第100話.上納娘
デトックス、歴史を遡ると結構前からあったかもないですけど、とりあえずデトックスの無い世界と言う事で。
ドネッセラ奴隷商会に帰りついたわたしを待っていたのは、エステファニアさんだった。
「ミヤビよ、遅かったではないか、今日の午前中には着くと聞いておったぞ」
「これは、お待たせしてしまって、申し訳ございません、あの、お手紙呼んで頂けましたか?」
「うむ、デトックスとは、なんだ、初めて聞くぞ」
「そうですねぇ、人間は生活していると、身体の中に少しずつ毒が溜まっていくのですよ、特に病気でもないのに、調子が悪かったりするのは、この毒が原因でして。
それを取り除く施術を開発したので、エステファニアさんにいかがかと思って」
スラスラとよどみなく説明するわたしに、疑いの目つきをした美魔女さん。
だけど、体調不良に背に腹は代えられない。
「それで、幾らだ?」
「幾らと申しますと」
「しっかりしたお前の事だ、キッチリと請求書が来るのであろう、安心しろ現金で払ってやる」
「お金の話は、施術後で構いませんよ、気に入った金額を払って頂ければかまいませんから」
魔法陣の術を使って、ちょっと若返りの施術をしてあげようと思ったのだけど、金額までは考えていなかったわ。
○
従者もメイドもつけないで、二人で奴隷商会の地下室に下りて来たわたし達。
全裸になって、魔法陣の中に立つ娼館主はわたしが思っている以上に疲れていたわ。
全盛期は谷間クッキリのお胸、今は重力と言う魔物に負けて垂れてしまった、ここはもう一回天に向けてあげよう、ついでに脱色も。
ウエストを絞るのは当然として、お尻が迷うわよね、本人が大きい方を望んでいるのか、キュッと絞れたお尻が良いのか。
お顔はメイクで騙されているけど、皮膚のたるみは隠せないから、フェイスリフトしてあげて、肌も娘みたいなゆで卵みたいなイメージで。
それから、毛量が減って来ているから、髪のボリュームも、おっと二の腕を忘れていたわ。
そうそう、一番大切な部分も若返らせてあげないとね ……
変身の光が消えて出て来たのは、美魔女ではなく、普通の美女。
「おー、これがデトックスか、なんか身体が軽くなった気がするぞ」
「鏡をご覧になってください、身体の変化はないですか?」
わたしが白くて苦いお薬を飲んでいる間、姿見の前でボディをチェックしているエステファニアさん。
弾力の有るバストを持ち上げて質量を確認しているわ。
「うむ、身体は特に変わっていないのに、全身に力がみなぎる感じがするぞ。
上では現金で払うと言っていたが、すまん、工面するのでしばらく待ってくれんか?」
「そちらの都合の良い時で構いませんよ」
「さすがに白金貨はすぐには出せんわ」
「 …… 」
「そうそう、お前とヒルデライト広告が進めていた市民ホールの件だがな、今度は領主から横やりが入ったわ」
「今回はしっかりと、評議会に根回ししたのに、またですか?」
ちょっと複雑な行政機構の話をしておこうかしら。
この国は地区ごとに領主と言う貴族が治めているのだけど、ダ・デーロくらい大きな街になると、各団体からの代表からなる評議会が街の行政のトップになるのよ。
困るのは、評議会と領主の権限の線引が明文化されていないのよね。
普段の街の運営は評議会に任せているのに、時々口を挟んでグチャグチャにしていくの。
現役を退いた元社長が、役員となって、会社の経営に口出しする姿を想像してみて頂戴。
「色々と経緯があったのだがな、まぁ、ヒルデライト広告が女優を上納しろと言う領主の命令に逆らったのが、逆鱗に触れたらしい」
「あの社長とは懇意にさせてもらっておりますけど、清濁をあわせ飲む度量の持ち主ですよ」
「それが、幼い子役を上納しろと言われて、反旗を翻したらしい。
今回の件は、ヒルデライト広告に味方するぞ」
「わたしは、奴隷商人ですから、なんとかなりますけど、関わりたくないですね」
ここにもロリコンがいたのか、サキュバス美幼女リフリーを使えば、解決するかもし、れないけど、相手は領主よ、リフリーを自分の物にして返さない、なんて事を平気でするのよ、貴族って。
「なぁ、ミヤビよ、どうして、市民ホールにこだわるのだ?」
「ヤッパリ、娯楽を充実させたいからですよ。
芝居と言えば、街頭の辻楽士か、掘っ立て小屋みたいな芝居小屋しかないのですよ、そんな環境では良い役者は育ちませんって」
「ふーん、役者を育てるなら、ダ・デーロにこだわる事はないだろう、別の街ではダメか?
例えば、ダールマイアー領とか」
おっ、そうだよ、ダ・デーロにこだわる必要はなかったんだ、娼館街を作って大繁盛しているダールマイアー領に常設のホールを作ればいいんだ。
娼館に行くのは男性よね、女性向けの芝居を常設で見られる様に、そうなると方向性が問題よね。
イケメン男性を集めて、ミュージカルっぽくしてもよいし、“ずか”みたいに女性だけの芝居。
三つくらいチームを作って、いつ行っても違う演目が見られるのもいいかな、いっそ音楽専門学校を作って役者の卵を養成してみましょうか。
まてまて、ダールマイアー領には孤児院出身者ばかり集めたブラッチェの合奏団があったわよね、ホールが空いている時には彼女達の合奏も良いわよね。
まって、芝居と音楽、それだけじゃ何か足りない ……
「 …… ミヤビよ、考えはまとまったか」
気がつけば全裸のエステファニアさんが、両手を組んでわたしの前に立っている。
「ああ、すいません、早く服を着てください、すいません、わたし考え事をすると、他の事が御留守になっちゃうんで」
ダ・デーロの街は自治都市の設定でしたけど、領主からの影響も受ける、緩い自治と言う設定で。




