第102話.テーマパーク
千葉県にある有名遊園地をモデルにしています。
ダールマイアー領の外れに造った娼館街、ただ買春宿を集めただけではなく、塀で囲って、江戸時代の吉原遊郭みたいなテーマパーク型の娼館街に。
その近くに女性向けの性欲処理施設を造ろうと、土地を確保し、造成工事まで進めたけど、色々あって頓挫していた場所に劇場を建設。
ヒルベルタが厳選した劇を上演したり、少女合奏団のブラッチェの合奏でホールを埋めるけど、一番の目玉は“絵ニメーション”ね。
だけど、劇場だけではお客さんをへき地に呼べないわ、ちょっとした遊園地を造ったの。
遊園地に大切なものは何かと訊かれたら、非日常と即答するわね。
馬車鉄道の駅を降りたら、ケーブルカーに乗り換えるのよ、たいした坂じゃないんだけどね。
夢の世界に入るための舞台装置だと思ってちょうだい。
お城をイメージしたエントランス広場、もちろん、あの有名遊園地を参考にさせてもらったし、キャラクターの着ぐるみも拝借しました。
おっと、これ以上は言ってはいけない、肉食系の弁護士が書類の束を持ってやって来るわ、あいつら権利問題なら異世界だってお構いなしよ。
巨大迷路やメリーゴーランド、ジップライン、回転する空中ブランコ、転生前の世界なら、5歳児が鼻で笑う様なセコイものなんだけどね。
特にジェットコースターは天然の斜面を利用していて、駆け足より少し速いくらいなのよ。
シートベルト? ナイナイ、必要ない。
のんびりしたジェットコースターは、演出で勝負よ、丘を下って加速したコースターは森に向かっていくのよ、そのまま林間コースを抜けると、池に向かうの。
もちろん、直前で曲がるのだけど、その頃には絶叫も最大級よ。
舞台裏は絶対に見せない事にこだわったし、従業員の教育も徹底したわよ。
足を運んだお客さんは、夢の世界にビックリするけど、実はとんでもない技術革新があるのよ。
園内を周回する、馬の要らない魔道列車。
動力は蒸気機関なのよ、言っておくけど、石炭なんか使わないわよ、炎魔石でお湯を沸かすのよ。
蒸気機関車ってどうやって走っているかと言うと、石炭を燃やして、お湯を沸騰させて、その圧力を回転運動に変えているのよ。
初めて聞いた時には、なんて原始的な方法って思ったけど、火力発電所や原子力発電所も基本は同じで、お湯を沸かして、その圧力を使っているの、知らなかった方が良かった知識よねぇ。
園内周回の車や、ジェットコースターを頂点まで引き揚げるとき、回転する空中ブランコにも、炎魔石の蒸気機関を使っているのよ。
ちょっと、頑張り過ぎたわたし、対象は都市に住む中産階級だったのだけど、貴族階級や王族にまで評判が届くようになってしまったのよ。
ヘルムフリート第一王子、唯一の男系嫡子は、王太子候補、つまり次期国王に一番近い存在。
そして彼は、下級貴族の娘を手篭にして、飽きたら親元に突き返す、そんな悪癖の持ち主よ。
ニンファやホライナ、ジョルナ、そしてルクレチア達の事を考えると、顔も見たくない存在だけど、ここはビジネスマンの顔をして、ご案内よ。
ほとんどダールマイアー伯爵が仕切っているけどね。
今はアニメ映画を観て劇場から出て来たところよ、もちろん王族だから、お付きの人も大勢。
「ダールマイアー伯よ、絵が動きだすとはまことに見事であったぞ」
「お褒めに預かり光栄でございます、殿下」
「この“絵ニメーション”とやらは、ここパラシオでしか、観られないのか?」
「いえ、ただいま領都のシタデルに専用の劇場を建設中でございます」
「そうか、余が許可する、王都にも“絵ニメーション”専用の劇場を造れ」
バカ王子の思いつきに追従する太鼓もち達。
「さすがは、王子、慧眼であらせます」
「王都の民草を思っての言葉は、必ずや皆の心に届くでありましょう」
ちょっと、思いつきでバカな事を言わないでよね、ここパラシオのテーマパークで上映して、人気が出なかったり、旬が過ぎたのを、領都に持って行くつもりなの。
“絵ニメーション”の存在を知らしめ、パラシオに来れば、最新作が観られます、と言う宣伝効果を狙っての事なのよ。
「失礼ですか、王子、それにはいささか問題があります」
普段は、自分の言葉が否定される事はない王子にダールマイアー伯爵がストップをかける。
「どうした、何が問題だと言うのだ、新しい技術を世に知らしめる、為政者として当然の事であろう」
「それに関しては、開発者の商人ミヤビに説明させましょう」
ちょっと、いきなり話し振らないでよね。
わたしは、最大限のお辞儀をして、語りかける。
「わたくし、ミヤビと申す卑しい商人でございます、聡明な殿下にご意見をよろしいでしょうか」
「うむ、許す」
「先程、王都にも“絵ニメーション”の劇場を造ると仰られました、時代の潮流を先読みした、鋭いご意見でしたが、今はその時ではないと、商人のミヤビは愚考致します。
まず、映像作品が少ないです、現在鋭意製作中ですが、多くの劇場に配給するには至っておりません。
劇場に対して作品が少ない状態では、経営者は作品の制作を急がせ、粗製乱造に繋がるのではないかと考えた次第でして」
「確かに、それはあるな」
「今は“絵ニメーション”の揺籃期でございます、充分な基盤が整った後に王都に持って行けば、聡明な殿下の威光も更に高まるのではないでしょうか?」
「そうだな、商人のミヤビよ、そなたの言うとおりだ …… 」
思ったよりあっさりと引きさがった王子、意外に聞きわけが良いのかしら? なんて思っていたけど、もっとバカな事を言いだした。
「 …… まぁ、民草の娯楽などよりも、大切な物があるからな。
ミヤビとやら、魔道列車も、そなたの発明で間違いないか?」
「わたくしが、在野の研究者に頼んで、製作させた物でございますが」
この流れで、わたしが発明しました、なんて言えないわよね。
「この、魔道列車を国中に走らせるのだ!」
「それは、素晴らしい考えでございます」
「もはや、荷馬車は時代遅れですね」
「我が国の未来は光に包まれております」
無責任な腰ぎんちゃくが王子をおだてているけど、これはダメよ。
「殿下、このミヤビ、発明者として、一言宜しいでしょうか?」
「構わんぞ、大勢の者に耳を傾ける事こそ、為政者の務めである」
「魔道列車を既存の馬車と置き換えるのはおやめ頂きたいです。
その様な事を致せば、大勢の失業者が出て来るでありましょう」
「なに、御者を魔道列車の運転手にすれば済む話ではないか」
「殿下、馬を飼うには厩務員が必要でございます、また飼い葉も買い入れねばなりません、影響は馬車ギルドのみならず、農家にも及ぶのではないでしょうか?」
「ミヤビとやら、そなた、なかなか思慮深いな」
「卑しい商人に過分なお言葉かと」
「そなた、余の妻になれ」
この言葉には取り巻き連中も、慌てふためいたわよ。
全力でお断り致します!
バカ王子、下半身だけで生きています。




