を持っているの?」
わたしの言葉に、呆れた顔をするカタリーナ。
「魔物が魔石を持っているのは当たり前じゃないですか。
あっ、ミヤビ様、あそこ見てください、魔物がいません!」
なんと、わたし達の飛行船は魔物大量発生の最後尾まで来てしまったわよ。
そんな時にホライナから感覚同期を求められた、あの子は今防衛線の内側で調整役をしているはずだけど、何かしら?
[ミヤビ様、リリアーナ防衛陣地に王族がやって参りました!]
「バカ王子なの?」
[いえ、ロレナーダ王女です、既に陣地入りなされました]
出来れば、隠しておきたかった飛行船と禁断の銃だけど、しっかりと見られたわね。
「わたしの艇は一旦陣地に戻ります、他は戦闘継続で」
○
わたしの前に立つロレナーダ王女、自慢の御髪はアップにして、高級なドレスの代わりに戦の装い、傷一つないマットシルバーの胸甲と、紫のマント。
形ばかりの貴族に見えるかもしれないけど、この王女剣術の心得が有るわよ、体幹が全然違うわ。
その気になれば、腰にぶら下げたレイピアで一瞬に串刺しにされるわよ。
向こうはロイヤルスマイルでこちらを見ているけど、担任に呼び出された小学生の気分よ。
あーあ、どうやって言い訳しようかしら。
ひざまずいたわたしは、口上を述べる。
「この度は、この様な戦場でやんごとなきお方とあい見える事ができ、不肖ミヤビは嬉しき限りでございます …… 」
わたしの挨拶を、手の平で制したロレナーダ王女。
「よい、今は有事だ、その様な挨拶は不要。
さて、商人のミヤビよ、あの空飛ぶ乗り物はそなたの商会が作り上げた物か?」
「このミヤビは商人でございます、されど竜を商品にするなど烏滸の沙汰。
護国の神竜が羽根を休めている様にしか見えませんが」
飛行船を竜と言い張るわたし、表情を表に出さない王族でも、頬が引きつったのが分かるわ。
「なるほど、あれが護国の神竜であるか、建国神話を目前に出来るとは、王族として誇らしいぞ」
「まこと、凛々しき姿は一幅の絵の様でございます」
「ミヤビよ、あの神竜はこれから先も我が国を守ってくれるのか?」
「それがしが愚考しますに、今回の危機が去れば、姿を消すでしょう。
されど、再び危機が訪れれば、祈りが届き、天佑神助が国を助けるのではないでしょうか?」
「そうであるか、神竜の加護はまことであったのだな」
この発明は当面の間表に出しませんと宣言したわたし。
王女の立場になってみれば、強大な破壊力を秘めた兵器を公開すれば、バカ王子の手元に置くだろうし。
秘密にしておいてくれた方が自身にメリットがあると判断してくれたのね。
魔物の大量発生も魔力が尽きていつかは止まります。




