1章 6話 幼児期4
あれから一年経ち俺の知識はこの村では吸収できるものがなくなるほどになった。
月に一度村を訪れる行商人からは、将来徒弟として店に来ないかと誘われることもあった。素晴らしいことだが、俺には闇の女神教を立て直すと言う目的がある。闇の女神教を立て直したいことを伝えると、子供ながらに健気だと行商人は思ってくれたようだった。
俺の生活は順風満帆のように思えたが5歳になって少しした頃、闇の女神の教会はとても大きな問題を抱えることになった。
少ないながらもあった寄付金が目に見えて減るようになった。
と言うのも、助祭以上の職位の者がいないせいで闇の女神教の信徒は癒しや浄化の魔法を受けることができなかった。
長きに渡りそのような状況が続いてしまったせいで、信徒だった者が闇の女神教から離れていってしまったのだ。今までの生活でさえ苦しかったのに、これ以上にひどくなることをシスターたちは頭を抱えていた。
これは俺の失敗でもあった。4歳の時点で助祭であることを明かしていれば、闇の女神教を抜けた内の何割かは残ってくれたことだろう。
想像上の何かから圧力を勝手に感じて、助祭であることを内緒にしてしまったせいだ。
俺は助祭であることをシスター達に明かすことにした。しかし、助祭だと言うことを話すためにシスター全員に集まってくれることをお願いしたのだが、忙しいことを理由に集まってもらえなかった。仕方なく、俺にもっとも近い立ち位置のシスターリネットにまず話すことにした。
シスターリネットは15歳。世間としては成人として扱われる年になっていた。
当初、シスターリネットは俺の言うことを信じてくれなかった。5歳の子供が「実は助祭になった」と言われても信用できないのも当たり前かもしれない。この世界では、助祭と言えども成人してからなるものだと言う常識があるからだ。しかし、そんな俺を見るシスターリネットの目は優しかった。もしかすると、辛い状態に追い込まれている教会のためにそんなウソをついたと思われているのかもしれない。
俺は助祭であることを信じてもらうために、昨日指に切り傷を作ってしまったシスターリネットにヒールを掛けた。薄い光に包まれた指は、徐々に痕も残らないほど綺麗に治っていった。それを見てシスターリネットは驚き、そして俺を抱きしめた。
「ウィル君、すごいよ!
君は本当に助祭だったんだね!」
大人の力と言うものは恐ろしい。俺は孤児の中でも最も体が弱いので、リネットの抱きしめる力で息苦しくなり、言葉を発することができなくなった。
少しして俺の様子がおかしなことにシスターリネットが気づき、抱きしめていた手を離してくれたのだが、今後は気を付けないといけないと思った。
シスターリネットはすぐにこのことを修道士長に伝えに行った。
彼女から伝えてもらっても、修道士長はすぐに信じてくれなかったのでまたもや俺はヒールを使うことになった。
ヒールを使った俺に対し、修道士長はやはり驚きの目をしていた。そして、
「ウィル・・・いえ、ウィリアム助祭。
あなたは闇の女神教における唯一の明かりです。
私たちをお導き下さい。」
修道院長は跪きながら、顔の前で手を組み祈りを捧げていた。
遅れて、シスターリネットも同様に祈りを捧げてきた。
俺が助祭であれば、立場はシスターや修道士長より上になる。
修道士長をは祈りを捧げながらも未だ驚きの顔を隠せないでいたが、シスターリネットは祈りながら顔が喜んでいるのが見てとれた。
その日から俺の生活は変わった。
今までは教会内にある孤児たちと一緒の大部屋だったのだが、助祭専用の部屋が割り当てられた。
助祭専用の部屋と言いつつもこの教会には俺以上の職位の者がいないため、実質司祭が使う部屋をあてがわれている。
部屋は質素であったが最低限必要なものが全て揃っていた。インク、紙、封のための蝋等。
どんなに生活が貧しくなっても、シスターたちはこれを売ろうとしなかったようだ。
そして俺の服も普段来ていた麻の服から助祭の服に変わった。
助祭の服は白色の長いローブの上に更に色付きの服を重ねて着る感じのものだ。
しかし教会に残されていたものは当然大人用の物であり俺の丈には合わなかったので、裁縫が得意な修道士長が1日掛けて直してくれた。直してもらった服を手に取ると生地がやはり古く白色だっただろうローブは薄く黄色がかっていた。クリーンの魔法を掛けると少しだけ黄色味がなくなった。
鏡に合わせて着た姿を確認すると、丈は合っていたものの子供の助祭の姿と言うものはとてつもなく似合わないものだと思わざるを得なかった。
「すごくお似合いですよ。」
シスターリネットが俺の後ろで笑っていた。
俺が助祭であることを伝えた翌日から、シスターリネットは俺の傍付きのシスターになった。
5歳の子供ではできないことが色々あるのでその補佐をするためだ。
今回は着付けを手伝ってくれていたが、明らかに似合ってないのに似合ってると言うなんて言葉の選びが下手なのか、今まで育ててきた俺をやはりまだ子供と思っているのか、どっちだろう。
俺は必要以上のことはあまり話さないようにしていたので敢えて何も言わなかった。
助祭になった翌日、俺は村に住む闇の女神教の信徒たちに挨拶に行った。
やはりと言うべきか、助祭になった旨を伝え挨拶をすると誰もが俺を怪しんだ。
俺が村人の身であったとしてもやはり同じ態度をとった思う。助祭の恰好をした子供が現れて、新しく助祭になった・・なんて言われても信じられない。
怪我をしている村人にはヒールを、怪我をしてない村人にはクリーンの魔法を使うと、修道士長同様に俺に祈りを捧げてくれた。
その日中に闇の女神の村の信徒への挨拶はすでに終わった。挨拶と魔法をかけたことで、貨幣の寄付の代わりに野菜や雑貨を少量もらった。
俺の助祭としての物語はスタートした。




