第103話.やんごとなきお方
特許らしき概念はありますけど、明文化はされていない世界です。
他人にアイデアを盗まれないようにするには、貴族に袖の下を渡す、生臭いやり取りが必要です。
劇場を造るつもりが、力コブが入り過ぎて、テーマパーク型の遊園地まで造ってしまったわたしミヤビ。
初めての体験に、国中が大騒ぎだったのよ、何と言っても王子が視察に来るくらいだからね。
その王子がわたしにプロポーズ、いやいや、ちょっと違う、性欲処理の人形にならないかと、お誘いを受けたのよ。
ダールマイアー伯爵が上手く取りなし、お誘いはうやむやに、今は“お忍び”で娼館街に行っているわ。
伯爵の仕事は、独占権の確立よ、魔道列車や絵ニメーションを勝手に作れない様にするの。
まだ、特許と言う概念は萌芽の段階なのよ、貴族や王族の権限で、アイデアを守ってもらうのよ。
新しい発明をむやみやたらに広げるつもりはないわ、炎魔石を利用した蒸気機関、その気になれば馬車と置き換える事も出来るけど、大量の失業者が出てしまうの。
もちろん、武器や兵器に繋がる発明は外には出さないわよ。
わたしが世に出すのは、娯楽方面の充実ね。
そうそう、パラシオテーマパークは、遊園地エリアと劇場エリア、ホテルエリア、そしてリゾートエリアに分かれていて、周回する魔道列車でつなげているの。
ちょっと収入高めの人がターゲットのリゾートエリア。
滞在型リゾートって言ったところかしら、軽く乗馬体験したり、テニスっぽい遊びが出来たり、パターゴルフ、フリスビーを使った遊びまで。
リゾートエリアの一番の目玉は温水プール、この国はそこかしこに運河が張り巡らされているし、海にも面しているのに、水遊びと言う概念が無いのよ。
温水プール、昼間はウォータースライダーではしゃぐ声が響くけど、夜になると、照明を落とし、プールの底から、緑や黄色のライトで照らし上げるのよ。
異世界初のナイトプールには、スタイルの良いお姉さん達がはしゃいでいる。
半分くらいは、隣の娼館街から遊びに来ているお姉さんなんだけどね。
わたし達はガラス越しにお姉さん達を眺めている、照明の関係で向こうからは見えないのよ。
大切なお客様を招待するための特別室なんだけど、今回は部屋の選定を間違えたみたいね。
わたしの前に座っているのは、一見地味な服だが、よく見ると高級品のドレスをまとった女性。
品よく整った顔は一目で貴族だと分かる顔と言えば良いかしら。
そう、彼女は貴族の頂点とも言うべき王族、ロレナーダ王女、昼間のバカ王子の妹でもあるの。
後ろには、いかにも切れ者な女性が立って、わたしの一挙手一投足に目を光らせているわ。
単なるメイドじゃないのは明らかね。
「この度は、遠方までご足労いただき、ありがとうございます。
わたくし、ミヤビと言うしがない商人でございます」
「頭をお上げください、色々な肩書きで呼ばれているわたくしですが、今は身分を明かしておりません。
ロレナーダと気軽に呼んで頂ければ嬉しいですわ」
「かしこまりました、やんごとなきお方に失礼かと思いますが、その様に呼ばせて頂きます。
それでロレナーダ様は如何なるご用向きで、この様な場所にいらしたのでしょうか。
タイミング的にもあまりよいとは言えないかと思いますが」
「今が一番手薄なのですよ。
王族が訪問する時には、訪問先は徹底的に消毒されますが、去ってしまえば、うるさい連中も潮が引く様にいなくなるので」
「さようでございますか、されど、やんごとなきお方が席を空けるのは問題ではないでしょうか?」
「ご心配には及びません、わたくしに好意的なお方が大勢おります、トリスタン子爵、ヘンダーリン子爵、カレンベルク男爵、あっ、そうそうホルストシュタイン男爵もですね」
品よく話しているけど、言っていることはとんでもない事よ、みんなわたしが身請けした貴族娘の実家じゃないの、わたしの事は全部バレているって事なの?
「ロレナーダ様はお耳がよろしいのでしょうか」
「すすり泣く声が、聞こえなくなったので、どうしたのかと心配していたのです、今もどこかで、すすり泣いているのでしょうか?」
ここは、どうやって答えるのが正解なの、相手は王族よ。
貴族の娘を攫ったと言いがかりをつけられるかもしれないのよ。
「はて、すすり泣くが、どの様な意味なのか、卑しい商人には理解出来ません。
されど、人は身分と言うくびきが解かれると、心自由になり、本当にしたい事をすると言われております」
「それは、良かったです、懇意にしていた者が下を向いているのを見るのは辛かったです。
友としてミヤビさんにお礼申し上げます」
「 …… 」
「そうそう、魔道列車、素晴らしいですね、馬が引かないのに走る車なんて素晴らしいです。
ですが、世に広めるつもりはない、と言ったそうですね」
「一切出さないわけではありません、急激な変化は社会に大きなひずみを生じます。
初めに技術ありきの姿勢ではなく、誰もが納得できる方法を考えております」
「大変、聡明で、なおかつ、大所高所から物事を見られる方ですね、ミヤビさんは」
「過分な評価ではないでしょうか?」
ここで、会話のラリーはいったん途切れた、二人とも、ぬるくなったカップを口に当てると、ガラス越しにナイトプールを観る。
カラフルな水着の女性達がはしゃいでいるが、声は聞こえて来ない、なんとも奇妙な空間だ。
口を開いたのは、ロレナーダ王女だった。
「女性達が、楽しそうに笑っていますね、誰もが笑える社会をつくるのが為政者の務めだと思いませんか?」
「申し上げにくいのですが、彼女たちの半分は娼婦でございます」
「素晴らしいではありませんか、娼婦でも笑って過ごせる社会ですよ」
「 …… 」
「ミヤビさん、政権の経済顧問になっていただけませんでしょうか?」
この王女、爆弾を落としたわね。
“政権の経済顧問”どの政権かを言わない、現政権、次期政権、次期の王は誰なの?
言わないわよね、言えないわよね。
あの、バカ王子を引きずり下ろすつもりなの。
現代知識を大盤振る舞いして荒稼ぎをするのではなく、少しずつ浸透させていくタイプです。




